できぞこないのおはなし
少しの間、眠っていた
せっかくキレイにとかしたはずの髪はぐちゃぐちゃで、のどはカラカラになっていた。身体は沼に沈んだように重い
いつもそうだ。事が終わるといつもすぐに眠ってしまうのだ
さっきまで相手をしていたオジサンはとっくに服を着てタバコを吸っていた
「ねー、オジサン」
こちらを振り向きもしない。
「ねー!おじさん!」
「煩い」
神経質な声が返ってきた。それがたまらなく嬉しい。
「今日の分、置いておくぞ」
「はぁい」
オジサンの手元をチラッと見る。いち、にい、さん、しい、ご、いつも通り。
「オジサンいつもたくさんくれるけどさぁ、お金持ちなの?」
「そうだよ」
無表情でタバコをくわえたままで言う。
「オジサンお医者さんだからさ」
「どこ診てるの?」
「オンナのコのからだ」
にたぁっと笑う。めがねの奥にある瞳は真っ暗で周りの風景だけを無機質に映していた
「お医者さんがじょしこーせーとこんなことしていいのー?」
「見てるもんが見てるもんだから、こうやってお前さんみたいなので処理してんの」
無表情に戻ったオジサンはそっぽを向いた
「お前さん学校は?」
「ここから近い女子高だよ」
一応名門というようにはなっている。しかし蓋を開けてみればただのゴミの吹き溜まり。どいつもこいつもパトロンつけてはケバいだけのブランド品を買い漁り、学校内でマウンティング。中でも外でもやってることは変わらない
「女の園なんぞ見たくもねぇや」
「みーんな馬鹿ばっかり」
「お前さんもその馬鹿の1人か」
「そうよ」
オジサンは人の不幸をよく嗤う
「オジサン彼女いないのー?」
「いたらこんなことしねぇよ馬鹿」
頭をコンコンとノックされる
「じゃあお前さんはどうなんだよ?」
「うちは男女交際禁止。秘密にしてようが垂れ込む奴なんて腐るほどいるよ」
先月、他校に彼氏がいる事がバレてハブられている子の事を思い出した。その後援交、飲酒、ヤクのデマ流されて彼氏と別れたらしい
「金もらってヤるのはいいのに、愛が伴うとダメなのか」
「みんな羨ましいんだよ。みんなさびしい」
「お前さんも?」
無言でうなずいた
「本当は客をつなぎとめとく為の売り文句とか?」
「違うよぉ」
「だったらお前さんはこんな事から足洗った方がいいぞ」
オジサンの顔が近づいた。オジサンの顔が好きだ。甘いタバコの匂いも好きだ
「だったら私のさびしさは誰が埋めてくれるの?オジサンはどうなの?埋めてくれないでしょ。埋めてくれるなら私と結婚してよ。今すぐに」
「…」
オジサンはため息をついてベッドから立ち上がる。掛けてあったジャケットを羽織りドアに手をかけた
「ホテル代置いておくから」
「はーい」
まだ時間はある。もう一眠りしよう
「寂しくなったら連絡しろよ」
「あはは、どっちがお客さんかわかんないね」
オジサンは静かにドアを開けるとすっと出ていった。
「愛してるって言ってよ」
閉ざされたドアに言ったところで意味がない