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犬人さんをお持ち帰り

 お菓子で買収されたモフモフ軍団とアッシュたちはクリスタルレイクを目指す。

 ちなみに喋りながらの徒歩一時間、樹海の中であることを計算すればせいぜい2キロ程度の距離である。

 方向はアッシュの仮面の能力でわかる。迷うことはない。

 アッシュたちは犬人の歩幅に合わせてゆっくり帰る。

 暗くなる前には帰れるだろう。

 アッシュたちは安心しきって歩いて行く。

 だが、しばらく歩くと犬人たちが騒ぎ出した。


「そっちは世界の果てだよ! 壁があるだけだよ」


「そうだよ。なにもないよ!」


「なんで壁に行くの?」


 アッシュは困った。

 カルロスはアイザックがなんとかするだろうと思った。

 アイザックは二人の態度に「俺がなんとかせねば」と気合を入れた。


「俺たちは壁の先から来たんだ」


 犬人たちは輪になって相談をはじめる。


「世界の外から来たんだって……」


「どうしよう? エルフに知らせないと……」


「食べられたらどうしよう……」


「「ええー!!!」」


「きっと世界征服を企んでるよ」


「「えええええー!」」


 話が勝手に大きくなっていく。

 これはまずいと思ったアイザックは伝家の宝刀を取り出す。


「ついてきてくれたらアッシュさんのケーキを進呈します」


「「行く!!!」」


 即答だった。

 そのまま一行はしばらく歩くと世界の果て、その壁があった場所に辿り着く。


「……ない」


 犬人たちが呆然とする。

 数日前までそびえ立っていた壁が消えていたのだ。


「封印を解いた」


 アッシュがそう言うと犬人たちは涙目になる。

 ようやくどんな事態に巻き込まれたかを正確に把握したのだ。


「そそそそそ、外の……魔王さんですか?」


 涙目である。

 だからアッシュははっきりと答える。


「人間です」


「……」


 犬人たちは尻尾を股間にはさんでぷるぷると震えながら着いてきていた。

 世界の果て、その壁を越えるとクリスタルレイクの森の中である。

 アッシュたちは野生の果物をもぎりながら村を目指す。

 村に行くとアイリーンとレベッカが待っていた。


「おう、アッシュ帰ったか!」


「にいたんお帰りなさい!」


 レベッカが尻尾をふりながらアッシュに抱きつく。

 半日以上のお留守番は久しぶりだったのだ。


「おかえりなさーい!!!」


 レベッカは尻尾をふりながらアッシュの体をよじ登る。

 その姿を見て犬人たちも「大丈夫なんじゃね?」と思い始めた。


「あのね、あのね! みんなでまたお芝居してるの!」


「そっかー。よかったな」


「あのね。にいたんの役もあるのよ!」


 レベッカは目を輝かせた。


「な、なんだって!」


「アイザックにいたんのもあります!」


「ちょ、なんだって! 聞いてねえよ!」


 アイザックが叫ぶ。


「カルロスくんのもあります!」


「え、ちょっとなんで?」


 レベッカは「むむむ」と考える。

 そしてニコニコしながら答える。


「アイザックにいたんの結婚式で演技します」


 「ぶーッ!」とアイザックがふく。


「ちょっと待って。なんで俺が結婚!」


「クリスちゃんが張り切ってるの♪」


 アイザックは焦った。

 探索に逃げている間は安全なはず。

 なぜだ。なぜ当事者不在の間に話が進んでいる。


「あのねあのね。セシルお姉ちゃんが証人をしてくれるって。よかったね!」


 アイザックの脳の血管からぶちぶちっと嫌な音がした。

 皇帝の関係者が証人になる結婚式である。

 例え男装の姫だとかそういうのを加味しても離婚は許されない。

 なぜなら皇帝の血族が間違ったことをするはずがないからだ。

 少なくとも法的にはそう解釈される。

 もちろん「結婚なんてしないもん!」もこの時点で許されない。


(ガチだ。ガチの攻城兵器を持ち込んで来やがった!)


 しかも第三皇子の友達枠での証人だ。

 英雄的武功をあげた騎士が大貴族の婿に入る時のパターンなのだ。

 そのままアイザックは倒れた。

 正直言って、クリスとの結婚よりもセシルの蛮行の方が数倍きつかったのだ。

 倒れたアイザックにアッシュが「だいじょうぶか?」とかけよったがアイリーンは「そっとしてやってくれ」と情けを請う。

 この間、犬人は完全放置だった。

 犬人たちは思った。

 「この連中……今まで会った中で一番安全な生き物かも……」と。

 それは7割間違っていなかった。

 アッシュは最強だが犬人に酷いことをしようとは思わないし、代官であるアイリーンは公平な人間だ。

 犬人にも理不尽な行いはしない。

 悪魔たちは犬人だろうが人間だろうが面白ければなんでもいい。

 ただ……ただ一人、問題のある人物がいるだけだ。


「レベッカちゃーん。みんな連れてきましたよー♪」


 それはカート型の荷台に子ドラゴンたちを載せて、それを押してきたベルだった。

 ベルは犬人たちと目が合った。

 「ぞわわッ!」と犬人たちの本能が危険を告げる。


「に、逃げッ!」


「もふもふー!!!」


 ベルが犬人に飛びかかる。


「べ、ベル姐さん! や、やめ!」


「やめるんだベル!」


 カルロスとアイリーンがベルに飛びかかり羽交い締めにする。


「なにをするんですカルロス、アイリーン様! もふもふですよ。もふもふなんですよ! かわいい服を作らなくては! おリボン巻かなくては! 毛繕いしなければー!!!」


 ベルは目が血走っている。

 完全に危ない人である。


「落ち着けーい! 今のお前の任務はなんだ? ドラゴンの保母さんだろ!!!」


 それを聞いた瞬間、ベルのヒザから力が抜ける。


「そうでした……お母さんが間違ってました! みんな許して!」


 さりげなく『お母さんと』自称するとベルはかばっと子ドラゴンたちに抱きつく。

 この女、転んでもただでは起きない。

 子ドラゴンたちはベルをポンポンと叩いたり、頭を撫でたりしながら慰める。


「いいのよ。ベルままー」


「どんまい」


「ベルまま。がんばれー」


 子ドラゴンたちとベルは大満足だが犬人たちはドン引きである。

 このままでは話が終わらないなと思ったアイリーンがアッシュに話を振る。


「それで、彼らは何者だ?」


「ああ……そうそう、紹介するよ。犬人の皆さんだ。樹海に住んでいる人たちだ」


 犬人たちはアイリーンが猛獣から守ってくれたような気分になっていたので愛想よく返事する。


「よろしくー♪」


「よろしく。こちらも地図やら街の情報やらが欲しかったところだ。協力していただけるとありがたい」


「うーん。いいよー」


 なんともゆるい答えだ。

 アイリーンは微笑む。

 それが畳まれた大陸とのファーストコンタクトだった。

医者に言って大量の薬&吸入剤までもらったのに咳が止まりませぬ……げふー……

体力の限界を超えたらマジでお休みするかもです……

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