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第1章第4話 身体に悪い我慢と判明した問題


 エルシさんに住める場所へと案内された。

 あまり散財もしたくないし、豪華なところでなくてもいい、と注文したので、案内されたのは何の変哲もないアパートメントの一室。

 勇者ギルドが所有する下宿のようなものだそうだ。


「それでは、私はこれで。何かあれば、ギルドで遠慮なく話しかけてくださいね」


 おれとクルミを部屋に残して、エルシさんは去っていった。

 ……結局、言えなかった。

 おれとクルミは夫婦じゃないって……。


「……相部屋っ、相部屋っ……!」


 クルミはなんだか嬉しそうだし、良しとしておくか。

 決して広い部屋じゃないが、寝て起きるには充分すぎる。

 だけど、問題が一つあった。


 ベッドが一つしかない。


 ……いや、ダブルサイズだから、二人で寝ることに支障はないのだ。

 支障があるのは、おれの理性のほうだ。

 女の子と同禽して何もせずにいるような童貞根性が、果たしておれに残っているか……!?

 1ヶ月も同居して手を出さなかった奴が何を、と言われるかもしれんが、一つ屋根の下と一つベッドの上じゃ話が違う。


「……じゃ、おれはこっちで寝るから。明日は朝から深淵迷宮に行ってみようぜ」


 幸い、寝床にできそうな椅子があったので、そっちに避難することにした。

 したのだが。


「えっ? 一緒に寝てくれないの……?」


 と、クルミが心細そうな声と顔で言った。


「いや、あのな……いくらおれとお前とはいえ、さすがにそれはヤバいだろ」


「ヤバいって、何が……?」


「……あー」


 お前の身体がとてもおいしそうだからです、とは言いづらい。

 ここまで保護者面をしておいて。


「……とにかく、ベッドは一人で使え!」


「ええっ!? 気が引けるってばぁ!」


「引けない! 余裕だ!」


「……そ、そんなに、わたしと一緒に寝るの、イヤなの……?」


 ああヤバい! 涙目になり始めた!


「そ……そりゃ、わたしなんかじゃ、イヤだろうけどっ……! ひぐっ。い、いつもローダンだけは、可愛いって言ってくれるのに……。や、やっぱり本当は……!」


 むしろイヤじゃないから遠慮してるんだってことをどう説明すればいいんだ、この非モテ少女に!


「あーもう!」


 面倒くさくなったおれは、クルミに近寄ると、その肩を掴み。


「きゃっ!?」


 ベッドに押し倒した。

 驚いた顔をするクルミを、間近から真剣な顔で見つめる。


「ほら。嫌がってなんかないだろ?」


「あっ……あうぅ……」


 どうすればいいのかわからないのか、クルミは赤面して、あちこちに視線を泳がせた。

 だが、腕で胸を守るなどの自衛的な行動は、一切取らない。

 ……限界だ。

 おれはすっと身を引いた。


「あっ……」


 ……頼むから、残念そうな顔をしないでくれよ……。


「とにかく、一緒に寝るのがイヤだなんてこれっぽっちも―――」



 ドンッ!



 隣の部屋からいきなり大きな音がして、クルミがビクッと肩を跳ねさせた。

 か……壁を殴られた?


『サカッてんじゃねーぞ新入りィ!!』


 壁の向こうから女の声が怒鳴ってくる。

 ガラの悪いお隣さんだな……。


「うぅぅぅ……ろーだぁん……」


 クルミが完全に怯えきってしまっていた。

 あー、せっかくうまくまとまるところだったのに!


 結局、怯えるクルミを一人にすることはできず、添い寝してやることになった。

 我慢ってやつは、本当に身体に悪い。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 膨大な額のイゴールナクの賞金だが、いつか尽きることには変わりない。

 自分たちで生活費を稼ぐ手段が必要だった。

 ネクロノミコンの第二章を探すにしても、まずはそれからだ。


 なので、翌朝、おれたちは深淵迷宮の入口へと向かった。

 勇者都市の中間にある長城の中に入り、そこで手続きをする。


「はい。中級ですね。《門内》でしたら自由な活動が可能です。行ってらっしゃいませ」


 巨人くらいしか使わなそうな巨大な門に、猫の出入り口みたいな小さな扉がついている。

 おれたちはそこから、深淵迷宮へと入った。


 深淵迷宮・第一門。


 曰く、迷宮内はいくつかのエリアに分けられている。

 その境界に築かれている《門》こそ、深淵迷宮の奥からやってくる外獣(エネミー)を食い止めるための前線基地だ。


 つまり、外獣(エネミー)を倒しながら迷宮内を制圧していって、ちょうどいいところで門を築き、奥からやってくる強い外獣(エネミー)の侵入を抑制した。

 そうして結果的に、迷宮内に区別ができていったわけだ。


 勇者都市と深淵迷宮の境界を隔てる門が第零門――今おれたちが抜けた門。

 そこから近い順に、第一門、第二門、第三門、第四門と続いていく。

 慣例的に、迷宮内のエリアは一つ先の門の名前で呼ばれるようだ。

 なので、第零門から第一門の間であるここは、深淵迷宮・第一門。

 初心者勇者向けのエリアである。


「テケリ・リ! テケリ・リ!」


 まだショゴスから進化していない外獣(エネミー)さえ見られる、牧歌的とも言える場所だ。

 空間自体も、大穿穴の雰囲気を色濃く残した大洞窟。

 その中に、謎の材質でできた建物の残骸が点在している。

 深淵迷宮は異空間だから、地下なのに空が見えるとかザラなんだが、ここは比較的現世に近いってことだ。


 様子見にはちょうどいいこの場所で、おれたちは何度か外獣(エネミー)を倒してみた。

 クルミが指揮し、おれが実戦を担当する形だ。


「「……うーん」」


 しかし、おれたちは揃って首を捻る。

 外獣石は手に入るので、収入を得ることは可能だろう。

 強さ的に、もっと先の門に向かうこともできると思う。


 が。

 経験値が入らなかった。


 クルミのスキル《軍団指揮D》には、指揮下の味方が外獣(エネミー)を倒すと経験値が入るという効果もある。

 実際、イゴールナクを倒したときに、いくつかレベルが上がっていた。

 しかし、今回、それが見られない。


「おれが《加護》を持ってないからか?」


「としか、考えられないよね……」


《狂気抵抗G》の付与効果は効いてたのにな。

《加護》のないおれが外獣(エネミー)を倒しても、数にカウントされないってことか。


「クルミ。お前の生命線はこの《軍団指揮》スキルだ。これを鍛えないと未来がない」


「……うん」


「だから、探すぞ。おれ以外の、パーティメンバーを」


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並行世界の物語
『戦い疲れた元勇者のご褒美すぎる余生』
同じ世界観、キャラ、しかして別の世界線で送る、ただイチャイチャするだけのスローライフ。 ヒロインたちと魔王城に住み着いて穏やかな余生を満喫する!
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