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(さくら)「…なぜに?」
軽くツッコミを入れながら鳥居を過ぎると、その瞬間にまた風が吹き抜けた。
‐ヒュウゥゥゥゥ!!‐
(さくら)「くっ…」
舞い上がる砂ぼこりに思わず目をとじるさくら、風が止み目を開けると、その目の前に濃いピンク色の花びらがひらひらと一片落ちてきて、
その落ちた花びらを拾いまじまじと見てみると、それは春の代名詞である桜の花びらだった。
(さくら)「外から見た時は桜なんて無かったのに…」
桜を探して回りを見渡すと、奥に石で積まれた階段があり、入口の鳥居よりも一回り小さい「赤い鳥居」がずっと上まで並んで目に付く、さっき外から見た連続して並んでいた鳥居が、この赤い鳥居なのだろう、
さくらは誘われるように石の階段を登り、上へと向かって行った。
しばらく間その長い階段を登ると、外から見えた建物にたどり着く、
その建物の入り口横には、狐の石像が2体並んで祀られていて、どちらも同じ石像というわけではなく、左側は子持ちの石像で、右側は何か巻物みたいな物をくわえた石像だ、
そんな理由も意味も分からないような石像を横目に見つつ、さくらはさらに建物へと近づいて中を覗くと、中はまるで学校の廊下のように奥まで続いている。
あからさまに入って良さそうな建物なので、妙な高揚感と冒険心を胸に中へと足を踏み入れた。
-コトッ… コトッ…-
床板一枚で並べられている上にその下は崖なので、歩くたびに独特の足音が鳴り響く、木造の廊下のように「ドスドス」という重い音ではなく軽い音だ。
(さくら)「すごい… 本当に崖に立ってるんだ… ん?」
ふと右を見ると、お守りやストラップを並べている売店があるのだが、商品は置いてあるくせに売店には誰も居ない、
それをいいことにさくらは、目についた白狐のストラップを気軽に手に取った。
(さくら)「この狐のストラップ可愛いな~…」
(?)「何か欲しいのかい?」
(さくら)「うわぁっ!!」
誰も居なかった売店に白髪頭のお婆さんがいきなり現れ、驚いたさくらは思わず後ろに退く、
(さくら)「さ、さっきまで誰も居なかったのに…」
(お婆さん)「あぁ~… さっきまで床で寝てたからねー… 隠れて見えなかったんでしょう、それよりそれ…」
「さっきまで床で寝てた」と言いはるズボラそうで少しふくよかなそのお婆さんは、さくらが両手で握っている狐のストラップを指差した。
(さくら)「あっ!! ご、ごめんなさい!! 別に盗ろうとしたわけじゃ…」
(お婆さん)「その狐ね、この「はなづらいなり神社」の神様の使いなのよ、ほら、本堂の横に石像があったでしょ?」
(さくら)「は…はあ…」
そこからお婆さんは、マニュアル通りの台詞と思わせる淡々とした口調で稲荷神社の説明をしていく、話をまとめると…
稲荷神は豊穣の神であること、
狐は神様ではなく、神の使いであること、などなど…
何百回と参拝客に説明しているのだろう、噛むことも途切れることもなく話していく、
(お婆さん)「華麗の華と顔面の顔と漢字で書いて「はなづら」と読むんだよ?」
(さくら)「え? あはは…」
華顔神社の読みづらさを知ってか、そんな事までも説明してくれた。
(お婆さん)「お嬢ちゃんが持ってる狐は子持ちだから雌の方ね。 こっちが雄の方」
そういってお婆さんは雄の方のストラップを手にとって見せた。
そして、そのストラップをさくらの手に渡すのだ。
(お婆さん)「平日にお客さんが来るなんて珍しいからねぇ~ これもあげるよ」
(さくら)「あっ! じゃあお金…」
(お婆さん)「フフ… いらないわよ。 おばあちゃんからのプレゼント」
(さくら)「あ、ありがとうございます…」
(お婆さん)「一個はお嬢ちゃんの大切な人にあげるといいわ、 いつでも心が通じ合えるおまじないよ。 お嬢ちゃんはボーイフレンドとかいないの?」
(さくら)「ハハ… いないデス…」
(お婆さん)「あら、お嬢ちゃん可愛いのにねー… この華顔神社はね「縁結び」の神社としても有名なの」
(さくら)「へぇー…」
(地元に住んでるけど知らなかったわ…)
(お婆さん)「まだ上へ行く道があるから行ってごらん、一本だけしかない大きな桜があるから、今が満開に咲いていてキレイよ」
(さくら)「一本だけしかないんですか?」
(お婆さん)「そう、一本だけ 「一本桜」って名前なんだけどね。それが「縁結びの木」だから、今日は誰も来てないから静かだよ」
(さくら)「…弁当食べるにはベストだわ…」
(お婆さん)「なにか言った?」
(さくら)「い、いえ なんでもないです… じゃあ行ってみます!!」
(お婆さん)「行ってらっしゃい 良い縁があることをね」
(さくら)「ハイ!! ありがとうございます!!」
さくらはお婆さんに一礼し、その「一本桜」へと向かっていった。
建物を出て右側がさっき登ってきた階段、左側にはまだ上へ向かう薄暗い道がある。
さくらは少しばかりの気味悪さを感じたが、気にせずその「一本桜」へと向かう左側の道を登り始めた。
(さくら)「……」
上へ登るにつれ、周りの木々が日を隠し、徐々に暗くなっていく、しかし、道を登りきるとそんな事は無かったかのように太陽が顔を出した。
眩しさに目を細めるさくらだが、その目を開けると目の前にピンク色の光景が広がっていた。