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第1話 冒涜的な怪物と運命的な出会い


「ひょおおおおおおおおおおおおうッ!!!」


 全身で風を感じながら、森の中を走る白い巨人を目指す。

 落下軌道、よし!

 せーのっ―――!


「うおらあっ!!!」


 おれは白い巨人のうなじ辺りに、重力を乗せたかかと落としを叩き込んだ。

 白い巨人は首を半ば断裂させて、ズウンッ、と力なく倒れ伏す。


 あれ、原形を留めてるな。

 どころか、首すら千切れてない。

 魔王んとこの近衛隊長くらいなら一発で消し飛ぶ攻撃だったんだが。

 なんだコイツ。

 太ったオッサンみたいなナリして四魔将の連中と同等か?


「……え……? な、なに……?」


 おれは倒れ伏した白い巨人の背中に立って、声の方を見た。


 栗色の髪の女の子だった。


 長い髪を1本の太い三つ編みにしていて、服装は地味の色合いのワンピース。

 いかにも村娘って風だったが、どこか目を惹きつけられる、素朴な魅力を放っていた。


「……ひ……ヒト……!? うそっ……!?」


 女の子がおれを見上げて、驚いたように目を見開く。

 おれの美形ぶりに一目惚れした、ってわけでもなさそうだが、とりあえず怪我はなさそう――


「ん?」


 足元が動いた気がした。

 地震じゃない。

 今、おれが足場にしているのは、真っ白な肌の肥え太った巨人だ。

 ……あっ!?


 おれの攻撃で千切れかかっていた首が、再生しつつある!


 のっそりと起き上がり始めた巨人の背中から慌てて飛びのき、女の子のすぐ傍に着地した。


「大丈夫か? どこにも怪我はないか?」


「え、あ、うん―――ひゃああっ!?」


 栗色の髪の女の子は、なぜかおれの姿を見るなりビクンっと飛び跳ねた。

 どうしたんだ。

 驚くようなモノなんておれの身体には一つもないが。


「な、なん、あな、なんっ、ふっ、ふく―――!!」


「悪いが時間がない。ちょいと失礼」


「ひゃあっ!?」


 おれは女の子の腰を片手で抱えた。

 ほう、これは素晴らしいくびれ。

 親指に少しだけ当たる感触から言って、胸の大きさもなかなかのもの。


「えっ? あっ、うそっ……?」


 おっと、そんなことを考えてる場合じゃないな。

 白い巨人は完全に復活し、立ち上がりつつある。

 女の子の視線が下の方ばかりに向いているのが気になるといえば気になるが、アイツから距離を取る方が先だ。


 おれは女の子を抱えて、森の中を走り始めた。


「まったく、なんなんだアイツは! 首が千切れかけても生きてるとか、不死魔将デッドキルケかよ!!」


 身体がデカい分、むしろあの四魔将よりも厄介だ。

 そしてキモい。全体的に。

 ぶくぶく肥えたオッサンが肌真っ白になって巨大化しましたみたいな見た目だからか、とにかく不気味に感じるのだ。

 できれば視界に入れたくなかった。


「あ……アイツは《イゴールナク》!」


 突如として言ったのは、おれの左腕に抱えられた女の子だった。


「きみ、知ってるのか? あのバケモンのことを!」


「アイツを調べに来たんだもの! でも、まさか《将》クラスまで育ってるなんて……!」


「なら教えてくれ! 知ってる限りのことを!」


「えっ?」


 女の子は虚を突かれたような声を出した。


「そ、それって……イゴールナクを倒すためにってこと……?」


「それ以外に何がある!? 戦う前に敵の情報を集めるのは当然だろ!」


「ええっ!? そ、そんな合理的なことを言うなんて、あなた、一体……」


 はあ?

 何にも驚くところなかったよな?


 後ろからバキバキと木が倒れる音が聞こえた。

 動き出した!


「いいから早く! アイツの強さは? 能力は?」


「あ、あのイゴールナクは《将》クラスの外獣(エネミー)で、レベルは大体50から70くらい! スキルは持ってたとしても一つだけだけど、アイツはたぶん《自己再生》スキルの持ち主! だから《将》クラスになるまで生き残れたんだ……」


「…………………………」


 さっぱりわからん。


「……何言ってるんだ、きみ? 《えねみー》……? 《れべる》? 《すきる》?」


 聞き覚えのない言葉だ。

 どこの国の言語だ?


「は? ……え、エネミーを知らない? レベルも? スキルも? もしかして……ステータスも!?」


「知らん! 何それ旨いの?」


「そんなわけがっ―――あっ」


 女の子は何かに気が付いたように、身体を捻ってどこかを見上げた。


「落ちてきた方向……《勇者の祠》……それにさっき、《不死魔将デッドキルケ》って……まさか……!?」


「なんだ! なんでもいいから早く教えてくれ! どうすればあの巨人を倒せるんだ!」


「あっ……そ、そっか。そうだよね、後回し!」


 栗色の髪の女の子は、背後から追いかけてくる白い巨人の頭を指差した。


「たぶん、弱点は頭! 頭を潰せば再生しない! さっき首の傷が治ったとき、頭の方から身体の方に向かって再生してたから……!!」


 ……あの一瞬で、そんなところを見てたのか?

 いや、驚くのは後だ。


「でも《将》クラスの外獣(エネミー)は、ランクC以上の《STR》がないと有効なダメージに―――きゃっ!?」


「悪いな! すぐ片付けてくる!」


「はっ!? い、いやだから―――!!」


 女の子を地面に放り出し、おれはすぐに取って返した。

 白い巨人が木を薙ぎ倒しながらこっちに走ってくる。

 奇遇だな、キモいの。

 おれも木こりの息子でさ、木を伐るのは得意なんだ……!!


「うおおおっ――――らあっ!!」


 近場にあった木を両腕で抱え、大根みたいに引っこ抜いた。


「えっ……ええええええ―――――っ!?!?」


 女の子の声を背中に聞きながら、おれは引っこ抜いた木を頭上に振りかぶる。

 今は、これがおれの神剣だ。

 喰らいやがれ!


 思い切り振り下ろした木が、白い巨人の頭を叩き潰す。

 巨人は悲鳴の一つも上げずに倒れ伏した。

 頭が身体の中にめり込むような感じになっていて、今度は再生する気配がない。


「ふう……」


 額の汗を拭う。

 そうか、こっちの世界では疲れるんだよな。

 あの異空間には疲労って概念がなかったから忘れてた。


 おれは裸足でひんやりとした地面を歩き、女の子のところに戻った。


「助言ありがとな。助かったよ。立てるか?」


「う、うん……」


 なぜかチラチラと下の方を見ながらおれの手を取る女の子の顔を、初めて間近からしっかりと見る。

 派手さはないながらも整った顔立ち。

 長い睫毛の奥にある大きな瞳には、利発そうな輝きがきらきらと舞っていた。


「…………!」


 おれは――その顔を知っている。


「…………サル、ビア…………?」


 おれが勇者になるきっかけを作った最初の仲間、賢者サルビア。

 思わずその名前を呼ぶと、女の子は「え?」と顔を上げた。


 直後、ふっと全身から力が抜けた。


「えっ!? お、おもっ……! な、なに!? どうしたの!?」


 女の子にもたれかかりながら、おれの意識は急速に薄れていく。

 微睡みの中で、女の子の暖かさと柔らかさを感じて、あれ? と思った。


 ……サルビアって、こんなにおっぱい大きかったっけ……?


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並行世界の物語
『戦い疲れた元勇者のご褒美すぎる余生』
同じ世界観、キャラ、しかして別の世界線で送る、ただイチャイチャするだけのスローライフ。 ヒロインたちと魔王城に住み着いて穏やかな余生を満喫する!
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