俺と妻の欠点生活
俺の名前は加藤 洋。25歳、既婚者だ。
職業は、トラックの運転手をやっている。
仕事を終え、自慢の愛車で帰宅している途中なのだが。早く帰らなきゃならない今日に限って、珍しく渋滞にハマっている。
「普段、渋滞するような道じゃないんだけどなぁ。こういう時は、クラッチがついてるスポーツカーは辛いな」
好きな車の文句を垂れながら、車内にあるデジタル時計を見ると、19時32分と表示されている。19時に仕事を終えて、妻に19時40分には着くと連絡をし、19時10分には会社を出た。しかし……。
「こりゃ40分には着かねーな。帰ったらブーブー言われそうだな」
結局、普段なら30分あれば帰れる道を、50分かけて帰宅した。
マンションに着くと、手慣れた動作で駐車場に停める。荷物を持ち、エンジンを止め、車から出て鍵を締める。
「今日もお疲れさん」
愛車との別れ際に、この言葉を言うのが日課になっている。
駐車場を離れて、エレベーターに向かうとちょうど1階に来ていた。いつもは信じていない神様に感謝しつつ、ボタンを押して乗り込んだ。17階のボタンを押し、扉を閉めるボタンを押す。上に着くまでに、いつも思うことがある。
ーーよくここに住めたなと。
妻が金持ちでなければ、俺なんかが高級マンションに住むことはなかったのだから。妻は美人で、スタイルもいい、家事もできて、性格もいい。父親が大手企業の社長なのでお金もある。将来的には、社長の席を父親から引き継ぐらしくて、今は父親の業務を手伝いながら勉強しているみたいだ。そんな高スペックな妻が、顔も普通、職業も普通、性格も良くはないし、金もない。相手にとっては欠点だらけな俺と一緒にいる。それはなぜか……。
そうこうしていると目的の階に着き、エレベーターの扉が開いた。と同時に、俺は家のドアに向かってダッシュした!ドアノブを回し!ドアを開ける!すると目の前には美人さんが……。
「おっせーんだよ‼︎何処で油売ってたんだ‼︎おい‼︎」
油を売ってるほど遅くなった覚えはないが、家に着くなり鬼のような顔でこう叫んだのが俺の妻の綾菜だ。歳は俺と同じ25歳。妻にも欠点があり、俺と一緒にいる理由でもある。
ーー口が悪いのだ。
口が悪いせいでなかなか彼氏もできず、結婚もできずだった。そこに救世主の俺が来たというわけだ。
正直、俺は全然気にしていないので、口が悪いとこも可愛くて満足している。
「おい。何黙ってんだよ?あと、さっさとドア閉めろよ」
11月なのに半袖短パンと相変わらず寒そうな格好してやがる。と思いつつ、俺も寒いから言われた通りにドアを閉める。
「悪りぃ、今閉めるから。あと、油売ってたんじゃなくて、道が渋滞してて遅くなった」
「そうかよ。メシ冷めてるからさっさと手洗ってこい」
俺も腹は減ってたから、急いで靴を脱ぎ、手を洗い、荷物をソファに置いて、美味そうな料理の並んだテーブルの前に立つと、冷めてると言われた事を一瞬忘れそうになるぐらい美味そうだった。
「今日はロールキャベツか!」
「オウ!カレー味だぞ。でも、オメェ遅れて来たから一個没収な」
それを聞いて、俺が少しショボンとしたのを確認すると。妻は嬉しそうな顔をして笑った。
「アッハッハ!なぁにしけたツラしてんだよ。オメーが食わなきゃ食うやつ居ねーんだから没収するわけねーだろぉ?」
こういうお茶目なとこもあるのが、可愛いなと思いながら席に座る。
「それじゃ、いただきます」
「食え食え!」
相変わらずニコニコしながらこっちを見ている。俺はそれをよそ目にロールキャベツにかぶりついた!中からは、熱々の肉汁が出てきて火傷しそうになった。
「アッツ‼︎できたてみたいな熱さだな。火傷するとこだったわ」
俺がそう言うと、そそくさと水を持ってきてこう言った。
「みたいじゃなくて、それできたてだぞ?」
「え?さっき冷めてるって……」
待ってましたと言わんばかりに得意げな表情をした妻。
「お前の車うっさいから帰ってくんのが分かるんだよ。だから帰ってきたタイミングで熱々のメシができるようにスタンバッテたんだよ」
なんだよ。エンジェルかよ。と心の中で思った。表面上は……。
「いやー流石ですねぇ」
俺は素っ気ない反応をしながら、スープやサラダ、白米を堪能して居た。
「ンダヨ。つまんねー反応だなぁ!やっぱ一個没収だわ!」
妻はそう言うと大事にとって置いた、ロールキャベツに手を伸ばそうとしたので、俺は光の速さでロールキャベツを口に運んだ。俺たちの食事はいつもこんな感じだ。
食事を終えて、風呂に入り、あとは寝るだけとなった時に、ふと俺は気になっていた質問を投げかけた。
「結婚する前は気にしなかったけど、なんで寝るときいつも半袖短パンなの?」
俺たちは結婚する前は同棲をして居て、その時から妻は半袖短パンだった。その時は特に気にもしなかったが……。改めて見ると、11月に半袖短パンはおかしいよなと。
「ア?なんでそんな事今更聞くんだよ?べつに大した事じゃねーよ」
「大した事じゃないなら教えろよ」
「うっせーな!寝る時にこの格好の方が、お前と肌がくっつく箇所が多くていいからだよ‼︎」
なんだよ。アークエンジェルかよ。と俺は思った。
俺と妻は寝室に移動して、ベッドに入って寝る体制になった。すると唐突に妻からの質問が来た。
「オメェの車……。なんて名前だっけ?」
「RX-7だよ」
「あぁ。そうだそうだ!目が開いて可愛いやつな!あれ、しょっちゅうぶっ壊れてんだろ?新しいの買わねーのか?むしろ買ってやるのに」
「俺は、あれが好きで乗ってるからいいんだよ」
「まぁ、可愛いしな。私も好きだからなぁ」
いきなり車の話をしてきてどうしたのかと思っていると続けて妻が口を開いた。
「今日で2年目だからよぉ。なんかプレゼントじゃねーけどさ、記念日らしいことしてーと思ってよ。お前はなんかないのか?」
たしかに記念日だが、妻が金持ち故に、行きたいとこは行けるし、買いたいものは買えると言う生活だから、特別感があまりないのだ。俺は特に考えもなく口を開いた。
「何もしなくていいんじゃない?俺は2人で居られるだけで満足だしな」
とても臭い。なんて臭いセリフなんだと、言ってから後悔をした。しかし隣を見れば嬉しそうな顔をした妻がそこにいる。
「まぁ、そういうのも悪かねーな。お前みたいなブサイクと外歩くの恥ずかしいしな」
照れ隠しで言ってんのが見え見えだった。何か言い返そうと思ったが、睡魔が来ていて何か言い返す気力も無くなっていた。それは妻もおなじだった。
「それじゃ、口は悪いけどそれ以外満点な人、これからもよろしくお願いしますよっと」
「おうよ。お前みたいなポンコツは私としか居られねーからなぁ」
「ーーよろしくされてやるよ」
嫌味っぽく俺が言うと、妻は最後の言葉だけ優しく言って、眠りについた。
明日も目を開けて、隣に口の悪い妻がいるなら、欠点があるのも悪くないなと思いつつ、俺も目を閉じた。




