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しょーとしょーとー  作者: むー
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時代

山の奥に、大層恐ろしい鬼が住んでいた。恐ろしいといってもそれは見た目だけで、本質的には争いを好まなかったし、見た目よりはずいぶんと優しい性格だった。だから、里に降りて危害を加えるなんてこともなかった。


ただ、ちょっとだけいたずら好きだったので、たまに近くを通ったものを脅かして楽しんでいた。そのため近くの里に住む親たちは、

「言うこと聞かないと鬼が来るよ。丸呑みにされちゃうよ。」

と、子供に対して言い聞かせていた。鬼はそのことに不満はなかったし、それなりにお互い共存していた。



やがて時は経ち、里は大きく変わった。ビルが立ち並び、新幹線が走るようになった。皆あくせく働き、鬼のことなどはすっかり頭から消えてしまっていた。



一方、そんなことは露ほども知らない鬼。近頃人っ子一人通らず、不思議に思っていた。また、少し寂しくもあった。そのため、一度人里の様子を見に行こう。そう決めた。



里に降りていくと、鬼はあっけにとられてしまった。見るもの聞くものが何もかも新鮮なのだ。いや、新鮮どころの騒ぎではない。なんだあの建物は。なんだあの長い生き物は。鬼は少し怖くなってきた。

それでも人に会うまではと、なんとか踏ん張った。

誰かに会えば何か分かるだろう。里が変わったって、人というのは変わっていないはずだ。そんな期待も込めて。




しかし残念ながら、その期待は泡と消えた。

ようやく人に会っても、チラリとこちらを見るだけで足早に去ってしまう。そうでなくても、変な格好をしている奴がいるな。こんなところで非常識だわ。と、冷たい目をむけられてしまった。



なら子供の所に行こう。きっと子供なら大丈夫だ。そう思ったが、似たようなものだった。

驚くどころか、

「おじさん、なんでそんな格好してるの。」

「そんなのいまどき流行らないや。子供騙しだよ。」

そんな反応ばかりだった。



あまりの変わりようにショックを受けていると、誰かが通報したのかパトカーがやってきた。鬼は警察署に連れていかれ、散々絞られてしまった。もちろん、自分が鬼だと信じてくれる人はいなかった。



ようやく釈放された後、鬼は力なく山奥に帰っていった。


「自分だけが取り残されてしまったというわけか。誰も彼も血も涙もない。あの頃の純粋な人間たちはもういないのか。」



その後、鬼は山奥に引っ込んだまま、二度と里に降りてくることはなかった。








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