6
今日は3人で夏の海に来ていた。
さすがに今日は日曜日ということでまわりには夏の海を楽しむ人たちでごった返していた。
日焼けしたおにーさんにオススメされるまま、ビーチパラソルをレンタルした。
ほかにもバーベキューセットをオススメされたけど、あらかじめあかりちゃんがお弁当を作ってくれている事を知っていたので断った。
更衣室前で二人と別れ、俺は水着にさっさと着替え、なんとかスペースを確保してパラソルを立てた。
あかりちゃんの持ってきていたシートを広げると、黒い猫2匹のまわりにパンが散りばめられた絵柄だった。
猫ってパン食べるのかな?魚しか食わないイメージだな、ペットとか全然飼った事ないから全然わかんないな、あかりちゃん猫飼ってそう。
パラソルの影に入って涼む事にした。
今日もかなり暑い、ちょっとパラソルを立てただけでもう汗だくになっている。
目の前の海を眺めると、砂浜は人でごった返しているというのに、海に入ってる人は少なかった。
なんでだろう?暑いからかな?暑いから海に来たんじゃないのか?
まぁ俺もこの影から出たくない気分だな。
二人遅いな。
女の子の準備って遅いイメージはあったけど、もう15分ぐらいたってるぞ。
いくらなんでも水着着るだけでそんなにかからないだろ、かかるのか?
この場所はあかりちゃんの携帯に送っておいてたし、例えそれが届いてなくても更衣室からそんなに離れてもいないから見つけようと思えばみつけられるはず。
まさか。
どっかの男にナンパされて困った事になってるんじゃ!?
だって二人共可愛いもんな!とてつもなく心配になってきた!電話!電話しよう!
「あ、いたいたアキラくん!」
あかりちゃんの声がした方を振り向くと水着姿の二人が立っていた。
あかりちゃんの水着が目にいった、首にヒモくくりした白いワンピースタイプの水着で下はスカート状になっている。
何の花かわからないピンク色の花柄模様が白い色とよく合い、清楚感をこれでもかと醸し出している。
水着は猫柄じゃないんだ、あと、ビキニじゃなかったのがちょっと残念だな。
耳の下で髪を猫の髪留めでくくって垂らしているのが可愛い。
「やらし~あかりちゃんの事ジロジロ見てるぅ~」
そう言ったやすなちゃんを見た。
先日忘れて、ちゃんと返した麦わら帽子をかぶっている、髪を上でまとめているのか黒髪が見えない。
そして水着を見た。
こっちも黒のワンピースタイプで白い玉模様が散りばめられている。
同じく下がスカート状になっていてスカートの裾がフリルになっている。
黒いリボンがついた胸元が結構開いてるんだけど、見事なほどのぺったんこで、胸というより胸板だった。
その胸板が手で隠された。
「えっち!」
やすなちゃんから麦わら帽子が投げられ、キャッチした。
少し怒った表情で、頬を赤くしている。
髪型はそうなっていたのか、頭に二つのお団子頭だ。
その髪型でスク水だったらさいこ・・・いやいや、考えるのはよそう。
「二人とも水着がとても似合ってて可愛いよ」
「うん!ありがと~!」
あかりちゃんがニコニコ顔でそう言った。
「そんな事言って、私の胸ジロジロ見てた癖にぃ・・・可愛い、なんて思わず、えっちだなぁ~って思ってたんでしょ~」
そう言いながら俺の隣にやすなちゃんが座ってきた。
「それは思ってない」
「ちょっとは思ってよ!」
「思っていいのかよ!」
「うるさいなぁ~」
また麦わら帽子を投げらた。
女心はよくわからない、褒め方を間違えたのか?
「すごくせくしぃ!」
「はいはい」
全く喜ばないな。
「私ジュース買って来るね!」
「あ、じゃあ俺も一緒に・・・」
「いいよ~アキラくんまた倒れちゃったりしたら大変だからそこにいて」
「今日は水分も結構取ってるし、だいじょぶだよ」
「いいからいいから~行ってくるね~」
そう言ってあかりちゃんは一人で行ってしまった。
なんだ?どうしても一人で行きたそうな感じだったけど・・・あ、トイレか!言うの恥ずかしかったんだな。
「あかりちゃん、気を使ってくれたのかな?」
「なんの?」
「なんのって・・・ん~アキラくんて結構鈍感だよね」
やすなちゃんに呆れたような顔をされた。
なんだ?何が鈍感なんだ?
「なに?教えてよ」
「教えない」
「なんで、教えてよ」
「えぇ~おしえなぁ~い、ふふ」
やすなちゃんが手を握ってきた。
「またそーいう事する」
「いやぁ?」
やすなちゃんが頬を赤く染めながら少し悲しそうな表情をした。
「いやじゃないけどさ、この際ハッキリ言うけど、俺が好きなのはあかりちゃんだから、だからさ」
「それは知ってる」
やすなちゃんが更に俺の手を深く握りしめて指を絡ませてきた。
おかしいな、知ってて何でこんな事するんだ?よくわからない。
「手、握り返して」
「だからそれは恋人じゃなきゃやっちゃだめだって」
「何こだわってるの?アキラくんは私の事嫌い?」
「嫌いじゃないけど、それは人として好きなだけで、恋愛感情とは違うからね?言った、ほら、俺ちゃんと言ったよ」
これでどうだ。
これならショックで手を離してくれ・・・しまった!
「ごめん!」
「なにが?」
「言い方が悪かったね、やすなちゃんは可愛いし、性格はまだちゃんとわからないけど良いと思うし、一緒にいてドキドキするけど、それは恋愛感情ではございません!」
「私のどこを可愛いと思ってくれてるの?」
やすなちゃんが肩を寄せてきた。
そしてじっと俺の顔を見て答えを待っている。
「顔が可愛い」
「顔だけ?」
「背が小さい所とか」
「うぅ・・・人が気にしている事をハッキリ言うね」
「ごめん!でもちっちゃいのは可愛いって思うよ!」
「ねぇもしかして、アキラくんてロリコンなの?」
顔が熱くなってきた。
違う、俺はそんな変態じゃない、でも小さいのが可愛いて言ったらそんな勘違いされても仕方ないよな。
「違うよ!その証拠にあかりちゃんの事好きだから!」
「あかりちゃんも結構ロリだと思うけど?」
たしかにそうだけど。
「たしかに顔は幼いけど、体は結構大人だから!」
「えっ・・・見たことあるの?ていうか、あ、あかりちゃんとはそーいう関係だったの?付き合ってないのに!?え、うそ!?マジで!!」
「違う違う違う!言い方が悪かった!身長とか体格の話だよ!!」
「びっくりしたぁ~ハァ・・・色んな意味で先越されてるのかと思ったよ」
「ないない!あかりちゃんとは遊んでる時にちょっと手を握ったぐらいで、そーいうの何にもないから!」
抱きしめられたリもしたけど、そこまで言うのが恥ずかしかった。
「ちゅーもしてないの?」
「するわけないだろ、友達なんだから」
「私とはしたのに?」
「それはそっちが勝手にやってきたんだろ」
「じゃあ、して」
やすなちゃんがゆっくりと目を閉じてアゴを突き出して顔をあげてきた。
握られた手が震えてる、だめだよ、こんな震えてる子にそんな事出来ないし。
何より付き合ってないし。
いやでも付き合う前にキスぐらいはするか、でもでも、俺はやすなちゃんをそーいう目で見てないのにしたらダメだろ。
そんな気持ちでしたらやすなちゃんが可哀そうだ。
「しないよ」
そう言ってもやすなちゃんが目を閉じたまま、先程と何も変わらない。
「目を開けてよ」
開いた。
諦めてくれたんだな。
っておい。
やすなちゃんが俺の両肩をつかんで無理やり俺の上半身を自分の方へ向けた。
そして今度は目を開けたまま、ゆっくりと俺に顔を、唇を近づけて来た。
これはまずい、やる気だ、それはだめだ。
「だめだ!」
「きゃっ」
しまった、あせって勢いあまって思い切り両手でやすなちゃんの胸を押して軽く突き飛ばしてしまった。
「くふっ、んっ、あふっ」
やすなちゃんが胸を押さえて軽くむせている。
「ご、ごめん!そうだ!ジュース!ジュース持ってくるから!ごめん!ちょっとまってて!」
俺はその場から逃げるようにして走り去った。
後でもっとちゃんと謝ろう、とにかくむせていたし早く飲み物を持って行ってあげなくちゃ。
自販機のある場所につくと、その横にあるベンチであかりちゃんが座ってお茶を飲んでいた。
すぐ隣におそらくジュースの入ったビニール袋が置いてある。
なんだか元気がない、まさか!熱中症か!?大変だ!
「あかりちゃん!だいじょうぶ!」
あかりちゃんが俺に気づいてビックリした顔をした。
大声出したせいだな。
「具合悪いの?熱中症かな」
「悪くないよ」
声に張りが無い、気を使って具合悪くないって言ってるんだ。
隣に座った。
「痛いとことかない?体とか痺れてない?」
「大丈夫だよ、元気だよ?」
無理やり笑顔を浮かべられた、先程と同じで声に張りが無い。
「元気じゃないじゃん!」
「やすなちゃんは?」
あっそうだ、ジュース持って行ってあげなきゃ。
でもこんな様子のあかりちゃんを歩かせるのは・・・
しかし、こんな陽のあたった場所よりかはパラソルの下で休ませる方がいいのかもしれない。
「あかりちゃんいこ?立てる?」
「うん」
全然元気がない、早く連れて行こう!
あかりちゃんの手を握って移動し、やすなちゃんのいるところへ戻った。
三角座りをしてぼんやりしながら海を眺めるやすなちゃんがそこにいた。
「やすなちゃんジュース!」
無視された。
そりゃ怒ってるよな、やすなちゃんの側にとりあえずジュースを置いた。
「あかりちゃん、横になった方が良いよ」
「いいよ、ほんとに平気だから」
「なに?どしたの?ん?あかりちゃん、元気ないね?体調悪いの?」
無視を決め込んでいたやすなちゃんも心配そうな顔であかりちゃんに寄ってきた。
「ちがう、元気がないのはそうじゃない、そうじゃない、から・・・」
「あかりちゃん?もしかしてアレなの?」
アレってなんだ?
「違う、違う・・・わかんない・・・わかんない」
涙声になり、首を振るあかりちゃんの目から涙がこぼれてきた。
どうした?何で泣いてるんだ?
「あ、あぁ・・・そ、そうなんだ・・・あかりちゃん!」
やすなちゃんがあかりちゃんを抱きしめた。
「わかった、わかったから、ごめんねあかりちゃん、ごめんね」
「どうして謝るの?」
「どうしてって・・・」
やすなちゃんが顔をしかめた。
なんだ?
「あかりちゃん、とにかく今はおちつこっか?背中撫でてあげるね」
背中を優しく撫で始めた。
「うん、ありがとう」
どうしてあかりちゃんが泣いたのかはわからなかった。
わからなかったけど、やすなちゃんが背中を撫で続けている内にだんだん元気になってきた。
「ありがとうやすなちゃん、もう大丈夫だよ」
「うん、わかった」
二人が離れた。
「アキラくんもごめんね、心配かけちゃったね」
「いや、もう平気なの?」
「うん!たぶん、あの、ちょっと疲れがたまってたんだと思う!でも、もう平気だから!心配しないでね!」
疲れてるからって泣かないだろ。
いや、精神的に疲れてたって事か?なんか悩みでもあるのかな?しかし今はそれを聞くタイミングでは無い気がするな。
「海入ろうよ!あ、でもその前に」
あかりちゃんが荷物からシワシワの物体を取り出した、あ、浮き輪か、それを口に咥えて息を入れ始めた。
「はふぅ~中々膨らまないよぉ~」
辛そうだな、俺がやってあげようかな。
「あかりちゃん貸して」
「うん、おねが~い」
浮き輪に息を吹き入れた、時間はかかったけどなんとか膨らます事が出来た。
やっぱり浮き輪も猫の絵柄だった。
「ありがとぉ~・・・ねぇ、二人とも泳げるの?」
俺もやすなちゃんも泳げると答えた。
「いいなぁ~実は私全然泳げないんだ・・・だからもし深い所にいくんだったら、二人とも私の側から離れないでね」
「じゃあ、行かないよ、波打ち際で遊ぼうよ」
「でもぉ、やすなちゃんは?やすなちゃんは海に入りたいよね?」
「そんなにすごい入りたいってわけでもないかな、でもせっかく来たんだし、浮き輪もあるんだし~あかりちゃんだってプカプカ浮きたいからそれ持ってきたんでしょ?」
「うん!プカプカ浮きたい!」
そうだったのか、危うくあかりちゃんの楽しみを奪うところだった。
____________________
「大丈夫だよあかりちゃん、まだここ足つくから」
「つかないよぉ~!」
そりゃ浮いてるからな。
あかりちゃんはかなり怖がっている、プカプカ浮きたいと言ってた割にはそれを楽しむ余裕もなさそうだ。
「うぇーい、うぇいうぇいうぇーい!」
やすなちゃんが手で水を弾いて、あかりちゃんにかけ始めた。
「ふやぁぁぁ」
あかりちゃんは目をつぶって首をふり情けない声を出した。
「だいじょぶだいじょぶ!溺れても私達がいるし!ね?アキラくん」
「うん、浮き輪もちゃんと持っててあげるから、もっと楽しもうよ」
「う、うん」
だめだな、顔が強張っている、これは少し荒療治せねば!
「やすなちゃん!受け取って!」
俺は浮き輪を思い切り押した。
「うわっ、うわっ」
押した力の割にゆっくりとあかりちゃんは回転しながらやすなちゃんの元にたどりついた。
「は~いとうちゃくぅ~じゃあいってらっしゃ~い、それっ!」
「わぁっ!まってまって!」
あかりちゃんはゆっくりコチラに来た。
「やめて~持ってるって言ったのにぃ~」
泣きそうな顔のあかりちゃんだったが、構わず続けた。
しばらく続けていると。
「もっともっと!もっと強くおしてぇ~!」
あかりちゃんがノリノリになって喜び始めた。
「くるくるー!あはは!たーのしー!ぷかぷかー!くるくるー!」
さすがに疲れてきた、やすなちゃんの顔からも疲れの色が見える。
「はぁはぁ・・・あかりちゃん・・・休憩!ちょっと休憩!」
「えぇ~う~ん・・・二人ともつかれちゃった?ふふふ、楽しかった、ありがとぉ~」
浮いている事に慣れたのかあかりちゃんが一人で勝手に動き始めた。
ちょっと目を離しても大丈夫そうだな。
俺はやすなちゃんの側に行った。
「はぁ、疲れたね」
「んふふ、あかりちゃん子供みたい、私も浮き輪持ってくればよかったなぁ~」
「あかりちゃんに貸してもらえば?」
「えぇ~子供からオモチャ取り上げるみたいでヤダ」
俺達から少し離れた場所であかりちゃんが波に乗りながらプカプカ浮いている。
だいじょうぶかな?もし浮き輪が飛ばされても、足はつくから溺れたりはしないよな?
「あかりちゃんが心配?」
「うん」
「じゃあ行けば?」
なんだよ、突然声色が不機嫌な感じになったぞ。
「どうしたの?」
「もういい、めんどくさい、さっさと行ってよ」
「怒ってる?」
「見ればわかるでしょ」
それはわかるけど、何で怒ってるんだ?
ん?あ、またか、また俺の手を握ってきた。
「握り返して」
「またそれか」
何度目だこのやりとり。
もう言い返すのが面倒だ。
「握り返してくれたら機嫌直すから」
「え~それはだめでしょ?」
「だめじゃない、機嫌すぐ直るから、お願い」
やすなちゃんの表情が硬い、こっちに目線を合わせてくれない。
あかりちゃんが少し離れた場所にいる、本人は喜んでる感じだけど、波も少し出てきて危ない気がしてきた。
「ごめん、あかりちゃんを連れて戻るから、ちょっとまってて」
「いかないでぇ!」
痛いほどに強く手が握られた、やすなちゃんの声が涙声に聞こえたような。
「波も出て来たし、もしなにかあったら」
「いかないでぇ・・・なんで、なんで?アキラくんはふられたんだよ、なんでまだ好きとかいってんの」
「今そーいう話をしてる場合じゃないよ、ほら見てよ、波に持って行かれそうだよ」
やばいな、まわりに人がたくさんいるからそれほど危険ではないのかもしれないけど、もしもって事があるからな。
「手を握って、お願い」
「だからそれは・・・」
「握ってくれたら行ってもいいから」
あせる、あせってきた、早くあかりちゃんのところへ行きたい。
「わかった、じゃあ握るよ」
やすなちゃんの手を握り返した、海の中だというのに、とても熱く感じ、そして凄く小さい手だと思った。
すぐに手が離れた。
「じゃあいってくるね」
急いであかりちゃんの元へ向かった。
:最低:
やすなちゃんの声が聞こえた気がしたが、何を言ってるのかまではわからなかった。
泳いであかりちゃんの元にたどりついた。
「あかりちゃん!危ないからこっちに戻ろう!」
「えぇ~あぶなくないよぉ~だいじょうぶだよぉ~」
「波もでてきたよ、もし溺れたらどうするの」
「ん~大丈夫だと思うんだけどなぁ~絶対溺れないっていう自信はないから戻るね!」
やすなちゃんのいたあたりまで戻ったが、見当たらなかった、さきにあがったのかな?
「先に戻ったのかな?そろそろあがる?お昼食べたいし」
「うん!」
二人で海から出た、パラソルの場所まで戻るとやすなちゃんがうつ伏せに寝転んでいた。
「おっひる、おっひる、やすなちゃん!お昼ごはんだよ!」
「ん~」
気のない返事が聞こえて来た。
「やすなちゃんの好きなミートボールもいっぱいあるよ!もちろん私の手作りだよ!」
「えぇ~ほんとぉ?食べる!」
やすなちゃんが起き上がって座った。
弁当箱の中身は、ミートボール、エビフライ、からあげ、ミニトマト、赤いウィンナー、卵焼き、ハンバーグ
と、まさに弁当って感じのラインナップだった、でも美味しそうだな、ウィンナー以外は全部手作りかな?
「ハイどうぞ」
あかりちゃんからファミレスなどでよくみると薄い手拭きと割り箸を手渡された。
メイド喫茶の名前が書いてある、持ってきたのか。
「やすなちゃんもどうぞ」
「はぁ~い、いただきまーす!」
やすなちゃんは手も拭かず箸を割ってミートボールを食べ始めた。
「だめだよ、ちゃんと手拭かないと塩味になっちゃうよ~」
「お箸あるからだいじょぶでしょ~」
「お箸からばいきん伝わっちゃうよ~」
「それはないって~ わかりましたよぉ~ちゃんと拭くから~」
みんなで手を拭いた。
「アキラくんおにぎりもあるよ?食べる?」
「うん、ちょうだい」
ラップに包まれた白い握り飯を手渡された。
「はい、海苔」
あとで巻けばパリパリのままってことか、でも俺は時間がたってふやけたあの海苔の状態も好きだなぁ。
「やすなちゃんもお握り・・・」
「食べる!お腹凄い空いてるから!」
そんな勢いよくいうほど空いてたのか。
「ハイどうぞ、海苔もど~ぞ」
おにぎりを食べると具は梅だった、美味しいけど、シャケとかおかかの方がいいな、あるのかな?
タマゴを食べると甘かった、美味しいけど、甘くない方が好きだなぁ。
「おにぎり美味しい!絶妙な塩加減!でも、海苔はシワシワになったやつの方が私は好きかなぁ~」
「あ、わかるぅ!パリパリの方がいいのかな~って、次作るときは巻いてくるね!」
俺も俺も、というタイミングを見失った。
「卵焼き甘くて美味しい!でも、私は甘くないやつの方がすきかなぁ~」
「あ、わかるぅ!私もダシ巻タマゴの方が好きだよ!」
「あの、俺も、そう」
「そうだったの~アキラくんは甘党って言ってたから、甘い方がいいのかなって・・・今度はダシ巻卵にするね!」
「あ、ごめん、せっかく作ってきてくれたのに、文句みたいになって」
「んーん!好みはどんどん言ってくれた方が作りやすいからどんどん言ってね!」
俺はからあげに箸を伸ばした、ジューシーだ!冷凍食品的な味がしない、手作りって感じのちょうどいい塩加減としょうゆの味がした。
「アキラくん、からあげおいしい?」
「おいしいよ、やっぱり冷凍とかより手作りの方がいいね」
「ほんとはニンニクとかも入れようと思ったんだけど、もし苦手だったら、と思って入れなかったんだ」
「平気だよ、今度はそれ食べたいな」
「うん!今度は混ぜて作るね!」
あかりちゃんがニコニコしはじめた。
「わたし、にんにく嫌い」
「あっそうなんだ、やすなちゃんも食べれるように2種類作るからね」
「ねぇあかりちゃん、ウィンナーはなんでタコさんじゃないの?」
「数がいっぱいあるから、ちょっと手抜きしちゃった!」
「ふぅ~ん、たしかにこれだけの量いちいち切ってたら時間かかるよね、それじゃしょうがないよね」
「ねぇアキラくん、アキラくんもタコさんの方がいい?」
「俺はどっちでもいいけど・・・」
タコさんウィンナーにそこまで思い入れが無い。
「ねぇあかりちゃん・・・エビフライ美味しいよ、タルタルソースも手作りなの?」
「うん!そうだぉよ~」
「へぇすごい・・・わたし料理下手だから、こんなに色々作れるあかりちゃんの事、凄くウラヤマシイヨ」
エビフライに箸を伸ばした、小さいエビだけどプリプリしてて美味しいな、衣もサクサクだ、言っていたソースも美味しい。
「本とか見れば簡単だよ!」
「わたし、本見てもだめだった、才能ないと思う」
「じゃあ今度いっしょに作ろう?」
「え、うん・・・才能ないけど出来るかな?」
「できるよぉ~!」
俺はミートボールに箸を伸ばした、甘辛いソースでごはんが進むな。
「あかりちゃん、コレ凄くおいしいよ、おにぎりまだあったら頂戴」
「うん!まだまだあるよ!作りすぎちゃったからどんどん食べてね!」
_________________________________
お弁当を完食した。
「ぐぁ~おなかいっぱいだ~これはしばらくうごけんなぁ~」
シートに寝そべった。
「わたしゴミ捨てて来るね~」
「う~い」
あかりちゃんが弁当から出たゴミやら空き缶などを持って行ってしまった。
だいぶ涼しくなってきたな、海風が体にあたって気持ちいい。
「ねぇ、あかりちゃんていい子だよね」
「そだね~」
「わたしなにやってんだろ」
「なにが?」
「うるさい!」
麦わら帽子が飛んで来た。
何怒ってるんだ?まぁいいや、今は横になってゆっくりしてたい。
そのあとも3人で海に入って遊んだ。
泳ぎを教えてあげようか?と提案してみたもののあかりちゃんに断られた、浮き輪から離れるのが相当怖いらしい。
あかりちゃんはスイカ割りをやってみたい!とか言ってたけど残念ながらスイカ割り禁止の看板が立っていたので残念がっていた。
風がかなり冷えてきたので帰る事にした。
___________________________
帰りの電車内、疲れのせいか眠気が襲ってきた。
あかりちゃんとやすなちゃんは何だか盛り上がっているな、その騒ぎ声がちょうどいい子守歌となっていて、ますます眠く・・・
「ねぇアキラくんちょっとコレ見て」
「ああああああああああ!」
あかりちゃんが雄叫びをあげて飛び込んで来た。
その拍子に何かが落ちた。
なんだ?プリクラの手帳か、拾い上げて見た。
「みちゃだめぇぇぇぇ!!!」
そのページ一面に目を疑う光景が広がっていた。
なんと、あかりちゃんとやすなちゃんが舌をペロっと出し、恥ずかしそうな表情でシャツの首回りを少し下げて胸元を見せ必死に寄せていた。
お、二人とも谷間がある。
ほかのプリクラに目をやるとスカートを少しあげて見えるか見えないかのギリギリのラインをキープしてたり、ほかにもシャツをめくってお腹を見せているのもあったり・・・
俺の手元から手帳が弾き飛ばされた。
あかりちゃんが電車の床に座り込んでこっちを見ていた。
「わぁぁぁぁ!みたぁ?みたぁ?ちがう!ちがうよ!やすなちゃんがやれっていったの!だから仕方なくやったの!」
「えぇ~私は「やれ」なんて言ってないよぉ~「やってみる?」って疑問形だったはずなんだけどな~それにあかりちゃんも結構ノリノリで・・・」
「ちがう!ちがうよ!そんなのウソ!」
あかりちゃんが物凄く動揺しているな、顔が真っ赤だ。
「うそじゃないよ~あのねアキラくん、あかりちゃんって結構えっちな会話もいける子だよ」
「わああああああああ!もう言わないで!何も言わないでぇぇぇ!」
あかりちゃんがやすなちゃんに飛び掛かっていった。
二人がじゃれあっている、というかあかりちゃんがやすなちゃんの口を両手で塞いでるだけだった。
「ふごぐごごごごご!」
やすなちゃんが苦しそうだったので。
「あかりちゃん、それぐらいにしといてあげたら?」
「あ、あぁ!ごめん!ごめんね!だいじょぶ?」
「あ~あははっ面白かった・・・まだまだほかにも言いたい事いっぱいあるんだけどなぁ~」
「わぁぁぁ!さて話題を変えましょう!!今度みんなでカラオケ行こ!」
「あれれ~あかりちゃんって人前で歌うの恥ずかしいって言ってなかったぁ?」
「さすがにほぼ毎日歌ってたら慣れてきちゃった!アキラくんに私の歌と踊りを最後まで見てほしいのっ!」
この前は途中で帰っちゃったからな。
「うん、俺も見たいよ」
「それじゃ決まりだね!」
カラオケか、長い事行ってなかったな。
・・・。
ピンク、か。