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ドラゴンは寂しいと死んじゃいます ~レベッカたんのにいたんは人類最強の傭兵~  作者: 藤原ゴンザレス
第三章 筋肉ネバーダイ

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結婚特別公演 一

 舞台はこれ以上ないほど盛り上がっていた。

 なにせあらかじめ即興の芝居であることを宣伝していた。

 一回しかできない舞台である。

 客たちはこぞってやって来ていた。

 すでに結婚式の余興どころの騒ぎではない。

 村人が出した屋台はどこも人が並び、商品は飛ぶように売れていく。

 屋台を出した村人たちもドン引きするレベルの騒ぎになっていた。


 そんな中、舞台の幕が上がる。

 最初はクローディアのパートである。

 クローディアはわざと最初に出ることにした。

 他の出演者はまだ素人だ。

 かなりいい根性をしている連中だがそれでもあがってしまう可能性があった。

 だから一番緊張する最初はクローディアが担当する。

 今回クローディアは三人娘の母親役である。

 クローディアの外見は二十代といえば二十代。

 三十代と言えば三十代のような外見である。

 無理をすれば四十代でも通るかもしれない。

 明らかに若い女性の外見を持つ瑠衣とはそこが違っていた。

 実際の年齢に関して言えば、長く生きているため本人もわからない。

 だから母親役もやすやすとこなしていく。

 だがクローディアは瑠衣とは違い人間の子どもを育てた経験はない。

 そのせいでどうしても作り物感が出るのだが、逆にそれが「名演技」と観客をうならせた。

 リアルなものが正しいとは限らないのだ。


 クローディアは歌う。

 婚約者のいる三人の娘。

 セシル演じる長女。

 アイリーン演じる次女。

 クリス演じる三女。

 それぞれの恋人とのやりとりを。

 恥ずかしがり屋の恋人を持つ長女。

 のんびり屋の次女。

 年上の彼との結婚が決まった三女。

 これは三人とその恋人が三女の結婚式の準備をする中で成長する物語である。


 クローディアが歌い終わると次女役のアイリーンと恋人役のアッシュのシーンだ。

 アイリーン演じる次女は大農園を経営するアッシュと恋人である。

 ほとんどが本人そのままの設定である。

 だがお互いにのんびりした性格のため話は進まない。

 それを見てクローディア扮する母親はいつ結婚するのかとやきもきする。

 だが次女は「時期が来たら」と言うばかりである。

 そんな二人は三女の結婚式の話を聞いて結婚を意識しはじめる。


 アイリーンが登場する。

 拍手が浴びせられた。

 アイリーンは隠してはいたが「ふふーん♪」と一瞬だけ得意げな顔がもれた。

 やはりまだ修行が足りない。

 それに気づかずアイリーンは歌う。ノリノリで。

 その清涼感のある歌声に観客は度肝を抜かれた。

 前回とは大違いだったのだ。

 クローディア本気の育成が炸裂した結果である。

 アイリーンが歌う中、アッシュも歌いながら現れる。

 割れんばかりの拍手が起こった。

 よく見ると貴族の奥様方が目をハートにしながら黄色い声援を送っている。

 アッシュは奥様層のハートをわしづかみにしていた。

 これは確実に流行る。

 旦那衆の方も久しぶりの男らしさを売りにした俳優である。

 喜ばないはずがない。

 それにセシルの仲間、利害関係者も必死に応援していた。


 二人のシーンが終わると長女役のセシルである。

 長女役のセシルは村娘風のスカート姿で登場する。

 いつも白塗りお化けでつけヒゲ姿のセシルが第三皇子だと誰も気づいていない。

 あこがれの女優デビューに本人もノリノリである。

 そんなセシルを見て会場の誰もが思った。


(エロッ! ……この女優エロッ!!!)


 セシルはただ単に胸が大きいとかいうのとは違っていた。

 それは異次元の色気だった。

 その色気の一斉射撃を客席に放つ。

 本人は無邪気なものだが観客は思った。


(なんていうものを隠してたんだ!!!)


 それはクローディアの後継者と言っても過言ではない色気だった。

 これで技術が身につけばどんなに恐ろしい女優になるのだろうか?

 観客たちは戦慄した。

 これでセシルが第三皇子だと知ったら心臓発作で死人が出ていたに違いない。

 セシルが歌う。

 セシルは演劇マニアだ。多少の心得はあった。

 だがやはり素人だった。

 それを見て逆に観客たちは安心した。

 普通の人間でよかったと。

 そして観客が安心しきったところでカルロスが現れる。

 カルロスに台本はない。

 逃亡防止のため「逃げたら地の果てまで追って燃やす」とタヌキ軍団に脅迫されているだけだ。

 だが脅迫など関係はない。

 カルロスは逃げる気はなかった。

 カルロスに歌のパートはない。

 だから普通に出てくる。


 観客はようやく普通(・・)の俳優が出てきたと安堵した。

 やたら刺激的な舞台である。

 だが、今日のカルロスはひと味違う。

 アイザックが覚悟を決めたのだ。

 相棒としては負けてられない。

 まずカルロスはノリノリで歌うセシルに近づく。

 セシルはカルロスに気がついて手を振る演技をした。

 カルロスはその手を取る。

 そして自分に引き寄せた。

 腰に手を伸ばしセシルへ顔を近づける。


「ち、近い……」


 セシルは焦った。

 それは誰もが予想外の展開だった。

 カルロスは言った。


「覚悟ができた。親父のところへ行こう」


 それは演技としては真に迫っていた。

 それもそのはず。

 カルロスは一切演技などしてなかった。


「う、うん」


 セシルはコクコクとうなずいた。

 それは小動物のような愛らしさだった。

 その姿に観客たちは胸を射貫かれた。

 楽屋裏からセシルの姿を見たクローディアはガッツポーズをした。

 もはやこの演目は止まらない。

 最強の舞台だった。

 色気を振りまく美人ではなく、『かわいいセシル』は観客のハートをわしづかみにした。


 そしてアイザックの出番が来る。

 アイザックは気合を入れていた。

 そう、一番テンパっているのはアイザックだった。

 カルロスの告白を聞いたアイザックは自分も続かねばと思った。

 アイザックはもう騎士ではないが、心は騎士だ。

 レディに恥をかかせるわけにはいかない。

 アイザックは一歩足を踏み出した。


 そして話は少し前にさかのぼる。

 突然、瑠衣がアッシュの楽屋へ現れた。

 その様子はずいぶん焦っている。


「あ、アッシュ様。悪意を持ったなにかが侵入しました」


 人間では瑠衣を出し抜くことは不可能だ。

 それをアッシュは知っていた。

 だとしたら相手は……


「悪魔ですか?」


「わかりません。人間のにおいですが違うような……」


「宗主は?」


「地獄で複数の氏族のもとで監禁してます。いくら宗主でも出られるとは思えません」


「わかりました……排除します」


 舞台を邪魔するものは許さない。

 アッシュの目が光った。

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