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ドラゴンは寂しいと死んじゃいます ~レベッカたんのにいたんは人類最強の傭兵~  作者: 藤原ゴンザレス
第三章 筋肉ネバーダイ

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テロリスト

短いです。

 アッシュと瑠衣は公演の責任者であるクローディアと興行主で代官のアイリーンのもとに急いだ。

 なにせ非常事態である。

 幸い二人は楽屋裏で話をしていた。

 アッシュは必死な表情でアイリーンの肩をつかんだ。


「ふにゃ! どうしたアッシュ!?」


 アイリーンがかわいい声を出す。

 アッシュは真剣な顔、いつもの3倍ほど怖い顔で言った。


「アイリーン。敵が紛れている。今すぐ公演を中止した方がいい」


 アッシュは元傭兵である。

 それも最高クラスの傭兵である。

 こういうときの判断は早い。

 安全管理はアッシュの得意分野である。

 確かに安全だけを考えたらアッシュの意見は正しいものだった。

 だがアイリーンからすればそれを受け入れるのは難しい。

 アイリーンは興行主で村の代官だ。

 観客の安全は確かに重要だが、今の時点で興行を中止してしまうと代官としての能力を疑われかねない。

 クルーガー帝国では悪とは最後まで戦うことが美徳とされる。

 それは命より重要視される。

 もちろんこれは建前だが、臆病風に吹かれたと言いがかりをつけてアイリーンの足を引っ張ることはできる。

 危機管理を取るか、代官として正しい行動を取るか、アイリーンは悩んでいた。

 その表情を見てアッシュは理解した。

 だからアイリーンの肩に手を置いた。


「わかった。俺が捕まえよう。だれか代役を立ててくれ」


 これには自分たちの将来がかかっている。

 アッシュは気を引き締めた。

 だがアイリーンはそれを制する。


「あのなアッシュ、自分の人気を考えろ。アッシュが抜けたら暴動が起こるぞ」


「え?」


 わかっていないアッシュにクローディアも説明する。


「あのねアッシュちゃん。観客の半分がアッシュちゃん目当てなの。残りは私。おまけでアイリーンたち3人。アッシュちゃんはそれだけ評価されてるの」


 実はクローディアもアイリーンもわざとアッシュに自身の正確な人気を教えていなかった。

 過大なプレッシャーを与えるのもよくないだろうと考えたのだ。


「ええっと……俺……人気?」


 アッシュが確認する。


「うん人気。それも若手だと一番人気」


 沈黙が流れた。

 アッシュはなんとも言えない微妙な表情をしていた。

 現実を受け止められないのだ。

 なんか拍手が大きいなあとは思ってたが演劇はそういうものだろうと解釈していたほどだ。

 美形というのも話半分だとしてもうれしかった……とかなり矮小化して受け止めていたのだ。


「……俺のかわりは?」


「いない」


 アイリーンはそう言うとアッシュの胸に抱きつく。

 その大胆な行動にアッシュは固まった。

 アイリーンは固まるアッシュを言い聞かせる。


「聞け。アッシュは、私のアッシュには替えはない。警備は蜘蛛とカラス、それにタヌキ……それとガウェインにも手伝ってもらおう。いいな? アッシュは舞台に出ろ」


 アイリーンもアッシュの無鉄砲さを見てようやく決断をした。

 舞台は続行。

 ただし敵は叩きつぶす。

 それが答えだった。


「瑠衣どの。悪いが頼む」


「かしこまりました」


「報酬は……アッシュ頼んだ」


「おう。任せておけ」


 アッシュは胸を叩いた。

 アイザック、それにカルロスのシーンが終わり、アッシュは舞台に出た。

 演目はコメディである。

 だからアッシュはユーモラスな動きをする。

 続いて出てきたアイリーンもアッシュと同じように楽しそうな動きをする。

 そして曲が変わる。

 それに合わせてアイリーンとタンゴを踊る。

 そこだけ2人は真面目に踊った。

 今回アイリーンはすり足ではなかったし、アッシュも背筋を伸ばして踊る。

 その真面目な動きに客席からは笑いが漏れる。

 成功だ。

 だがその時だった。

 アッシュの首筋がちりちりと危険信号を発した。


(殺気だ)


 アッシュは演技をしながら客席を見る。

 敵がいる。

 アッシュは警備をしていた蜘蛛。

 人間に化けた蜘蛛にアイコンタクトをした。

 蜘蛛は首を縦に振った。


 アッシュは考えていた。

 「舞台の上で倒しちゃえばいいのでは?」と。



 観客席に男はいた。

 宮廷魔術師のヴェルダインである。

 イノシシの襲撃を受けて死んだはずだった。

 だが男は死から蘇った。

 どう蘇ったのかはわからない。

 ヴェルダインの力ではない。

 ヴェルダインが目覚めると男が見下ろしていた。

 男は美しい顔をしていた。

 それは神々しいとも言えるものだった。

 だがその顔には表情はない。

 感情らしきものを感じることのできない顔だった。

 男はヴェルダインを見下ろしながら無表情のままで言った。


「おめでとう。君は神族に選ばれた。体を作り変え人間から進化させた」


 実につまらなそうな声だった。

 だがなぜかヴェルダインは感動に打ち震えた。

 ようやくヴェルダインは認められたのだ。

 しかも神に認められたのだ。

 だが悲しいことに彼らは人間が期待する『神』ではなかった。

 人間が彼らを指して神と呼んだから『神』だと思っているだけである。

 実際は悪魔と同じで全知全能でもなんでもないただの生き物である。

 それをヴェルダインは知らなかった。

 だから心の底から喜びに打ち震えていた。

 神族の男は言った。


「君は神として仕事をしなくてはならない」


 そしてヴェルダインは新しい神としてクリスタルレイクに来ていた。

 目的はアッシュの殺害。

 やはり神に仇成す存在だったのだとヴェルダインは笑った。

 神として最高の演出をしなければならない。

 舞台を盛り上げてやろうとすら思っている。

 神として美しく立ち回る必要があるのだ。

 アッシュが踊り終わるとヴェルダインは静かに拍手をした。

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