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第1章第2話 予期せぬ大金と麻痺していた感覚


「こちらが、お預かりしたうち片方の外獣石の賞金となります」


 チャリン。

 と、2枚の銅貨が、テーブルの上に置かれた。


「そしてこちらが―――」


 ドズンッ!!

 と、山のような金貨が、テーブルの上に積み上がった。


「―――もう1個の外獣石の賞金となります」


「……………………」

「……………………」


 おれとクルミは、あんぐりと口を開ける。

 おれは100年前のことしか知らないし、クルミもずっと貨幣を使わない村で生きてきたから、相場のことにはあまり詳しくない。


 だけど、この金貨の山が凄まじい大金だということはわかる。

 ここまで来るのにも結構な路銀を使ったと思うが、おれたちはその間、この金に輝く貨幣を、一度だって見たことがない。

 それが、一体……何百枚? いや、何千枚か?

 数えるのも馬鹿らしい。


「しめて1500万とんで200RG(ローダニア・ゴールド)となります。

 ……お二人とも、余所の土地からお越しになったばかりだと思いますのでご説明しますが、これはこの街で10年は贅沢して暮らせる金額となります」


「10年……!? マジで!?」


「マジです」


 エルフのお姉さんは真面目な顔でうなずいた。

 10年暮らせるって……。

 当座の生活資金どころの騒ぎじゃねえじゃん……。


「それで、なのですが……」


 エルフのお姉さんはどこか言いにくそうにした。


「非常に失礼と存じますが、本ギルド支部の支部長が、お二方からじきじきに、この外獣石の入手経路についてお教え願いたいと……」


 さもありなん。

 これほどの価値があるものを、どこの誰とも知れない奴がいきなりポンと持ってきたのだ。

 もし違法なブツだったりしたら、ギルドの信用にも関わることだ。


 構わない旨を伝えると、エルフのお姉さんはいったん部屋を出ていき、小柄な男を連れて戻ってきた。

 男……というか、ゴブリンだ。

 緑色の肌に、人間の半分ほどしかない体格。

 魔王軍と戦ってた頃は飽きるほど見たが、この時代に来てからは初めて会うな。


「お初にお目にかかる。私が勇者ギルド魔界方面北街区支部支部長、ベンヤミン・アーヴィッコです」


 と、ゴブリンは存外渋い声で名乗りながら、エルフのお姉さんの膝の上に座った。

 ええ……。

 エルフのお姉さんの豊かな胸に、ぽよんと緑色の頭を委ねている。

 ええええ……。


「膝の上から失礼。ご覧の通りの上背ゆえ、普通に座っていては人間族の方とは目線を合わせづらいのです」


「ああ、いや……」


 エルフの美女の膝の上に座ってみせる方が圧倒的に失礼だと思うんだよなあ……。


「さて、話はこのエルシからすでにお聞きになったものと思います。件の外獣石の入手経路について、お教え願えますでしょうか」


 あのエルフのお姉さん、エルシっていう名前なのか。

 ゴブリン支部長を膝の上に乗せていてもまるで平気そうなのを除けば結構好み……とか言ってる場合じゃないな。


 おれはあの外獣石――ングンキ・イゴールナクを倒すに至った経緯について、かいつまんで説明した。


「リターナ村……ですか?」


「ああ。おれたちはそこから来たんだ」


「聞き覚えのない村ですな……。具体的な場所をお聞かせ願っても?」


 隣に座るクルミに意見を求める視線を送ると、クルミはこくりとうなずいた。


「100年前、魔王城があった辺り……って言ったらわかるか?」


「えっ!?」


 と、声を出したのは、支部長の椅子になっているエルシさんだ。

 ゴブリン支部長もまた、睫毛のない目を見張っていた。


「《城跡》を守るオークの一族……! まさか実在していようとは……!!」


「えっ……」


 そんな驚かれるような村なのか、あそこ?

 クルミを見ると、『知らない知らない!』とでも言いたげにぶんぶんと首を横に振った。


「我々の間では、その村は伝説のようなものです。何せあの一帯の外獣(エネミー)は、地上であるにも拘わらず深淵迷宮・第四門に相当する強さ……。実在を確かめようにも、そもそも近付くことすらままなりませぬ」


 ……確かに。

 ここまでの道中、何度か外獣(エネミー)に遭遇することがあったが、どいつも村の周囲で見た奴に比べればレベルが低かった……。


「お二人はそこから来たと仰る。にわかには信じられませんが、あの外獣石を見せられては一蹴するわけにも参りませぬ。

 そちらの奥方……クルミさんでしたかな?」


「おっ、奥方っ!?」


 あれ?

 夫婦だと思われてる?


「クルミさんが、村の自警団を指揮して、その《王》クラスの外獣(エネミー)――ングンキ・イゴールナクを倒した、というお話でしたな。では、その自警団の人数と平均レベルの方はお覚えになっておいででしょうか?」


「え、えっと……」


 おれの奥方呼ばわりされた衝撃がまだ抜けきっていないようだったが、クルミはなんとか質問に答えた。

 記憶力や計算力に関しては折り紙付きだ。


「平均レベル60……!!」


 ここでもまた、ゴブリンの支部長は驚きを見せる。


「……どうやらお二方は感覚が麻痺されておられるようだ。

 レベル60。この数値はですな、外部格付け機関ならばAランク、我がギルドの基準に照らせば《上級勇者》に相当するものです。

 このローダニアに数多住まう勇者の中でも、ほんの一握りの猛者にしか届き得ない境地。それがレベル60。

 それを十何人と動員なされた。なるほど……それであれば、これほどの外獣石を落とす怪物をも、退けることが叶いましょう」


 いや、自警団の連中は、イゴールナク相手にはほとんどまともに戦えなかったんだけどな――と言いたかったが、話がややこしくなりそうなのでやめておいた。


「ふむう」


 ぽよん。

 エルシさんの胸の中に後頭部を埋めながら、支部長は腕を組んで考え込んだ。

 羨ましい。


「わかりました」


 支部長は腕を解くと、クルミの方を見て言った。


「その実績と、ステータスにあるこの珍しいスキル。この二つを評価して、クルミさんには中級からスタートすることを、私の名において許可します」


「中級? ……って、何か得なのか?」


「クエストの受注に制限がなくなり、深淵迷宮でも《門内》ならば活動が認可されます。一般に下級勇者から中級勇者になるのに3年はかかると言われておりますので、それを丸ごとパスできたとお思いください」


 おお。

 3年も一足飛びにできたと言われると、すごくお得な気がする。


 その後、大量の賞金の扱いについて支部長と話し合った。

 これだけの枚数の金貨、宿すら決めていないおれたちには物理的に手に余る。

 なので、当面必要な分だけ手元に残し、残りはギルドに預かってもらうことになった。

 勇者ギルドは公的な機関だし、信用できるだろう。


「必要であれば、装備や住まいについても見繕わせていただきますが、いかがですかな?」


 これもあの外獣石の威力か、至れり尽くせりだ。

 せっかくなのでお言葉に甘えることにして、おれたちは早速、クルミの装備を見繕うことにした。


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並行世界の物語
『戦い疲れた元勇者のご褒美すぎる余生』
同じ世界観、キャラ、しかして別の世界線で送る、ただイチャイチャするだけのスローライフ。 ヒロインたちと魔王城に住み着いて穏やかな余生を満喫する!
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