6
5分位で話は終わり、さくらは反応を見たくなくて少しうつ向いていた。
すると、しばらく沈黙が続き、その沈黙を断ち切るように孫の勇次が口を開くのだった。
(勇次)「…それ、マジ…?」
まあ、当然の反応だろう、
(さくら)「冗談でこんな話ししないわよ…」
しかし、お婆ちゃんは勇次とは違ったようで、顎に手をあてて、何か考え込むように口を開くのだった。
(お婆ちゃん)「う~ん… 知っているかどうか分からないけど試してみるかねぇ… さくらちゃん?」
(さくら)「はい…」
(お婆ちゃん)「この神社はねぇ 稲荷神社だから商売繁盛の神様なんだけどの他にも「縁結び」としても有名なの。 何で縁結びなのかっていうとね……」
お婆ちゃんはおもむろに昔話を始めた。
大昔、この場所には二人の神様がいた、一人は女の神様、もう一人は男の神様、
二人はそれぞれ違う土地の神様だったが彼らは出会い、恋仲になった。
しかし、彼らは別々の神様、決して交わってはいけない。交わってしまったら、力と力がぶつかり災いをもたらしてしまうから、
災いをもたらさないため、「天の神」(あまのかみ)は二人を突き放すことにした。
そして二人を遠くへと引き離した。
二度と会えぬように、しかし、会えなくなっても、二人はお互いを強く想い続けた。
数百年後、その想いは力を生み、一本の桜を咲かせた…
(お婆ちゃん)「……その桜がこの華顔神社に咲いている一本桜、だから縁結びの木として人々は崇めた… と言うお話しなんだけどね?」
(さくら)「そんな物語があったんですか…」
(勇次)「俺は何十回と、ばーちゃんに聞かされてるけどな…」
(お婆ちゃん)「さて、ここからが本題。 本堂の横にある狐の石像、私達の神社は「左側が雌」「右側が雄」なんだけど… さくらちゃんの方の神社はどうか分かるかな?」
さくらは、自分の世界の石像を思い出してみた。
たしか、
「左側に子持ちの狐」
「右側は物をくわえた狐」
あの売店のお婆さんは「子持ちが雌」と言っていた。
つまり、
「左側が雌」
「右側が雄」
今いる神社の石像と同じだ。
(さくら)「…同じです」
(お婆ちゃん)「じゃあ「子持ちの狐」はどっち?」
(さくら)「左側の…雌の狐です」
(勇次)「!!…」
(お婆ちゃん)「……やっぱりね…」
(さくら)「何がやっぱりなんですか!?」
(お婆ちゃん)「私達の神社は右側… 雄の方が子持ちよ」
(勇次)「う、嘘じゃないよな?」
(さくら)「嘘じゃないもん!! だって……ほら!!」
さくらは鞄から狐のストラップを急いでとりだした。
さくらのストラップには左足元に子狐がいる。
(勇次)「……」
勇次は売店から、さくらのストラップと瓜二つの物を持ってきた。
しかし、さくらのストラップとは違い、それは右足元に子狐がいるストラップだった。
(勇次)「…え~と、これ作ってるメーカーって、こうゆうタイプもある…?」
勇次はさくらのストラップを指差してお婆ちゃんに聞くのだが、
(お婆ちゃん)「そんなわけないでしょ、「お稲荷さんの雄の右足元には子狐がいる」のは全国どこ行っても同じなんだから」
つまり、勇次の住むこの世界にさくらが持っているようなストラップは存在しないのだ。
ましてや、機械生産されているような形の決められたストラップに、こんな生産ミスがあるわけがない、
(勇次)「マジかよ…」
(さくら)「……これからどうすればいいの… 寝る所とか食べるものとか…」
(お婆ちゃん)「何言ってるの? ウチに住みなさいな」
お婆ちゃんはまるで当たり前のように平然と言うのだ。
これには、さすがのさくらと勇次も驚きを隠せなかった。
(さくら)「……え?」
(勇次)「……ばーちゃんマジ?」
(お婆ちゃん)「ここで会ったのも何かの縁、遠慮することないわ」
(勇次)「オイオイ…ちょっと待て、 コイツはなぁ、俺に助けられてお礼ひと!!!!」
さくらは、余計な事を言おうとしている勇次の足を、茶ぶ台の下から思いっきりつねった。
(勇次)「!!……!…いっつぅ…」
(さくら)「お婆ちゃん、ありがとうございます… だけど私は…」
だけど、どうするのか、
住むところを失ったさくらにはどうすることも出来ない、
(お婆ちゃん)「遠慮しなくていいのよ?」
(さくら)「でも…」
遠慮はしていても、さくらにとってこれ程ありがたい言葉はないのだろう。
その言葉に甘える以外の方法なかった。
(お婆ちゃん)「いいんだよ、困ったときはお互い様。 じゃあ勇次」
(勇次)「あ!?」
(お婆ちゃん)「さくらちゃんを家に送りなさい」
(勇次)「くっ…しょうがねぇ… おい行くぞ」
勇次は立ちあがり、そそくさと売店から出始める。
(さくら)「え? ちょっ、まちなさいよー!!」
さくらは勇次の後を追いながらも、売店を出る時にお婆ちゃんにお辞儀をした。
心のそこから感謝を込めて、精一杯のお辞儀を、
そして勇次の後を追うべく、走り出したのだった。
(お婆ちゃん)「ふふ… いってらっしゃい~」
外は日が暮れてすっかり暗くなってしまった。
勇次とさくらは電柱の街灯をたよりに、歩道を縦に並んで歩いていく。