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大自然の驚異

 アイリーンによる犬人たちへの聴取が始まる。

 犬人たちはアッシュにケーキをもらって上機嫌である。

 その場にはアイリーン、それに副官のベル。

 さらに村長のガウェインもいた。

 おまけでアッシュもいる。


「この村、クリスタルレイクの代官であるアイリーンだ。こちらは私の副官のベル。こちらの男性が村長のガウェインだ。それと最後にドラゴンライダーのアッシュ殿だ」


 アイリーンがざっと紹介をする。

 すると銀色の毛並みの犬人も自己紹介する。


「辺境わんわん村の村長のポチである!」


 「ぶーッ!」とアイリーンが耐えられずにふいた。

 かなりがんばったが耐えられなかった。

 ベルの方は、ぱあっと目を輝かせている。

 ガウェインはと言うと頭を抱えていた。


「す、すまない……つ、つい」


 アイリーンは涙を流しながら謝る。

 すると犬人たちは暗い顔をする。


「エルフにもよく笑われるので気にしなくていいよ……」


「うん……ごめん……」


 アイリーンは素直に謝った。

 なにか申し訳なかったのだ。


「……うん」


 ポチは少しだけ泣きそうな顔だった。

 なんとなくアイリーンはポチと気持ちが通じ合ったような気がした。

 異人種間の交流とはこんなものなのかもしれない。

 二人はほっこりした気分で「へへへ」と笑う。

 その横でベルはニコニコとしている。

 しかもなぜか手をワキワキと激しく動かしている。

 それを見てポチの尻尾が股間に挟まる。


「ベル。ポチ殿が怯えてる。頼むからやめろ」


「せ、せめて採寸を! かわいいお服を作らせてください! フリフリのぷりぷりのを!」


 フリフリの衣装を着せたいらしい。

 そう言えばベルは子ドラゴンたちに思いっきりカワイイ衣装を着せている。

 だからアイリーンはすぐさま言った。


「却下」


 ポチたちは子どもではないのでそういうのは却下である。


「そんにゃあああ……」


 アッシュはベルの肩をぽんっと叩く。

 ベルはアッシュの腹で泣く。


「ひいいいいいん。私はかわいい衣装が作りたかっただけなのにー!」


 いい子いい子とアッシュはベルの頭を撫でる。

 するとそれを見たアイリーンがむくれる。


「アッシュは私のだからな!」


「誰も取りませんって!」


 ベルがむくれながら言った。

 そのやりとりを見ていた犬人たちは「あー、ただのダメな人だ」となんとなく納得した。

 やはりここの連中に危険性はないと思ったのだ。

 アイリーンは申し訳ない気持ちで話を切り出す。


「それでだ。世界の果ての壁が壊れたのはご存じだと思う」


 ポチはつい先ほど見てきた光景を思い出す。

 あまりにもあっさりと壁は消えていた。


「世界の果てからここに繋がっているとはねえ……うちらもエルフたちにも報告せねばならないのよ」


 おそらく犬人たちはエルフと特別な関係を結んでいるのだろう。

 だからアイリーンはそれを止める気はない。

 新世界を征服するつもりなどないのだ。


「我々もそれを止める気はない。だが手伝って欲しいのだ」


「先ほど言ってた地図だね」


 これはすでに話し合っている内容だ。

 ポチたち犬人が協力的なのはわかっている。


「それと周辺に住んでいる生物。それに街の場所なども教えて欲しい」


 アイリーンの予想だと樹海の生き物もその辺をうろついているはずである。

 ポチはニコニコしながら返事する。


「いいよー。それでどんな生き物? 食べられるやつ?」


「危険な生き物がいたら教えて欲しい。村から怪我人を出すわけにはいかないのでな」


「うーん。イノシシとか……かな」


「それじゃあ大丈夫だな」


 アイリーンは胸をなで下ろした。


「大丈夫なの!?」


 ポチが驚く。


「なにが? イノシシだろ?」


 アイリーンが聞き返す。

 どうにも話がかみ合わない。


「うへ……こちらの世界ではイノシシは弱いの?」


「弱くはないが……まあ危険度は少ないな」


 アイリーンは首を捻りながらアッシュの方を見る。

 どうにもポチの言っていることの意味がわからない。

 イノシシのどこに恐れる箇所があるのだろうか?

 するとアッシュがアイリーンに代わって質問する。


「そちらのイノシシの大きさは?」


「山くらいの大きさかなあ」


 ポチが首をかしげながら言った。

 もっと大きいのかもしれない。


「だってさアイリーン」


 アッシュはアイリーンを見る。

 その顔は完全に困っていた。

 しょぼーんとしている。

 それを見てアイリーンはわなわなと震える。


「たいへんじゃないかー!!!」


 アイリーンの目がぐるぐると回った。

 それはシャレにならない危機だった。

 ガチの危機だった。

 山サイズのイノシシがそこらを闊歩しているのだ。

 怪我人どころか村が消えるレベルの災害だ。


「ガウェイン! とりあえず効果があるかわからないが馬止めを並べろ! 伽奈さんにも警備を要請だ!」


「お、おう。わかったぜ!」


 ガウェインはあわてて部屋を出て行く。


「ベル! クリスに頼んで周辺の村に警報を出してくれ!」


「はッ!」


 お仕事モードになったベルがあわてて出て行く。


「あ、アッシュ……」


「お、おう……」


「他になにかあるか?」


 今まで数々の危機を乗り切ったアイリーンだが、今回はキャパをオーバーしていた。

 考える暇がまったくないにも関わらず危機だけが進行していたのだ。

 しかも相手は人間ではない。野生動物だ。

 まったく動きが予想できない。

 アッシュを村に配置してもそこを通るとは限らないのだ。

 アッシュがイノシシを倒したけど、村が半壊死傷者多数では許されないのだ。


「お、おう。とりあえず瑠衣さんとクローディアにも応援を要請すればいいんじゃないか?」


「そ、それだ!!! アッシュ頼む!」


「了解」


 アッシュは胸を叩く。

 それは心配するなと言わんばかりだった。

 アッシュが出て行くとアイリーンはポチに聞く。


「普段、イノシシが現れたらどうしてるのだろうか?」


「逃げるよ」


「に、逃げ……」


 アイリーンはあわてる。


「逃げるしかないよ。大きさが違いすぎるから」


 ポチのその目は完全にあきらめたものの目だった。

 今まで本山の攻撃すら耐え忍んだクリスタルレイク。

 だが今度の敵は大自然だった。

ちょっと短いです。がんばるー……

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