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いやいや… そんなはずはない、あり得ないと、さくらは頭を振り払い、茫然と立ち尽くしている青年を突き飛ばして、登ってきた道を一目散に下って行った。




下って行く途中の道はやはり薄暗く、神社特有の雰囲気を醸し出している。


しかし、今のさくらにはそんなことを気にしている余裕はない、


とにかく外へ、


とにかくこの自分の感情を否定する何かを求めるために下って行く、



(さくら)「はぁ… はぁ… ゴホッ‼ゴホッ‼」



入り口の鳥居まで出た頃には、さくらの髪も呼吸も乱れ、むせ返り、それは酷い有り様だった。


しかし、何度も言うがそんなことを気にしている場合も余裕もない、


すぐさま鳥居の外へ、


明るく開けた道路へ飛び出した次の瞬間―



-キキィィィ‼‼-



道路を走っていた車と危うく接触しそうになった。


急ブレーキをかけ止まった車の運転手は、窓を開けて睨んだ顔でさくらに叫ぶのだ。



(車の運転手)「あぶねぇなガキが‼ 回り見て走れバカヤロ‼」



車はさくらを避けて猛スピードで走り去った。


車が走り去った後、さくらは腰が抜けたようにその場で座り込む、


頭の中は真っ白でなにも考えられない、


たが、反対側の歩道で、一部始終を見ていた女子高生二人組が、あからさまにさくらの事を話しているのが聞こえてくるのだ。



(女子高生)「…今のヤバかったよね?」



(女子高生)「本当本当、私、絶対轢かれたと思ったもん…でもあの子さぁ…」







そして、現実に引き戻すかのように、女子高生の一人がさくらを指差して、信じられない事を言った。







(女子高生)「あの子さぁ… 私達と同じ制服着てるけど、見たことなくない?」



「ありえない ありえない ありえない」


念仏のように頭で繰り返していると、後ろから男の声が聞こえる。



(青年)「おい‼ お前なにやってんだよ道路のど真ん中で‼」



どうやら「一本桜」のところで出会った青年が、挙動不審なさくらを心配して入り口まで様子を見に来たようだ。


しかし、さくらはあることに気付いた、


顔に見覚えのない彼もまた、さくらと同じ高校の制服を着ていることに…



(さくら)「……あんた誰…? 何でわたしとおなじせいふくをきてるの…?」



(青年)「何でって… 言われて見ればお前俺と同じ制服着てるな、俺「二年」だけど見たこと…-」


(さくら)「私だって「二年」よ…‼」




決定的だった。


「同じ場所だが違う場所」


いわゆるパラレルワールド(平行別世界)にさくらは来てしまったのだ。



(青年)「お、おい… 大丈夫か…?」



(さくら)「ど、どうして? これからどう…すれば…」



(青年)「……」


(なんかただ事じゃないな…)



(青年)「と、とりあえずさ、上の売店に来ねぇか? 俺のばーちゃんが働いてるし、少し休めるぞ?」






(さくら)「……」






(青年)「おい…?」



訳の分からない事が多すぎて、さくらは放心状態だった。



(青年)「……しょうがねぇ、 このままほっておけねぇしな…」



仕方なく青年はさくらを背負い、上の本堂の売店に連れて行った。












気を失ってから何分経っただろうか、



(さくら)「……ん…」



(?)「おや? 目を覚ましたみたいだね」



目を覚ましたさくらは、聞き覚えのないお婆さんの声を聞き、上体を起こして周りを見渡すと、


そこは5畳ぐらいの和室の部屋で、さくらには布団がかけられていた。


隣の枕元には、白髪頭のほっそりとした上品そうなお婆さんが正座をして座っている。



(さくら)「ここは…?」



(お婆ちゃん)「華顔神社の売店だよ。 具合は大丈夫かい?」



(さくら)「え、えぇ… 大丈夫です。 ありがとうございます…」



(お婆ちゃん)「そうかい、それは良かった、じゃあ、お茶でも飲もうかねぇ……おい勇次やー」



(勇次)「あ?」



障子を開け、さっきの青年が顔を出した。


オレンジ色の夕陽に照らされる障子の向こう側は、お守りやストラップの売店になっている。


さくらが今いるところは、一本桜に行く途中で立ち寄った、売店の裏側と言ったところか、



(お婆ちゃん)「お茶飲むからあんたも来な」



(勇次)「えっ? 店番は?」



(お婆ちゃん)「こんな平日の夕方にお客なんか来やしないよ」



(勇次)「…分かった」


(じゃあ何で店番やらせたんだ?)



お婆ちゃんは、立て掛けてあった茶ぶ台を部屋の真ん中に置き、3つの茶碗にお茶を入れていく、


最後に真ん中へ菓子箱を置き、その場に座り込んだ。


それを確認したさくらと青年も、茶ぶ台を囲むように座り込み、お茶をすする。



しばらくお茶をすする中、さくらは僅かな可能性に賭けてお婆ちゃんへと質問をし始めた。



(さくら)「……あの、少し前に私に会わなかったですか?」



(お婆ちゃん)「いいえ、あなたに会ったのは今が初めてで、勇次以外に人には会ってないわねぇ」



当然の答えが帰って来た。


確かに、前に売店で出会ったお婆ちゃんは白髪頭だったが、髪形も違うし、体型も違うし、もとより顔が全く違う、


ならば…



(さくら)「その時他の人が売店で働いてたとか…」



(お婆ちゃん)「確かに、私以外の人も働いているけれど、今日は私しか居ないはずよ」



やはり駄目だった。


僅かな可能性に賭けたのだが、余計に現実を突きつけられただけで、


こんな妙な質問をすれば、変な娘と思われるだろうが、さくらはなりふり構っていられないのだ。



(お婆ちゃん)「さて、と言うわけで、まずは自己紹介しなきゃね」



お婆ちゃんは「ポンっ」と顔の横で手を合わせ、優しい笑顔で自己紹介始めた。



(お婆ちゃん)「おばあちゃんの名前は「田村 登三子」(たむら とみこ)この子は私の孫「田村 勇次」(たむら ゆうじ)あなたの名前は?」



(さくら)「あ…、「青井さくら」です」



(お婆ちゃん)「さくらちゃんね。 じゃあさくらちゃん、何があったか聞かせてくれる?」



(さくら)「……は、はい…」



さくらは「前にいた世界の事」


「どうやってこの世界に来たか」を自分のできる範囲で細かく説明した。


信じてもらえるとは思っていないが、事実を話す以外にはない、


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