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桜だ、一本だけの桜が満開に咲き広がっている。


紙吹雪のように花びらを散らせ、風に揺らぐその桜はあまりにも神秘的だった。



(さくら)「す…ごい…」



桜に近づくと、根のところにベンチがあり、そのベンチの隣に看板が刺さっている。


看板には「一本桜いっぽんざくら」と書いてあり、その下には、


「この桜の特徴であるコブに触れていだだくと…」


その続きは汚れててよく読めないが、まあ、神社内にある「触れていだだきますと…」系は、だいたい「ご利益がありますよ」に行き着くものだ。



桜の横まで来ると、そこから見晴台のようにいい感じに町並みが一望できる。


高さがないせいか、特別景色が良いとまではいかないが、けして悪くもない、しばらく桜に手を当てて眺めていると、触れている手が桜の幹とは思えない丸い物に触っていることに気がついた。


それはこの桜の特徴の一つであり、ご利益があるであろう神聖な桜のコブだった。


高校生にもなってご利益など信じるわけではないが、まあ触っといて損はないだろうと、一応、撫でるように触っておく、


そして、一通り触り終えたさくらは、看板横のベンチに腰かけることにした。



(さくら)「まぁいいわ、ここでお弁当食べよ、けっこう良いところみつけたわ~ 人も居ないし…」



さくらはベンチに座り、上機嫌で鞄の中にある弁当をとりだした。


そして弁当を膝の上に乗せて箸を持ち、蓋を開けてひと口ネギ味噌弁当を食べる。



(さくら)「んん~ッ‼」



やはり、素晴らしい光景の中で食べる弁当は格別で、さらにもうひと口食べようとしたとき、


また桜の花びらがヒラヒラと目の前に舞ってきて、そのまま弁当の上に落ちてきたのだ。


さくらはその花びらを手にとり、入口で拾った記憶の花びらを思い出してみた。



(さくら)「やっぱりこの桜の花びらね、この濃いピンクは絶対そう…だ…わ……」



だが、その時だった。


さくらは目の前の異変に気がつく、



暗い、暗いのだ。


さっきまで照らしていた太陽が、風で揺れる木々に隠れて暗いのは分かる。


しかし、それにしては暗すぎる。



(さくら)「…ほ、ほかの場所で食べようかな…? なんか急に気味悪いし…」



ここに来る前に感じていた気味悪さ、それが自分の体の中で大きくなっていくのがさくらにはわかった。



急いで弁当の蓋を閉じ、袋にも包まず鞄に入れて逃げ出すようにベンチを立った次の瞬間、


さくらにまた強風が吹きつけた。



‐ゴオォォォォ!!!‐



しかし、今度の風はさっきまでのとは比にならないほど強く、いつまで経っても吹き止まない。



‐ゴオォォォォ!!!‐


(さくら)「なんなのよこの風!!!」



あまりの強風に目が開かない、前に進もうにも進めない、


むしろ、さくらの体は風に押され後ろへと下がって行く、


いや、風に押されると言うより、重力が下から横になっているんじゃないかと思わせるぐらい地に足がつかない、


それでも前に進もうと気合いを入れて目を開けた瞬間、さっきまで隠れていた太陽がさくらを照らした。




(さくら)「!!…ま…ぶ… あ!!」




いきなりの眩しさにさくらは力が抜け、思わず後ろへ下がってしまい、後ろにあったベンチに足を引っかけ、そのベンチごとバランスを崩してしまった。



(さくら)「きゃあ!!」


(ヤバい…桜にぶつかる!!)









(さくら)「……え!?」



体は相当倒れているはずなのに、桜に当たる感触がなかった。


いや、それどころか、さくらの体は大きく開いた桜の中の暗闇に入り込んでいたのだ。



(さくら)「!!… !!…」


(は、早く出ないと…!!)



出口へ必死に手を伸ばすが、転んで勢い付いた体は止まらない。


体が全て入り落ちた瞬間、


瞬く間に桜の口は閉じて視界は真っ暗になってしまった。











‐ドカッ!!!‐



(さくら)「ふぎゃ!!」


(?)「ぶぇ!!」



いきなり明るいところに出たと同時に、暖かくて柔らかい何かに顔面がぶつかった。


そのおかげか、さくらは痛さを感じることなく起き上がることが出来た。



(さくら)「…何なのよいったい‼……ってあれここは?」



さっき居た場所と全く変わりがない、照らす太陽を見るところ、時間も変わりないように見える。


だが、何かがちがう…


言葉では言い表せないなにかが…




(?)「っ…いって~… 何なんだよ一体!? いきなり人に飛び込んできやがって!!」



先程はさくら以外に誰もいなかったはずなのだが、さくらのすぐ横で、自分と同じ年と思われる青年が、頭を抱えながら起き上がった。



(さくら)「うるさい!!!」



苦手と言うか、嫌いと言うか、


とにかく男なのでさくらは遠慮なく黙れと言う、



(青年)「う、うるさいって… なんて女だ。テメェ!!俺が避けてたら顔面にヘッドスライディング決めて…」


(さくら)「ねぇ!!!」



(青年)「はイ?」



青年も負けじと応戦しようとするが、さくらの言葉で止められてしまった。


そして、そのさくらは胸に引っ掛かる違和感を払拭すべく、青年に質問を繰り返し始めた。



(さくら)「ここはどこ!!」



(青年)「……いや、桜居町さくらいまちの「華顔稲荷神社」だけど…」



(さくら)「年は!!」



(青年)「17…」



(さくら)「アンタじゃない!!! 西暦よ!! セ・イ・レ・キ!!」



(青年)「……平成~年… 20~年だけど?」



(さくら)「同じ… そんなはず無い!! だってこの感じ……は!!」



さくらは、目の前の桜の違和感に気がついた。


あの神聖なコブが無い、


いや、コブはあるのだ、さっきついていた位置とは反対側に、


というか、この桜だけ鏡写しみたいに表裏反対になっているではないか。



(さくら)「な…んで…」



さくらはすぐさま桜の横から町を見下ろした。


風景は、さくらが先程見た町並みと全く変わりが無いように見える。


しかし、風が、空気が、さくらの五感全てが違うと言っている。


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