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第1話 「さくら木一本道」



春の暖かい風が頬を撫でる。


その風に揺られ桜が舞散る。


問いかけるが桜は何も応えない、

ただ、ゆらゆらと美しく儚く舞散るだけだ。


今この美しい光景を目にとどめておこう、


後で後悔するのは嫌だから、








第1話

「さくら木一本道」



春の朝、閑静な住宅街の角に建つ家、


そこの二階で眠っていた、黒髪ロングが特徴的である少女の目が覚めた。


今までとなんら変わりない朝ではあるが、唯一変わったといえば、今まで肌寒かった朝が、今日はやけに春らしい陽気な事だけだろうか、


その暖かさにあてられて、少女はなんとも言えない幸福感に浸っていると、下のリビングから、朝食の準備をしている音が耳に入ってくるのだ。



(母)「さくら!!今日はちゃんと朝めし食べていきなさいよ!!」



朝食で使うネギでも切っているのだろうか、小刻みな包丁の音とともに、二階に居る少女の名を呼ぶ。


呼ばれた少女の名前は「青井さくら」


この物語のヒロインであり高校二年生の女の子だ。


そのさくらは重くて開かない目を擦り、大きなアクビとともに二階から降りてきた。



(さくら)「……眠いのにご飯なんて食べらられないワぁぁ…」



(母)「アンタねぇ… 1日二食なんて続けてたら太るわよ?」



さくらはソファーに座り、リモコンでテレビの電源を付け、4チャンネルに回す。


とくに面白いテレビが朝からやっているわけもなく、ただ、朝は4チャンネルと体に習慣つけられているので、自然と、いや無意識に指は4チャンネルを回してしまうのだ。



(母)「あと「ベ○ータ」の髪形直しておきなさいよ?」



母親が台所から振り返らず言う、


寝ぐせのついたさくらの髪は、地球の重力を無視して上へと伸びているからだ。


髪型だけみれば確かに「エリート戦士ベ○ータ」である。


だが、青井家ではこれがいつもの光景であり、もはや母親も見るまでもないのだ。


そんな事はさておいて、母親はエプロンを机の上に置き、朝食を詰め込んだ弁当を持って、小言を言うためにリビングに向かうのだった。



(母)「まぁ…あなたが食べない朝食はあなたのお昼のお弁当になるわけですけど、でもねぇ……」



グチグチと話す母親の言葉を無視して、さくらは机に常備されてあるクシを手に取り、上へ上へと伸び上がった長い髪をかき下ろしていた。


小言を言う母親に口を開くのも眠くて面倒くさいのだ。


そして、これまた机に常備されてある鏡で髪形を確認したさくらは、ソファーから立ち上がり、制服がある隣の部屋のクローゼットの前で制服に着替えた。


そのまま洗面所へと向い、歯を磨き、またソファーで登校の時間をボー…と待つ、



(母)「じゃあさくらー 弁当は机の上に置いてあるからー お母さんもう行くから鍵よろしくね‼…あと、お父さんに線香あげてくのよ‼」



バタバタと玄関で靴を履きながら叫ぶ母、朝から忙しないものだ。



(さくら)「ハイは~い…」



‐ギィィー… バタン‼‐



母親が去った後、言われた父親の仏壇を横目に見るが、さくらは線香に手を伸ばすことなくカバンを肩に担いだ。



(さくら)「……あたしもそろそろ出よ…」



そして、住宅街の外れにあるバス停へと向かって行くのだった。





そこからバスに乗り込み、20分ほどで高校近くの商店街のバス停で降りたさくらは、その高校へと向かって商店街を北へと歩いて行く、


空は雲ひとつ無い快晴の下、目を細めて睨みを効かせ、中腰でヨタヨタと歩く「華の女子高生」ことさくら、


眠いとはいえこれではまるで「チンピラ」だ、心なしかさくらの周りを人が避けているように見える。



‐バチィィィィンッ!!!‐



(?)「おはよう!! さくらぁ~!!」



その近寄りがたい「チンピラさくら」に、平然と背中を叩く勇気ある女子高生が現れた。


彼女の名前は「ミチコ」


さくらとは一年からの友達であり親友である。


また、朝は必ずさくらの背中を叩くのが習慣らしく、バスケ部で鍛えた腕力から出されるビンタは強烈で、それはさくらを本気で怒らせたこともある。


だがやめない、


なぜかやめない、


ヘラヘラとするばかりである。


と言うわけで今日もビンタを食らったさくらは、あまりの痛さに背筋をピーンと伸ばしていた。



(さくら)「ミッチー… 痛い、 背中が…ヒ、ヒリヒリと…」



(ミチコ)「あはは~(笑) さくらが悪いんだよ?さくらの背中がちょうど、ジャストミートゾーンだったからさぁ~」



(さくら)「……えっ何? 私が悪いの? 私の背中が悪いの? 私の身長が低いと言いたいの?」







(ミチコ)「……ん~…全部?」


(さくら)「チェストォおぉぉぉぉ!!!!」



さくらはミチコの頭部に強烈な空手チョップを決めた。



(ミチコ)「痛!! いった~… 何すんの~…」



(さくら)「これでおあいこでしょ? それよりミッチー こんな時間に登校してくるなんて珍しいね。部活はどうしたの?」



(ミチコ)「ん? んああ~… 部活はねぇ、今日は朝だけ休みなんだ~」



(さくら)「へー… 平日でもバスケ部って休みあるんだ。でも朝だけ休みじゃなぁ…」



さくらはあからさまに寂しそうな顔をする。


何故ならば、さくらと「対等に友達」と呼べる人間はミチコしかいないのだ。


ミチコにフラれれば、さくらの放課後や休日は一人で過ごすことになる。



(ミチコ)「そんな寂しそうな顔しないで~ 明後日の日曜は完全オフだからさ、どっか遊び行こうよ!!」



(さくら)「うん!!」



(ミチコ)「さぁ!! 学校に向かいますか!! 今日は午前中はずっと体育だから楽だぞー!!」



叫びながらいきなり走り出すミチコ、



(さくら)「ちょっ 待ってよミッチィー!!」



追いかけるようにさくらも走り出すのだった。



‐キーンコーンカーンコーンー……‐



時間は流れ、午前の授業を終えるチャイムが鳴り響き、昼休みの時間となった。


ちなみに、午前中が丸々体育だった理由は、


近々「全科合同新入生歓迎会」と言う名の地獄のウォークラリーがあり、コースの確認とチェックポイントの周知を兼ねた、事前のコース回りをしていたからだ。


そのおかげで、朝から何も食べていない腹はいい感じに減り、さくらはすぐさま机の上に弁当を置いた。


実は、さくらの中で密かな楽しみになっている「弁当の中身」 朝ご飯のメニューがそのまま弁当の中身となっているのだ。


さくらは期待をふくらませて弁当の蓋を開けた。



(さくら)「……」



まさに絶句だった。



(さくら)「……ネギと…味噌?…」




つまりネギ味噌である。


弁当の中へ大雑把に詰められたご飯の上に、ネギ味噌がこれまた大雑把に乗っている。


母親の手抜きによって作られた弁当の姿は、さながらドカベンと言うのにふさわしい。




(さくら)「……」


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