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エルフ

 わんわん村の犬人、エルフの村の代表、それとクリスタルレイクの代表者との会談が催された。

 エルフの村はいきなり村に人がやってくることを嫌がっている。

 だからまず最初にクリスタルレイクを見に来たのだ。

 クリスタルレイクの代表者は代官のアイリーン、地主代表アッシュ、騎士団団長アイザックである。

 悪魔代表として瑠衣を出す案もあったが、なにをするかわからないため今回は代表から外れてもらった。

 アイリーンは少しだけワクワクしていた。

 クルーガー帝国では純血のエルフは珍しい。

 極端な同化政策のせいでほとんどの種族が混血している。

 特に前線に出ることもある騎士や下級貴族では人間よりも強い体をもつ亜人の血を入れることで、肉体的に優秀な子どもを作るのが流行したことがある。

 新興貴族と下級貴族の家柄であるアイリーン自身にも亜人の血が流れていてもおかしくはない。

 ゆえにほとんどの国民には差異はない。

 いるとしてもドワーフの血を引いた住民の村とかエルフの血を引いた俳優とかという自称レベルの話である。

 愚かな上級貴族の一部だけが純血の人間であることを自慢している程度だ。

 見た目に関してもせいぜいが耳の形や体毛の濃さくらいだろう。

 だからアイリーンもエルフを見たことはない。

 いやもしかすると過去に会ったことがあるかもしれないが、あらかじめ相手が純血のエルフとわかっている状態で会ったことはないのだ。

 アイリーンたちが執務室で待っていると犬人がやってくる。


「おーっす。連れて来たよー♪」


 ワンワン村のポチが手を振る。

 アイリーンは愛想良く笑う。

 アイリーンも女の子である。

 こういうファンシーな生き物が好きなのだ。


「すまないな。ケーキを用意したからくつろいでくれ」


「ありがとう♪ それじゃあ。おいでよオデット」


 そう言うと線の細い儚げな女性が入ってきた。

 銀色の巻き毛がまるで物語の天使のようである。

 アイリーンたちは胸が高鳴った。

 物語に出てくるエルフが来たのだ。

 そんな一同を見てオデットは開口一番。


「いじめる?」


 と一言。

 目をうるうるとさせていた……恐怖で。

 アイリーンは笑顔のままポチを手招きする。


「なあにアイリーン」


「どうしてエルフの村の代表が彼女なのかな!?」


「しょうがないだろ。エルフってすっごく頭が硬くてシャイなんだ。だから一番変……柔軟な子をよこしたんだ。それにオデットは村長の娘だよ」


 どうやら立場の弱そうな娘に仕事を押しつけたようだ。

 いろいろとあきらめたアイリーンは笑顔で応対した。


「私は世界の果ての先、クリスタルレイクの代官を務めているアイリーンだ。こちらはアッシュ、それにクリスタルレイク騎士団の団長アイザックだ」


 あたふたとしながらオデットは答える。


「え、え、え、え、え、えっと『約束の村』の村長代理オデットです」


 細くて儚い美少女が目をうるうるさせているのを見るとどうにも守ってやりたくなる。

 アイリーンは一人納得してうなずく。

 それに気づいたのかアイザックが耳打ちする。


「アイリーン様。見た目に騙されてはダメです。女性は強いもの。気がついたら尻に敷かれています」


「新婚なのにもう尻に敷かれたのか……」


 人類最速である。


「まあいい……我々は新大陸。つまり君たちの世界を探索したいと思っている。そこで情報を提供してはくれないだろうか?」


「……征服なさるんですね」


「はい?」


「村を征服して我々を奴隷にして売り払うんですね!」


「いやそんなことはしないが……」


「わかっています! 村を焼き払って男は鉱山、女は……そこの大男のお嫁に!」


「しねえよ!」


 とうとうツッコミが炸裂した。


「まず誤解を解いておくがそこのアッシュは私の彼氏だ」


「そんな……絶対悪の威厳をまとっているのに魔王じゃない……なんて」


 最近、アッシュの所作は美しい。

 クローディアが徹底的にマナーを叩き込んだからだ。

 そのせいか今では表情に自信も感じられるようにまでなった。

 かつては殺人鬼、つい最近まではマフィアの親分などと言われていた。

 それが今では魔王の威厳すら感じられるようになったのである。

 本人の努力により醜男と言われなくなったのにこの扱いである。

 アイリーンもさすがにむくれた。


「魔王じゃないって! アッシュは凄いんだぞ! 一緒にケーキ食べててもかならず大きい方を私に渡すんだぞ!」


 酷い例えである。


「え……だってこの邪悪な胸板が……」


 オデットはぺたぺたと胸を触る。


「……」


 さらにぺたぺたと触る。


「……なにこれ筋肉ってすごい。これ欲しい!」


 なにかに目覚めたらしい。


「あの……村を滅ぼしたら私を奴隷にして頂けませんか?」


「い、いや、あの……」


 アッシュは困っている。

 これにはさすがのアイリーンもブチ切れた。


「アッシュは私のだ! それ以上触ったらお金取るからな!」


 はっとしてオデットはアッシュの胸から手を離した。

 結構いい度胸をしている。


「あ、はい。それで我が村を滅ぼす話でしたっけ?」


「だから村なんていらない。そもそも我々には村を滅ぼしても統治する力はない。奴隷もいらん。わが村にはもっと楽で儲かる産業がある」


 現在、クリスタルレイクは観光だけでも充分な利益を得られる予想なのだ。


「あらら。そうなんですか……それと筋肉をもっと鑑賞させてください」


 残念そうである。


「あとアッシュの胸を凝視するな」


「えー……いいじゃないですか。筋肉の独り占めはよくありませんよー。村にはこんな筋肉はいないんですよ!」


 オデットはゴツイのが好きらしい。


「背中は……背中の筋肉はどうなって……」


 今度は背筋を鑑賞したいらしい。

 アッシュは「いやーん」という顔をした。


「だめー!!! 本題に戻すぞ! 情報と交流、できれば取引がしたい。ちゃんと対価は払う!」


 オデットは少し考えると即決する。


「いいですよ」


「いいのか?」


 アイリーンはポカーンとしていた。

 もっと面倒だと思っていたのだ。


「え、ええ。だ、だってそこの筋肉のお兄さん。やろうと思ったら樹海ごと私たちを滅ぼせる……でしょ? そこの騎士団長のお兄さんはかなり強い……かなあ。ほ、本気で攻められたら、う、うちの村じゃなにもできません!」


 どうやらこのオデット、ただ者ではないようだ。

 少なくともアッシュの強さをわかるレベルなのだ。


「あ、ああ……仲良くする方がいい。我々にとっても楽なのだ」


 こうして『約束の村』との交渉はまずは円満に交渉成立したのだった。

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