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(ミチコ)「さくらぁ~?」



(さくら)「!! なななっ何!!?」



とても女子高生の弁当とは思えない姿に言葉を失っていると、横からミチコがいきなり現れた。


さくらは弁当の中身を見られまいと、蓋を勢いよく閉める。



(ミチコ)「いや、今度の日曜の事なんだけさー 農業科の男友達も誘っていいかな?」



平然と喋るミチコの様子を見てさくらはひと安心したが、ミチコの「男友達も誘っていい?」と言う言葉に、思い出したように拒否反応が身体中を襲うのだった。



(さくら)「別校舎の男なんて絶対、イヤ!!」



さくらの高校は「北桜居総合高等学校」と言い、普通科と農業科がある。


授業内容が全く違うので校舎は別々なのだ。


部活でもやっていない限り触れ合いはほとんどない、「ウォークラリー」と言う行事は、そういう事もあってのふれあいの行事なのだ。



(ミチコ)「……まぁ、そう言うと思ったけど… さくらは楽しい事とか見つけた方がいいよ? 男子と付き合ったりとかさ、せっかくの華の女子高生生活なんだからさ~…」



ちなみに、さくらの容姿はけして悪くない。


体型は小柄で、少しだけツリ上がった大きい瞳、腰まで伸びたストレートの長い黒髪は、前髪の右側だけヘアピンで止めてある。


一見すれば「かわいい女の子」だ。



しかし、性格に難がある。


さくらは幼い頃に父親を亡くし、異姓と接する機会が少なかった。


そのため、さくらは男子に自分をさらけ出して話すことが出来ず、暴力的な態度をとってしまう…



…と、言うのは建前で、本当は違う理由があるのだが、それはまた別の話で話すこととする。


そしてもう一つの難は、


さくらは低血圧で朝に弱く、可愛らしい大きな瞳は殺気を孕んだ目に変わる、「チンピラさくら」の出来あがりだ。


これでは彼氏なんて出来るわけがない。



(さくら)「付き合うって… ミッチーだって彼氏いないじゃない」



(ミチコ)「私はイイの!! 部活が彼氏なんだから、私が言ってるのは、「やりたい事とか楽しい事とか夢中になれる事」を見つけた方がいいんじゃない?ってこと」



(さくら)「……やり…たい…事…」



(ミチコ)「もう高校2年なんだから進路も近いしさ、じゃあ、私 ミーティングあるから、またね!!」




(さくら)「……やりたい事か…」



ミチコが去ったあと、さくらは顔に手を掛けて窓から外を眺めた。


真下は来客用の駐車場になっていて、脇には桜が並べて植えられている。



今日は天気がやたらいいからか、その桜の下で飯食ってる奴らがやたらと多い、


逆に教室の中は、ミチコみたいに新入部員を交えた部活のミーティングがあるのか、はたまた、近日開催されるウォークラリーの実行委員会の手伝いでもさせられているのか、いつもより妙に人が少ない、


だからと言うわけではないが、さくらは暇をもて余して外を眺めている自分が、世界に一人取り残されたような気持ちになった。



これが「ぼっち」の気持ちというやつだろうか…



(さくら)(…いや‼ 断じて「ぼっち」ではない‼)



男子を寄せ付けない性格が相まって、さくらは女子からはやけにモテる方である。


ただ、そういう子達はさくらを「もてはやす」ばかりで、ミチコのように同じ立場、つまり「対等の友達」で居てくれる女子がいないのだ。


そういう事を考え始めると馬鹿らしくなるので、すぐに「フンッくだらない…‼」と言葉を吐き捨て、さくらは箸を手に持つが、


結局弁当には手をつけず、箸をそのまま置いた。






時は放課後になり、帰る前に体育館へと立ち寄った。


そこには自分のやりたい事を見つけ、夢中でバスケの練習に励むミチコの姿があった。



(さくら)「……」


(何で あんなにキラキラしているんだろう…)



さくらにはやりたい事や夢中になれる事が無い、つまり夢や目標がないのだ。


進路だって考えた事も無い、


さくらは下校するカップルや、グループの人達へと目を向ける。



(さくら)「……私ってさみしい女だわ… 一人とぼとぼ下校して…」



ミチコの言った通り、恋愛の一つでもしておけばなにか変わっただろうか、それとも、部活でもやればなにか変わるだろうか、


また考え出すと馬鹿らしくなってくる。



(さくら)「私にだってやりたい事や目標があれば……あっ‼ 私にも目標があった‼ 今日は雑誌の発売日だ‼ 絶対発売日に買わないと‼」



何を叫び出すかと思えば何とくだらない目標だろうか、もはや目標と言えるのかも分からない。



(さくら)「それより腹が空いたわ、コンビニで雑誌ついでに何か買って…」



(さくら)「……」



叫び出したかと思えば今度は黙りこみ、そして、何かを思い出したかのように鞄を外側から触り出した。



(さくら)「……あっ!…… 弁当!!」



昼に手をつけなかった「ネギ味噌弁当」が、鞄の中に残っていることを思い出したようだ。



(さくら)「朝も残して昼も残すとお母さんうるさいしなぁ…」



かと言ってどこかに捨てるのも忍びない、となると、自分の胃袋に叩き込む以外に方法はないのである。



(さくら)「公園で食べようかしら……いやっ!! 誰かに見られる可能性が…」



学校に立ち止まっていても仕方がないので、とりあえずさくらはコンビニで目的の雑誌を買い、家に帰りながらの道中で弁当を食べられる場所を探す事にした。


本来は学校近くの商店街からバスに乗り、そのまま家近くまで帰るのだか、今日はその商店街を通りすぎて歩いていく、諦めがついた時は途中のバス停で乗り込み、帰れば良いのだ。


そう心に言い聞かせ、帰り道を歩き続ける。


しばらく歩いて2キロ弱ぐらいの場所に来ると、歩行者用の細くて赤い橋と、自動車用の大きな橋が平行してかかっている川に着いた。



(さくら)「この橋バスで毎日通るけど、よく見るとけっこうボッロイわねー…」



そうつぶやき、赤い橋を渡る途中から、下を流れている川を覗いたその時、



‐ビュウゥゥゥゥ!!!‐



川下から川上に向かって強い風が吹き抜け、その風を避けるために、川上の方へと体を向けた。


すると、強い風で葉を揺らしている木々の奥に、崖に立っている建物がさくらの視界に入ったのだ。



(さくら)「……なに? あれ…」



その建物は崖から飛び出していて、地面の無い床下からは、長い柱が地面に向かって伸びている変わった建物だった。


例えるなら、「清水の舞台」のような造りと言えばイメージが湧くだろうか、木々が邪魔をしてよく見えないが、その建物に向かう道に「赤い鳥居」のような物が見える。


鳥居があるということは、あの建物は何かの神社ということになる。



(さくら)「あんなところに神社があったんだ…」



神社を見て何を思ったのか、あごに手をあて考え込むさくら、


まさかとは思うが、そのまさかだった。



(さくら)「……ヒマだし、いってみようかしら、人も居なそうだし… 気兼ねなく弁当も食べられそう」



ほとんどの神社には、参拝客のためにベンチが所々に併設されているものだ。


神聖な神社境界で弁当を食べるのも気が引けるが、かと言って食べてはいけないというルールもない、神社によっては一部の土地を公園として開放しているなんてのもざらにある。


さくらは逆にそこを狙ったのだ。



こんな田舎神社に立ち寄る物好きな高校生もいないだろうし、


ましてや熱心な信仰信者もいないだろうし、



つまり人の来ない神社は、隠れて弁当を食べる場所に最適だったのだ。



そうと決まればさくらの行動は早い、


さくらは赤い橋を渡りきってすぐの横断歩道を渡った。


そこからが神社への入口だったからだ。







だが、この寄道が間違いだった。




このあと、さくらは文字通り「天地がひっくり返る」出来事に巻き込まれる。


それはさくらの人生にとって、


悔やんでも悔やみきれず、忘れようにも忘れられない出来事になってしまうのだった。







かくして、横断歩道を渡りきったさくらの前に、石で出来た大きな鳥居が現れた。


その横には錆びついた看板がある。



(さくら)「…はな…かお…いなり…じんじゃ…?」



錆びついてよく見えないが、「華顔稲荷神社」と漢字で書いてある。


そんなことを気にしてもしょうがないので、無視して中へ進もうとすると、「石の鳥居」の次に「赤い鳥居」が現れた。


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