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「あれ?もういいの?」
回復の泉から出たらやすなちゃんがいた。
「うん、寝てたら回復したよ」
「ちがうちがう、ちょっとこっち来て!」
やすなちゃんに腕をひっぱられ、あかりちゃんから引き離された。
「あかりちゃん!ちょっとアキラ君借りてくね!あ、帽子預かっててね、すぐ戻るから待っててね~!」
あかりちゃんがいた場所からそんなに離れてはいないが、アチラからは見えない位置まで来た。
「したの?したよね?」
やすなちゃんの顔が少し赤い、それになんだか興奮気味だ。
「なにを?」
「告白したかって聞いてるの!」
「うん」
「マジで!?アキラくんなかなかやるね!で、で、どうだったの?うまくいったの!?」
やすなちゃんの目が輝いてきた、女の子が恋バナを好きだという話を聞いたことはあったが、こんなタイミングでわかるとは。
「だめだった」
「えっマジで!?うそぉ!!なんで~?」
「なんでって言われても、あかりちゃんは俺の事好きじゃないってさ」
「そんなはずないって!同性から見てもあれは絶対恋してるってわかるから!あ、もしかして・・・無理やりキスとかしようとしたんじゃないの!」
やすなちゃんの鼻息が荒くなってきた。
「してないよ」
「じゃあなんで!」
「だからぁ、あかりちゃんは俺をそーいうふうに見てないんだってさ」
やすなちゃんは腕を組んで首をひねりだした。
「あかりちゃん、ほかに好きな人でもいるのかな」
「それはない」
独り言のようなやすなちゃんの言葉に思わず反応してしまった。
「んふふ、何あせってんの~?」
「そりゃあせるよ、だってあかりちゃんの事好きだし」
「うわぁうわぁ!言うねぇ!そんなに好きなのにふられちゃったんだぁ~相当ショックでしょぉ?」
なんだろう、軽く小バカにしているような言い方だな。
「うるさいな、そんなのあたりまえだろ」
「なになに、怒ったのぉ?」
「別に怒ってないよ、あかりちゃんとはこれからもいい友達でいようと思ってるし、一緒にいて楽しい事にはかわりないしさ!」
「あらあら・・・あれ~アキラくん、耳になんかついてる~」
「えっ!?」
まさかあの時のゴキブリか何かか!あの時俺の服か何かに入ってたに違いない!
右耳、左耳、はらうようにして撫でた。
「取ってあげるから耳かして」
やすなちゃんが手を扇いで俺に屈むように催促した。
俺よりかなり身長の低いやすなちゃんに合わせて、身体を少しかがませて耳を向けた。
「元気出してね、ちゅっ」
「はぁ!?」
やすなちゃんから、かなりに勢いで飛びのいた、やすなちゃんが俺の頬にキスをした。
「なにしてんの!」
「何って・・・慰めのちゅっちゅっに決まってるでしょ~」
おどけたような口調はしてるけど、ちょっと目が潤んでて、頬も赤くなってるし、相当恥ずかしいと思ってるんじゃ。
「恥ずかしいならするなよ!」
「なによぉ~せっかく慰めてあげたのにぃ」
「慰めるのはいいけど、こーいうやり方はびっくりするだろ」
「じゃあ、どーいうやり方ならいいの?」
やすなちゃんがゆっくりと歩み寄り、俺の両腕をつかんで、正面から体をくっつけてきた。
や、やばい、ドキドキする、その表情は反則だ、子供の顔して、何でそんな大人の表情できるんだ。
「だから、こーいう事はびっくりするからやめろって・・・」
「屈んで、屈んでくれたら口にちゅーしてあげるから」
「じょ、じょうだんはよせよ」
「冗談を言ってる顔に見える?」
見えない。
「はやく、かがんで、それとも私から背伸びしてやってほしいのかなぁ?」
顔が熱くなってきた。
本気でそんな事言ってるのか?
慰めのキスでそこまでするか?
やすなちゃんはいったい何を考えているんだ?
なんにせよ。
「だめだこんなこと!」
俺はやすなちゃんの肩を強くつかんで、強引に体を引き離した。
「いった!なにするの!人がせっかく・・・」
「だめだよやすなちゃん!そんな簡単にキスとかしちゃだめだ!キスは好きな人とするものだよ!」
「えっ、えっ?」
「こーいうことはふざけてするもんじゃないよ!まぁでも、さっきのほっぺはありがとう、ぶっちゃけちょっと元気出た!」
やすなちゃんが呆気にとられたような顔をしている。
俺そんなへんな事言ったかな?
「あは、あははははは!アキラくん何言ってるの?おかしいおかしい!あはははっ!」
めっちゃ笑われてる、まじめな事いったつもりなんだけどな。
「あははは!やばいやばい、涙出て来た!アキラくんて相当面白いね!」
「そこまで笑う事かよ、俺はまじめに言ったんだぞ」
「ごめんごめん!おこんないで!あはは・・・あ~あ・・・あぁ~・・・ハァ・・・やっと落ち着いてきた」
やすなちゃんが目についた涙を手でぬぐっている。
「あぁもう、あかりちゃんが待ってるよ?早く戻ろ」
そう言って一人で先に行ってしまった。
俺もあかりちゃんがいた場所まで戻る事にした。
麦わら帽子で顔を扇ぐあかりちゃんが俺たちに気づいた。
「あ、おかえり」
「おまたせ~さてと、まだまだ遊び足りないよね?次はどこにいこっか?」
やすなちゃんが地図を広げ始めた。
「あっこれ、これなんかどうかな~?わたし高い所すきなんだよねー?」
やすなちゃんが俺をチラ見した、やすなちゃんが指差すそのアトラクション名は。
「ラブラブ恋の観覧車、あのアニメの名シーンをあなたもここで再現してはいかがでしょう?成功すること間違いなし・・・」
嫌がらせか!
「いいねぇ!私も高い所好き!私も乗りたい!」
あかりちゃんがノってきた。
「じゃあ二人で乗ってきてよ、俺は下で待ってるから」
「何いってるの!外なんかにいたらまたぶっ倒れるでしょ!みんなで乗るの!ハイ決定!」
やすなちゃんに強引に手を引かれて3人で観覧車に乗る事になり、、片側に俺一人が座り、反対側にやすなちゃんとあかりちゃんが座った。
内部音声で元ネタのアニメの名シーンの音声が流れている、自分の気持ちにようやく気付いた主人公がヒロインに告白する感動ラストシーンだ。
やめろ!やめてくれ!まるでさっきの俺じゃないか!恥ずかしいわ!しかも俺は失敗してるしな!
音声を聞かないように窓から外を眺めていると、一番高い場所へと到達した。
「あかりちゃんあかりちゃん!湖!湖だよ!魚!魚!それはさすがに見えないか~あはは」
「イルカは!イルカ!イルカいる!?」
湖にイルカっているのかな?いなさそうだけど、いそうな気もするなぁ。
それにしても謎のハイテンションな二人だな。
「あかりちゃん!橋!車渋滞してるよ!」
「うわほんとだ~重さで落ちたリしないのかなぁ?」
落ちないよ。
「ねぇあかりちゃん!湖見てたら、海行きたくなってきた!今度は海行こうよ!」
「うんうん!アキラくんも行くよね?」
「うん」
海か、海と言えば水着だよな。
二人の水着姿楽しみだなぁ・・・二人の胸に目が行った。
あかりちゃんもやすなちゃんも、うーんだな。
単純にどんな水着を着て来るか楽しみにしていよう。
再び外を眺めた。
「ねぇ!」
やすなちゃんが隣に座ってきた。
「何たそがれてんの!」
「景色見てだけだよ」
「元気でたんじゃなかったの」
やすなちゃんが小声で耳打ちしてきた。
あかりちゃんは外の景色に夢中で、コチラを全く気にしている様子はない。
んん!?
手、手が、俺の手の上にやすなちゃんの手が乗ってる!
何してんの?たまたま?たまたま乗っただけ?いや違う!撫でられてる!手が撫でられてる!
やすなちゃんなにしてんの?チラチラチラチラ、あかりちゃんの様子気にしてるけど、あかりちゃんは全く気付いていない。
手が離れた。
「あ~アツイアツイ!こっち冷房あんまり効いてないのかなぁ~やっぱそっちに戻ろうっと~ヴぁぁーあかりちゃーん!」
「きゃぁ!あははは!」
やすなちゃんとあかりちゃんがじゃれている。
なんだったんだ?俺の事からかって遊んでるのかな?さっきだってあんな事してきたしな、やすなちゃんはからかい上手だな。
観覧車が地上に降りた。
そのあとも色々なアトラクションを回って、俺たちは遊び疲れて帰る事となった。
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「今日は凄く楽しかったよ!アキラくん、やすなちゃん、それじゃまたね」
「うんまたね」
「あかりちゃ~んまた明日ね~」
帰りの電車、あかりちゃんが先に降りた。
電車内にほかの乗客はいない。
電車の窓から夕日が見える。
まぶしいな。
「ねぇ」
やすなちゃんが俺の手に自分の手を重ねて来た。
「またか!さすがに二度目は通用しないぞ!」
「へ?なにいってるの?」
「何って、俺をからかって遊んでるんでしょ?だめだめ、もうこれぐらいじゃドキっとしないからね」
「ふ~ん、じゃあこーいうのは?」
やすなちゃんの手が俺の手の下に滑り込んでいき、下側から指と指とが絡み合う握り方をされた。
さすがにそんなに握られるとドキドキするな。
「降参!降参するから!もう放してよ!ホント、やすなちゃんはからかい上手だなぁ」
「さっきから何言ってるの?ていうか、握り返してほしぃんだけどなぁ?」
「え?」
甘えるような声を出し、俺をじっとみつめるその瞳が潤んできている。
やすなちゃんの顔が赤い、夕日!夕日だ!夕日のせいでそうみえ・・・違う!夕日はこんなに赤くない!
「やすなちゃん!だめだよ、こーいうことしてると、俺勘違いしちゃうから!」
「勘違いってなぁに?」
「ありえない勘違いだよ!やすなちゃんて俺の事好きなんじゃ?みたいな・・・ホラ!ここ笑うとこだよ!笑って笑って!」
「勘違いしてもいいよ?」
はぁ?それってつまり、そんなワケないだろ!だってやすなちゃんとはまだ知り合って間もないんだぞ?
ありえいないだろ常識的に考えて!やっぱり俺の事からかってんだ!そうだ!そうに違いない!
「おか、おかしいって!さすがにそれはおかしいって!知り合って間もないんだよ?そ、そんな相手を好きになるわけないでしょ!常識的に考えて!」
「おかしくないでしょ?アキラくんだって知り合って間もない、あかりちゃんの事好きになったでしょ?」
「そ、それは!あかりちゃんとはたしかに間もないけど!数週間はたってるし!何回か遊んだし!電話もいっぱいしたし!色々話もして・・・だから好きになったんだ!」
「ん~私だってアキラ君とは会うのは三度目だし、電話もしたし、メイド喫茶で会話もしたし、今日だって結構会話したよねぇ?」
「いやいや!おかしいって!な、なんで?ありえないって!」
やすなちゃんがムっとした表情をした。
「おかしいおかしい言わないでよ!好きになったんだからしょうがないでしょ!知り合ってからの日数とか電話とか会話とかそんなの全然関係ないでしょ!」
「関係あるよ!だってそーいうのを繰り返して好きになっていくもんでしょ?」
「じゃあひとめぼれは?ひとめぼれって日数も電話も会話も全然関係ないよね!」
見事に論破された。
やすなちゃんの言うとおりだ。
「じゃ、じゃあ!やすなちゃんは俺にひとめぼれしたっていうの?」
「ちがっ!ちがう!わたしがひとめぼれとかするわけないでしょ!」
「じゃあなんなんだよ!俺の事いつ好きになったんだよ!」
「おむらいすぅ!ケチャップで書いた絵、かわいいって、わらってるって気付いてくれて・・・そしたら、もう、好きになってた」
「え、えぇ~!そんな些細な事で好きになるのぉ!?」
やすなちゃんが頬をカエルのように思い切り膨らませた。
「うるさいなぁ!べつにいいでしょ!ていうか手握り返してよ!」
やすなちゃんが俺の手を痛いほど握ってきた。
「いたいいたい!握り返すとか無理だよ!」
「なんでよ!ちょっと指動かすだけでしょ!」
「だって恋人つなぎは恋人同士がするもんでしょ!」
俺間違ってないよな?
「じゃ、じゃあ・・・恋人になってよ!」
やすなちゃんの鼻息がかなり荒い、興奮状態だな。
ていうか、何言ってんだこの子!
「くぅぅぅ!勢いで言っちゃった!やばっ、恥ずかしい!今のなし!聞かなかったことにして!」
「あ、あぁ、うん、やっぱりそうだよね?俺の事好きとかなしだよね?」
「それはありぃ!」
「あんのかーい!あぁもう何かツッコミみたいになってきた・・・やすなちゃんお互いに一旦落ち着こう!冷静に話し合おうよ!」
「そ、そうだね・・・すっごいドキドキして、わけわかんなくなってきた、こんなのいつもの私じゃな~い」
やすなちゃんが恥ずかしそうに両手で顔を塞いだおかけで手が離れて、徐々に落ち着いてきた。
「あか、あかりちゃんが、アキラくんの事好きだと思ってたから、だ、だから、言わないでおこうと思ってたけど・・・まさかそんな事になるなんて全然思ってなかった」
俺もちょっとは期待してたんだけどなぁ。
「やすなちゃんが変な事いうから俺期待しちゃったじゃ~ん!」
「ごめん、だからお詫びの意味も込めてちゅーしてあげたんでしょ!」
「うん、あれはほんと元気出たよ」
「なっ、なにその急に素直になるのやめてよ!もっもぉ!」
やすなちゃんが俺の頬にキスをした。
なにやってんの?なにやってんの?
「もっと元気でたぁ?」
上目遣いで言ったその言葉に、俺の心が締め付けられた。
か、かわいい、だからそれダメだって!子供の顔して、大人な表情をするそのギャップは反則だよ!
「出た出た!出るにきまってるじゃん!」
「えへへ、嬉しい、じゃあもっとしてあげる」
俺は素早い動きで自分の頬を手でガードした。
「なによぉ!今、元気出るっていったよね?何で嫌がってるの!?」
「もっもっもっ、もう十分!そんなにしてもらわなくていい!もったいない!もったいないって!」
「嫌がられたら余計したくなってきた!」
俺の手を強引にどかそうとやすなちゃんが必死に力を入れてくる。
ちからよえぇ!これだと安心だわ。
「もぉ!もぉもぉもぉもぉぉぉぉ!」
額を何度も手で殴られた。
全然痛くない。
電車の速度が落ちて来た。
よ、よし!ここはやすなちゃんが降りる駅だ!
「やすなちゃん!駅!もうすぐ駅だよ!」
やすなちゃんが突然俺の胸に飛び込んで来た。
シャツを両手で握りしめながら、顔を思い切り俺の胸に押し付けている。
「好きぃ!」
電車が駅について扉が開いた。
やすなちゃんが勢いよく立ち上がり物凄いスピードでドアから走って出て行った。
「ちょー!帽子!わすれっ・・・あぁ」
追いかければ間に合うかもしれないけど、まぁ別にいいか、今度渡せばいいし。
それにしてもまさかこんな事になるなんて。
でも俺が好きなのは、あかりちゃんなんだよなぁ。
ふられちゃったけどね。