性格
ある男が、盗みを企んだ。
ただ、1人では失敗するかもしれない。生真面目な友人に、小説のネタを装ってアドバイスを求めた。
「今、推理小説を書いてるんだが、完全犯罪というのがどうも思いつかない。なにかいいアイデアはないかな。」
「うーん、そうだなぁ。まず、どこを舞台にするんだい。」
思っていた以上に熱心に考えてくれた。もっとも、やはり性格か必要以上に根掘り葉掘り聞かれたが。
また何か浮かんだら電話する、そういってその日は別れた。
3日後、友人から電話が来た。いつ、どこで、どんな方法を使って、どんな物を盗むか、リアリティかつ事細かに説明してくれた。
思わず関心してしまうようなそのアイデアで、そのおかげで男は安心して盗みを行うことができた。
2週間後、男は金を持って友人宅を訪れた。あれだけ安心してできたのもこいつのおかげだ。何もなしでは目覚めが悪い。適当な理由をつけて渡そう。
「この間は助かった。これ、お礼に受け取ってくれ。」
「ああ、実はそのことなんだが…」
なにかあるのだろうか。話を聞いてみると、どうやら他の知り合いにも知恵を借りたらしい。
「なんだ。それならその人にも渡してくれよ。」
「ああ、よかった。じゃあ今から呼ぶから、ちょっと待っててくれ。」
待っていると、玄関が開く音がした。
(おっ、来たな。まぁ、1人増えるぐらいは仕方ないか。)
そう思っていたが、なんだか足音が多い。気づけば1人どころか部屋が埋まるほどの人数が来た。
どういうことか、混乱している頭で友人に尋ねると、
「ああ、実はあのアイデアなんだけど、自分だけじゃ浮かばなかったんだ。だから、他の知り合いにも知恵を借りてさ。時間についてはこいつで、場所についてはこいつ。トリックとかはこいつに聞いて、何を使うかは…」
なるほど、そういうことか。
聞いてくれたはいいが、何から何までキッチリ聞いて回ったということか。それにしたって、逃げる時の歩幅まで聞くことはないだろうに。
「そんなわけだから、こいつらにも分けてあげてよ。」
仕方がない。男はきっちりと全員に渡すと、盗んだお金がすっかりなくなってしまった。
落ち込みながら男は思った。
「こんなことなら、もっと大雑把な奴に聞くんだった…。」