第1章第5話 オークよりもアレなパーティメンバー
「パーティメンバー、ですか?」
おれたちは迷宮を出て勇者ギルドに向かい、エルシさんに相談した。
遠慮なく相談してくれと言われたのを早速実行した形だ。
「支援じゃなくて、攻撃力を持ってる奴が欲しいんだ。今フリーで、おれたちと組んでくれそうな奴、知らねえかな」
「うーん。と、なりますと……。あ、今ちょうど入ってこられましたよ」
おれとクルミはギルドの入口を振り返る。
いま入ってきたのは、金髪の女の子だった。
ずいぶんと見目麗しい。
身なりを見るに、どこかの貴族の子か?
「彼女は由緒正しい魔法使いの家の出で、ステータスもとても優秀です。クルミさんと同じ中級スタートだったんですよ」
「そんな子が、今フリーなのか?」
「えー、まあ、それには事情が……」
彼女が酒場を横切っていくと、屯する勇者たちが振り返る。
あの美少女ぶりだもんな。
しかもおっぱいが大きい。
歩くたびぷるんぷるんと……。
クルミよりおっきいな、あれは。
どこか陶然とした空気になるギルド内で、クルミが不意にぽつりと言った。
「―――うわ。わたしと同じくらいブサイク……」
ピシリと空気が凍った。
気がした。
そして、金髪の少女の動きも停止した。
「あー……」
そうだった。
クルミには、人間の美少女や美女がブサイクに見えるんだ……。
ここまで、おれ以外の人間にもたくさん会ってきたが、その美的感覚は結局変わらなかった……。
ギギギ、と金髪少女がこちらを見る。
完全に聞かれたな。
「……ちょっと。あなた? 今、なんて言いまして?」
「あっ……き、聞こえちゃった? ご、ごめんね! でも大丈夫! どんな顔でだって生きていけるよ!」
クルミ。
励ましのつもりだろうが、それは煽りだ。
「わたくしが……わたくしがブサイク……!? こんなに女の子らしくて可愛らしい、わたくしが……!? 聞き捨てなりませんわっ!」
「ピオニーさん」
と。
口を挟んだのは、カウンターの中にいる受付嬢、エルシさんだ。
「こちら、昨日登録なさって、中級からのスタートになったクルミさんです。パーティメンバーを探しておいでなのですが、いかがですか? ピオニーさんもちょうど探しておられましたよね?」
このタイミングで!?
精神ぶっといな、このエルフのお姉さん……。
「……中級スタート? あなたが……?」
怪訝そうにクルミを睨みつけるピオニーとやら。
クルミはちょっと怯えて、おれの服をちょこんと摘まんだ。
「……ふん。いいですわ。確かにちょうどいい」
少女は金色の髪をふぁさっと払った。
「わたくしの強さを目の当たりにして、先ほどの不躾な発言を後悔させてさしあげますわ! おーっほっほっほ!!」
トラブルかと思いきや、とんとん拍子に話が進んだ。
おれたち、ほぼ何も喋ってないけど大丈夫か?
「(……彼女、本当にステータスは優秀ですので……)」
エルシさんがこっそりと耳打ちしてくる。
ステータスは、か。
人格には問題がありそうだが。
経験上、高笑いをする奴はみんな人格がヤバい。
酒場に屯する勇者たちが、揃っておれたちのことを気の毒そうに見やっているが、それもきっとピオニーとやらの人格がおかしいからなんだろうな、と思った。
このときは。
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違いました。
人格の問題だけじゃありませんでした。
「覚悟っ! うおおおおおおおっ!!」
深淵迷宮で外獣に遭遇したピオニーは、いきなり雄叫びを上げて、正面から突撃した。
速度は悪くない。
ステータスが高いというのは本当なんだろう。
しかし。
「ちょ、ちょっとー!? あなた、魔法使いだよねーっ!?」
そう。
ピオニー・ローズモスと名乗った金髪の少女は、魔法使いである。
ステータスも完全に魔法使い寄り。
装備だって、金属の鎧なんかは全然着けてないし、剣みたいに振り上げているのは魔法用の杖だ。
そんな状態で、あたかも戦士のごとく突撃していくのである。
なぜだ。
もしや、こいつも脳筋か!?
いや、そういう問題なのかこれ!
「―――あっぶね! 死ぬ気か、お前!」
突撃していくピオニーの首根っこを掴みつつ、外獣を倒したおれは、少女を詰問した。
「魔法使いは後衛が基本だろ!? なんで前に行く!?」
「敵を前にして、後ろに引きこもっていることなどできませんわ!」
「いや、別に卑怯でも何でもねえからそれ!」
「身体が疼くんですのよ! 接近せずにはいられませんの! 敵は近付いて倒すものなのですから!」
なんだ、その固定観念……。
あまりに謎だったが、とにかくこの子は、自分のステータスに合った戦い方ができないらしい。
それで、中級スタートの有望株だったのに、まだどこのパーティにも収まっていないのだ……。
「あ、あのね? 前はローダンがいるから、あなたは後ろから援護してくれれば……」
「イヤですわ!」
「後ろってだけで地味に思えるかもだけど、実際には一番重要な火力で……」
「イヤですわ!」
取り付く島もない。
この強情振りはランドラを思い出すが、今はひたすらに厄介だった。
結局この日は、ピオニーを後ろに退がらせることはついぞできず、お開きになってしまった。