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15

あかりちゃんから電話がかかってきて、二人だけでお出かけすることになった、やすなちゃんには内緒で。


絶対バレないようにしてね!と何度も念押しされた。



この前まで秋の空気だったのに、冬の空気がもう顔を出してきていた。

肌寒いではなく、コートを着ないと寒い季節になってきた。


「そのコート似合ってて凄く可愛いよ」


白のダッフルコートが黒いツインテとあって良く似合っている。

コートの丈が長い為に下に穿いてるものが見えない。

その代わりに黒いストッキングが見えていて、ついつい見てしまう。


「アキラくんも色は違うけどおんなじダッフルだね!似合っててかっこいいよ!」


「かっこいいのはダッフルだけでしょ」


俺は黒いダッフルコートを着ていた。


「違うよぉ!コートを着てるアキラくんがかっこいいの!」


「このコート高かったからねぇ」


「もぉ!かっこいいってばぁ!」


軽く肩をぶつけられて、あかりちゃんが手を繋いできた。

しっかりとその手を握りしめた。


「実はさっき、やすなちゃんから電話があったんだよね、何か俺に用があったみたいだけど、今日の事があったから用事あるって言って断った、やすなちゃんの為とはいえ、ウソをつくのは心苦しかったよ」


「私が内緒にしてって言ったから・・・ごめんねぇ」


「謝らないでよぉ、こーいうのは内緒にして、驚かせてやるのが一番だからね!サプライズだよ!・・・まぁ、その時が来たらちゃんと謝ろうかな、ウソはウソだし」


「じゃあ私も一緒にあやまるぅ!」


「なんでぇ、あかりちゃんは別にウソついてないでしょ?・・・つめたっ!」


首元に冷たい何かが落ちて来たので、空を見上げると薄暗い空から白い雪が降りはじめてきた。


「まじで!もう雪とか降っちゃうの!?ちょっと早くない?」


「今日は寒いもんねぇ・・・」



_______________


歩道橋を渡って、この前やすなちゃんと来たファンシーショップにやってきた。


「これこれ!ね?凄い大きいでしょ?」


先日見た大きいクマをあかりちゃんに見せた。


「想像以上だよ!これあげたら絶対喜ぶね!」


「ほんとにこれ買うの?見ての通り結構いいお値段だけど・・・」


「ふふん!こんな事もあろうかと、日頃から貯め込んでおいたのだよ!まっかせなさぁ~い!」


あかりちゃんはドヤ顔で自分の胸をグーで叩いた。


「俺もちょっとは出してあげたいんだけど、今月色々ピンチで・・・」


「いいよいいよ~!やすなちゃんはアキラくんがいるだけでサプライズになるよ!!」


「そうかもしれないけど、さすがに何もあげないってのはアレだから、この前やすなちゃんが欲しがってクマの小物とかぬいぐるみとか、買えるだけ買っておこうかな」


あの時ひとつにしてと言って買えなかった、欲しがっていたクマグッズを買い込んだ。

さすがにデカクマは持って帰れないので、その時に送ってもらう事にした。

クマグッズは可愛いリボンと包み紙で包装してもらったが、量が多すぎた為か大きな袋を両手で持つ事となった。


ショップの外に出ると、先程降り始めた雪が勢いを増し、地面に白い雪が少し降り積もっていた。


「うわっと!」


地面の雪に足を取られて、少し滑った。

両手に大きな袋を持っていた為に、これでは受け身が取れないな、もし転んだらえらい事になっていたかも。


「あぶないよぉ!私がその袋を持っててあげる」


「いやいいよ、だいじょぶだって」


「いいからいいから!私の靴は滑りにいくから大丈夫だって!」


俺の手から袋を強引にあかりちゃんが取っていった。


「でも危ないよ!せめて一個づつ持とうよ?ね?」


「うん、じゃあ一個づつね」


袋を片手で一個づつ持ち、手を繋いで歩道橋の階段を上がった。


「楽しみだなぁ・・・早くその日にならないかなぁ」


あかりちゃん凄くニコニコしてる。

俺も楽しみだな。


「そうだね、でもその日まで内緒にしてるのは辛いかも」




「何が内緒なの?」




階段を上り切ったところで今一番会ってはいけない人物に会ってしまった。


「やすなちゃん・・・あ、いや、別に何でもないよ!」


「ナイショってなに?アキラくん」


真面目な顔でそう聞いてきた。

何だか少し機嫌が悪い。


「どうしようあかりちゃん・・・」


小声でそう言った。


「だめだよいっちゃ!」


あかりちゃん声デカイって!


「二人して内緒話?何を隠してるの?私にも教えてよ」


やすなちゃんがニコニコしながら近づいてきた。


「あ、あぁ・・・それはちょっと・・・」


「アキラくんダメ!言っちゃダメ!」


「いやでも、何か怒ってない?これは言った方がいいんじゃ・・・」


「別に怒ってないよアキラくん、何を内緒にしてるか私にも教えて?それで済む話だから」


笑顔が怖い。

やっぱり怒ってる。


言った方がいい、これは絶対言った方がいい。


嫌な予感がする。


言った方がいい!絶対言った方がいい!


「やすなちゃん実はね・・・」


「アキラくんダメ!今言ったら何もかも台無しだよ!」


「何が台無しなの?あかりちゃん」


やすなちゃんが笑顔であかりちゃんに詰め寄っていった。

どうした?怒ってるとはいえ、何か様子が変だぞ。


「うぅぅ・・・ごめんねぇ、今は言えないのぉ」


「どうして?どうして言えないの?私だけ仲間はずれなの?」


「ちがうよっ!仲間はずれとかじゃなくて・・・」


あかりちゃんの表情が泣きそうになってきた。


「ねぇアキラくん、今日は用事があるって言ってたよね?これがそうなの?」


「う、うん・・・」


怖い。

やすなちゃん怖い。

そんなに睨まないでくれよ。


「どうして言わなかったの?あかりちゃんと遊ぶから私とは会えないってどうして言わなかったの?」


「いや、そーいうわけじゃ・・・実は今日二人で・・・」


「だめっ!言っちゃだめ!」


「もう言おうよ!やすなちゃんは何か誤解してる!!」


これは絶対に言った方がいい!!


「アキラくんお願い!!」


あかりちゃんが懇願してきた。



:楽しみだなぁ・・・早くその日にならないかなぁ:



さっきの楽しみにしていたあかりちゃんの顔が脳裏に浮かんで、俺は言葉を飲み込んだ。


「やっぱりそうなんだ、ほのかの言ってたとおりなんだ」


ほのかちゃん?やすなちゃん、君は何を言って・・・。


「おかしいなって思ったの、だってアキラくん何か様子が変だった・・・気になった、ほんのちょっぴり気になったの、だからちょうど帰って来たほのかに言ったの、そしたら・・・」


やすなちゃんの目から涙がこぼれてきた。


「さっき二人で歩いてるの見たって・・・あれ?なんで?アキラくん何で用事があるなんて言ったんだろ?何で私に隠し事してまであかりちゃんと会ってるんだろ?・・・そしたらほのかが・・・」



:あの二人・・・おねぇちゃんに隠れて付き合ってるんじゃない?:



「って言ったの」


「ないない!そんなわけないよ!!!違う!!!実は今日二人で会ってたのは君のたっ・・・」


視界がぐるっとまわった。

何が起きた?


アゴが物凄く痛い。


あぁ?殴られた?

おかしいな、やすなちゃんにそんな力はないはず。


俺は地面に尻もちをついた。

雪のせいか、両手とお尻が物凄く冷たい。


「あぁ・・・うぅ」


視界がぼやけて定まらない。

頭がクラクラする。

気持ち悪い。


「アキラくんどうしたの!しっかりして!!」


「あぁ・・・あぁ・・・」


立てない。


言わないと。


今日二人で会ったのは・・・。


早く言わないと・・・。


「信じてたのに!!3人でずっと一緒にいようって二人が言ったんだよ!!!だから私信じてたのに!!どうして!!どうして!?何で!?なんで隠れて付き合ってるのぉぉぉぉ!!」


「やすなちゃん違うっ!私達付き合ってなんかない!!誤解だよ!!」


違う、あかりちゃん、それより早く言わないと。


早く言って!!


「やすな・・・ちゃ・・・ちがうぅ・・・きょ、きょうは・・・た、たた・・・び・・・」


だめだ、喋れない。

あかりちゃん!お願い!


早く言って!!!


「あ、あか、りり、い、いって・・・」


だめだ!舌が全然回らない!!!


「うそつきぃぃぃ!!!」


「やすなちゃんまって!!!」


視界がぼけやけてよくわからない。

足音がどんどん遠ざかっていく。


追いかけないと・・・。


這った。


這って進んだ。


階段だ、手すり・・・あ、あった。


視界がぼやけたまま手すりを持って、しゃがみこんだまま少しづつ階段をおりていった。

二人は先に行ってしまったのか、早く追いつかないと・・・。


ゆっくりゆっくり一段づつおりて行った・・・。


なんだ?何かあるぞ?

でも、目の前は真っ白だ。


ぼけやていてもわかる、これは雪だ。


でも何かある。

なんだこれ?


「あかりちゃぁぁぁぁぁん!!」


え?やすなちゃん?どうしたの?

何て声出してるの・・・。


女の子がそんな声出したらダメだよ・・・。


手に何か暖かい物が触れた。

なんだこれ?お湯?何でこんなとこにお湯が流れてるんだ?


「あかりちゃぁぁぁあっあああああああ!!!いやぁぁああああああああああ!!!!」


?????????


どうしたの?


何?


視界が少し回復してきた。


俺の手が、指先が赤い。


なんだこれ?


「やだぁぁぁぁ!!あかりちゃぁぁぁん!!!おきてぇぇぇ!!ねぇ!!おきてぇぇぇぇぇ!!」


???????


白い物の正体がわかった。


それは。


地面に倒れているあかりちゃんの白いコートだった。


じゃあこの赤いものは・・・。


血だ。



「アキラくん!どうしよっ!!!あかりちゃんが!!あかりちゃんがぁぁぁ!!!」


体を揺さぶられて、だんだんと意識がハッキリしてきた。


あかりちゃんが地面に倒れて全く動かない。


あぁ、救急車呼ばないと。


ん?救急車・・・救急車って何番だっけ?


「ねぇやすなちゃん、救急車って何番だっけ?」


「こんなときにふざけないでよぉぉぉぉぉ!!!」


「ふざけてないよ、ねぇ何番だっけ?」


「ひゃくじゅうきゅうばん!!」


やけに俺は冷静だった。

何で俺は冷静なんだ?

あかりちゃんが大変だっていうのに。


携帯を取り出して、119とゆっくり押した。


「はい、救急の方です・・・そうです・・・はい、さぁ?・・・やります・・・意識は・・・あかりちゃん?お~い・・・意識は無いみたいです、はい」


電話に出た人に状況を伝えた。


「あかりちゃん!!あ、あかりちゃん??わかる??」


ん?やすなちゃんの呼びかけに反応して、あかりちゃんの手が動いてる。

その腕をやすなちゃんの方に向けて必死に伸ばそうとしている。


あぁ良かった。


「あかりちゃん?元気?」


元気ではないだろ。

何言ってんだ俺。


「あ、あっ・・・やすなちゃ・・・これ・・・あげる・・・」


「え?なに?」


あかりちゃんの手には何もない。

その手の平にあるのは空から降り注ぐ雪だけだ。


何も握られていないのに、何をあげるの?


「あげ・・・る」


「何!?なんなの!?あかりちゃんしかっりしてぇぇ!!」


「そうだよあかりちゃん、しっかりしないと」


ホントしっかりしてよ。


「た、たた、たんじょうび・・・お、おめ・・・おめ・・・おめでとぉ・・・びっくり・・・したぁ?」


「え?あかりちゃん?え?」


やすなちゃんが瞬きを繰り返して混乱している。


あかりちゃんが薄目を開けて少し微笑んだ。

額から血が流れてる事に今気づいた。


「だめじゃないかあかりちゃん、バラしちゃだめだよ、今日はまだ誕生日じゃないよ?」


「え・・・え?・・・あれ?・・・お、おか・・・おかしぃ・・・なぁ・・・・あは・・・」


混乱してるみたい。

しょうがないなぁ。


まわりを見わたしてみるとあった。

大きな袋。


破けた袋からはクマの足が出ていた。

俺は袋を破いて無理やりクマのぬいぐるみをひきづりだした。


「あかりちゃん、ほらこれ、もうバレちゃったし良いよね?ハイ、ちゃんと渡して」


「・・・」


「あかりちゃん?やすなちゃんに渡して」


返事が無い。


「こんなとこで寝ちゃだめだよ、風邪ひくよ?」


「・・・」


「あかりちゃん?ねぇ?どうしたの?」


返事が無い。


困ったな。


遠くから救急車のサイレンの音が聞こえて来た。


「ウソ・・・まさか・・・ウソ・・・わたしの勘違い?・・・ねぇアキラくん?・・・ねえ・・・もしかして今日は・・・」


「え?今日は違うよ、今日はやすなちゃんの誕生日じゃないよ?」


「やっぱりそうなの?もしかして、今日は二人で・・・あ、ああああ・・・・そんなぁ・・・どうして・・・どうしてぇ・・・どうして私・・・二人の事・・・どうしてぇぇぇぇ!!!」


やすなちゃんが頭を抱えて地面に突っ伏した。


救急車が来た。

中から人が何人か下りて来る。


「電話をくれたのはアナタですか?」


「あ、はい」


あかりちゃんの額の傷を誰かが見ている。

目に光をあてたりしている。


「この方のお名前は?」


「あかりちゃんです」


「あかりさ~ん!わかりますかー?手は動かせますかー?」


返事が無いし、手も動いていない。


あかりちゃんがタンカに乗せられて救急車に乗った。


「あなた達も乗ってください!」


そう言われたので乗る事にした。


救急車なんて初めて乗るなぁ・・・。


「名前を呼んであげてください!」


「あかりちゃん!!あかりちゃぁぁん!!」


やすなちゃんが叫んでいる。

あかりちゃんの手を強く握りしめて叫んでいる。


あかりちゃんの返事はない。


薄目を開けているのに返事が無い。


なんにも反応がない。


「・・・あかりちゃん?」




ウソだろ?


ようやく俺は事の重大さを理解した。


涙がたくさんこぼれてきた。


今更か?おせぇよ!!!


「あかりちゃん!!!ねぇ!!うそだろぉぉぉ!!!そんなぁぁ!!!おきてよぉぉ!!あかりちゃああああん!!!あかりちゃああああああん!!!」


叫んだ、叫び続けた。

喉が痛くなっても叫び続けた。


__________________


薄暗い病院。

非常口の明かりだけがやけに目立って見えていた。


緑色の長いイスに、やすなちゃんと二人でただじっと並んで座っていた。

さっきまでずっと泣いていたやすなちゃんはさすがに泣き疲れたのか、静かにイスに座って下を向いている。


その手にはクマのぬいぐるみがしっかり握られていた。

よく見ると右手の甲が紫色になっている。


「手、大丈夫?あとで見てもらお?」


返事はなかった。


誰かがこっちに歩いてきた。


「ご家族の方ですか?」


「いえ、友達です」


「ご家族の方にご連絡していただけないでしょうか?」


え?


それってまさか。



「あかりちゃん!!あかりちゃんは!?」



座っていたやすなちゃんが立ち上がり、大きな声を出して叫んだ。


そうだよ、あかりちゃんはどうなったの?


ご家族を呼ばなきゃならない状態なの!?


「ちょっ、ちょっと!大丈夫です!!意識は回復して、命に別状はありません!!」


「さきにそれいえよぉぉぉぉ!!!!!」


物凄い腹が立った。

一番重要な事を先に言え!!!


喉いてぇんだから叫ばすなよ。


「申し訳ありません、なんとかご家族の方にご連絡を・・・」


「あぁ?やすなちゃん、お父さんの番号知ってる?」


「しらない」


無感情なやすなちゃんの声が聞こえて来た。


「あの、あかりちゃん、女の子の携帯持ってきてくれませんかね?たぶん持ってると思うんですけど」


すぐに携帯を持ってきてくれた。


画面にヒビが入ってはいたが、壊れてはいない。

だってその画面には3人で一緒に撮ったあの時の画像がうつってるんだから。


登録してあった「パパ」に電話をかけた。


「もしもし」


聞き覚えのある声だ。


「あの、こんばんわ・・・あかりちゃんが・・・あの」


言いづらい、いくら命に別状が無いとはいえいいづらい。


「その声は・・・アキラくんだね」


「ハイ、そうです、あの・・・あかりちゃんがけがをして、でも元気みたいです!!意識もあって命に別状はないって!!!」


「それで、私はどこにいけば?」


お父さんに病院を教えた。


_______________


数十分後、あかりちゃんのお父さんが来て、看護師さんに付き添われて奥へ行った。

俺も早くあかりちゃんに会いたい。


でも、やすなちゃんが行きたがらない。

じっと座ってぼぉーっと下を向いて、クマのぬいぐるみをひたすらゆっくり撫でている。

こんな状態のやすなちゃんをとても一人には出来なかった。


どれくらいの時間がたったのか、お父さんが戻ってきた。


「二人とも、私と一緒に来てくれないか」


「はいっ!!やすなちゃん!!いこ?」


「イヤッ!どんな顔して会えばいいの・・・」


「どんな顔でもいいよ!!早く会いにいこうよ!!」


イライラしてきた。


「わたしはいい、ひとりで行ってきて」


「アキラくん、この子の事は私が見ているから、君ひとりで行ってきてくれないか」


「はいっ!行きます!!」


廊下を走ってすぐに向かった。


病室の前に来て、ゆっくり扉を開けると。

あかりちゃんが、個室のベットの上に座っており、コチラに眠そうな顔を向けて来た。


「あかりちゃん!!」


俺が呼びかけると、眠そうな顔から一変し、笑顔を見せてくれた。


「あぁ・・・あかりちゃん・・・よかったぁ・・・わらってる・・・よかったぁ・・・」


涙が溢れて来た。

ほんとによかった。

普通に元気そうじゃないか。


近づいてよく見ると頭に包帯を巻いており、顔にも少し擦り傷があった。


「頭だいじょうぶ?」


「なにそれぇ~!私バカじゃないよぉ~」


何言ってんのあかりちゃん。

余裕そうじゃん。


「ごめんごめん、頭痛い?」


「ちょっとだけ痛い」


「そうか、ちょっとだけか・・・ほんとによかった・・・もうだめかと思ったよ」


「私、どうしたの?」


「ん?歩道橋の階段から滑って落ちたみたいだよ」


「ほどうきょー?」


あかりちゃんが首を傾げて、不思議そうな顔をした。

覚えてないんだな。


「うん、俺も詳しくはわからないけど、あの状況から察するに、そうだと思うよ」


「ねぇ勇者様、ホドウキョーってなに?」


ん?

勇者様?

いつもの異世界話をしたいのか?


あぁ、だから歩道橋を知らないフリしてるのか、なるほど。

異世界には歩道橋なんて無さそうだもんな。


「あかりちゃん、それはもうちょっと元気になってからやろうよ」


「ねぇ勇者様、私の杖はどこ?」


どうしてもその話がしたいのか。

しょうがないなあかりちゃんは。


「杖はえぇと・・・」


ベットの側にホウキがあったのでそれを手に取った。


「ほら、ここにあるよ」


「何言ってるの勇者様、それは魔法のホウキだよ、ふふふ」


笑われた。

そうか、そうだね。

どうみても魔法のホウキだよね。

まわりに杖らしきものは何もない。


「杖は・・・壊れてたから俺が修理に出しておいた!」


「そうなんだ、ありがとう勇者様」


笑うあかりちゃんを見ているだけで心が和む。

この笑顔がもう見れないと思っていたから、尚更和む。


「あのさ、やすなちゃん、やすなちゃんも来てるからさ、今から呼んでくるね?」


二人をなんとか会わせないと、今すぐ会わせて、何も、何も無かった事にするんだ!


「・・・やすなちゃん?誰?」


おいおい、まさか、怒ってる?

表情は不思議そうだけど、怒ってる?


「あかりちゃん、まぁ、そう怒らないでよ・・・やすなちゃんだって、ちょっと誤解しただけで・・・」


「勇者様、やすなちゃんってだぁれ?・・・うぅ・・・女の子?だよね」


あかりちゃんの表情が少し不機嫌になってきた。

なんでそんな顔するの?


「何言ってるの?やすなちゃんはやすなちゃんだよ」


「知らない、そんな子知らないもん!もぉ!・・・勇者様はすぐほかの女の子と仲良くなるからキライッ!ぷーん!」


まだ異世界話を続けるの?

何でそんな拗ねてるの?

違うって、今は現実の話をしようよ。


「あかりちゃん、今は現実、現実世界の話をしよ?その話はまた今度に」


「ごまかさないでよぉ・・・この前だって、モンスター倒したお礼って言われて、女の子からちゅーされてたし、勇者様嬉しそうにデレデレしちゃって、ほんとにもぉ!!」


「まって、まってよ、俺の話聞いてる?現実の話しよ?ね?」


「さっきから何言ってるの勇者様」


あかりちゃんが困惑しはじめた。

いやいや、その顔したいのはコッチだよ。


「それより勇者様、さっきから治癒魔法を使い続けてるんだけど全然効果が無くて・・・」


そう言いながら頭を手で押さえてる。


ねぇあかりちゃん。

さっきから君は「勇者様」って言ってるよね。

そんな呼び方、今までしてなかったよね?

何で急に呼び方変えたの?気分の問題?


その呼び方より。名前呼んでくれた方がオレは嬉しいんだけどな?


「あかりちゃん、勇者様じゃなくて俺の名前呼んでくれない?」


「え?勇者様の名前は勇者様でしょ?」


・・・。


「違うよ、俺の名前は勇者様じゃない、いつもの名前を呼んでよ」


「だからぁ、いつも勇者様って呼んでるよ!どうしたの勇者様?言ってる意味がよくわかんない」


まさか。


そんな。


いやいや。


そんな事ある?


「ねぇあかりちゃん・・・さっきまでここに男の人いたよね?それが誰だかわかる?」


「さっき・・・あぁ、ん~んわかんない、凄く優しい感じの人だったね、勇者様の知り合い?」


お父さんだよあかりちゃん。

その人は君のお父さんだよ。


パパでしょ?って何で言わないの?


「あ、あか、あかりちゃん・・・まさか・・・きみ・・・きみは・・・」


まさか、そんな事って・・・。


「ねぇあかりちゃん、この前倒したモンスター覚えてる?ほら、空で戦ったやつ」


「カニ!!あれは凄かったよねぇ!!あの時の勇者様凄くかっこよかったよ!」


それは覚えてるんだ。

つまりそーいう事なんだ。


そのあと色々確認してハッキリとわかった。





あかりちゃんは現実世界の記憶を全て失っていた。







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