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犬人

 アッシュたちは何者かに囲まれた。

 不思議なことに襲撃してくる様子はない。

 タイミングをうかがっているのかもしれない。

 アッシュはなにものかの表示を見る。

 敵対マークはなし。

 緑色で表示されている。


「二人とも。今のところ敵ではないようだ」


「そうっすか」


 アイザックはそう言うとジリジリと燃える火縄を見た。


「ああ、くっそ! フリントロックの銃が欲しい!」


 フリントロックとは火打ち石が撃鉄についた銃である。

 火縄よりも天候に左右されにくいなど利点が多い。

 クルーガー帝国はノーマン共和国と比べて装備が古い。

 悪魔との盟約にあぐらをかいて装備を調えてこなかったのだ。

 銃も市場に流通しているのはせいぜい鳥撃ち用の火縄銃である。

 アイザックの額に汗がにじむ。

 そして彼らが姿を表す。

 それは小さな二足歩行の生き物だった。

 茶色や黒、銀の毛並み。

 子どもくらいも大きさのふさふさとした毛の生き物が槍や弓を手にしていた。

 それはどう見ても犬だった。

 犬の中でも愛玩犬と言われる種類だった。


「ぶ、武器を捨てて投降しろ!」


 アイザックは火を消して銃を捨てる。

 カルロスも同じく銃を捨てた。

 最後にアッシュがナタを捨てると犬のような生き物たちがビクッとした。

 どうやら攻撃的な生き物ではないようだ。


「純血の犬人か……。初めて見た……」


 アッシュがまじまじと犬人の一匹を見る。

 犬人は「ひっ!」と怯えて仲間の元へ逃げる。

 仮面を被っていても情けない顔をしてるのがよくわかるアッシュにアイザックが返事する。


「いや……多少は残ってるはず。でもこんな色のを見たのは初めてだ」


 カルロスもしげしげと眺める。


「やたら小さいんだな。前に見た人たちはもっと大きかったけど……」


 危険に慣れすぎてマイペースな反応を見せる三人に犬人が怒鳴る。


「お、お前ら無視するな! 無視するなよ!」


 犬人は泣きそうである。


「あ、ごめん」


 アッシュはポリポリと頭を掻いた。

 そして水と一緒に背負っていたリュックを下に降ろす。


「な、なんだお前! ほ、本当に刺すぞ! 痛いんだぞ!」


 犬人は必死である。

 するとバッグをまさぐるアッシュの横からアイザックが犬人に言う。


「ほーい。投げるぞー!」


 そう言うとアイザックはポケットから出したボールを投げる。


「「はにゃーん!」」


 犬人たちが一斉にボールを追いかける。

 なれている。

 アッシュたちは小さい生き物の世話になれていたのだ。

 主にドラゴンたちの世話をしていたおかげで。


「うわーい! ボール!」


「うわーい!」


「まってー!」


 犬人たちはボールを追いかけ回している。

 さらにアッシュはバッグからおやつの焼き菓子を出す。


「ボール持ってきたら一列に並んでねー」


「はーい!」


 犬人たちは満面の笑みを浮かべた。

 その光景を見てカルロスは思った。

 「アッシュ、恐ろしい子」と。

 こうして犬人たちはアッシュの焼き菓子をむしゃむしゃと食べるうちに自分たちが何をしていたか忘れたのだ。


「それで、お主らなんでこんなところに来たのだ?」


 むっしゃむっしゃとクッキーを食べながら茶色い毛の犬人が聞いた。

 アッシュは一瞬困った顔をしてから答える。


「うちの子がこの世界の封印を解いた。それで俺たちが調査をしている」


「ふーん……って、ここは世界の果てだぞ。お前らの話はまるで世界の果ての先から来たみたいじゃないか」


 この辺の説明はアッシュには難しい。

 アイザックにバトンタッチする。


「その通りだ。俺たちは君たちからすれば別の世界から来た。今は地続きだけどな」


 アイザックの発言に犬人たちは大笑いする。


「まったくおもしろいエルフの兄ちゃんだなー。別の世界だって!」


 それを聞いてアッシュがぽつりと言った。


「俺たちはエルフじゃないぞ。人間だ」


 犬人がむしゃむしゃ食べていた焼き菓子を落とした。

 全員が小刻みにふるえながらアッシュを指さす。


「ま、ま、ま、ま、ま、ま……魔王だ!!!」


 パニックが起こった。

 犬人たちが涙目で逃げようとする。


「たたたた食べないでー!」


 食べられるらしい。

 アッシュは困った。

 食べる気などない。


「お、おい食べる気なんてないぞ……」


「食べる気……ないの?」


 犬人たちは首をかしげる。


「ない」


 アッシュはきっぱりと答える。

 犬人たちは目を潤ませる。


「ないの?」


 不安らしい。


「ないって……」


 アッシュは困ってしまう。

 するとアイザックが前に出る。


「アッシュさん。俺が代わります」


 アイザックは無限ループの予感を感じ取ったのだ。


「皆のもの。ここに御座(おわ)す方を誰と心得る! 当代のドラゴンライダー、アッシュ様にあらせられるぞ!」


「おおー!」


 意味はわかってなさそうだが犬人の目が輝く。


「ははー!」


 なんとなく空気を読んで犬人たちが触れ伏す。

 どうにも愛玩犬に土下座させているようでアッシュは微妙な気分だった。


「我々はドラゴンの女王レベッカ様の命によりこの地の調査をしている」


 アイザックの言葉を聞いて犬人たちがひそひそと話しをする。


「どうする? ドラゴンの女王だって?」


「俺に聞くなよ」


「と、とりあえず言うこと聞いておけばいいんじゃね?」


「怖いよー!」


 アイザックはにやりと笑う。

 こけおどしは思ったよりも効果があった。

 あとは強引に話をまとめるだけである。

 だがそこに反論するものがあった。


「あのさ、アイザック」


「なんだあと少しで終わりなのに!」


「あんまり脅すなよ。ベル姐さんにこんなかわいいの虐めたのがバレたら確実に殺されるぞ」


 アイザックは忘れていた。

 完全に忘れていたのだ。

 クリスタルレイクにはかわいいものの守り神であるベルがいる。

 かわいいものが絡んだ時のベルの戦闘力はアッシュに匹敵するに違いない。


 ※アイザックの思い込みである。


 とにかく虐めたのがバレたら捻り殺されてしまう!

 アイザックは路線変更を余儀なくされる。


「ゴホン……というわけで我らの調査を手伝ってくれる良い子にはこのドラゴンライダーアッシュ様のお手製ケーキが進呈されます。手伝ってくれる人は手をあげてー」


 犬人たちの目が輝く。

 もちろん一斉に手をあげる。


「「はい!」」


「ではケーキはクリスタルレイクまで取りに来てください。わかりましたねー」


「「はーい!!!」」


 こうしてクリスタルレイクで一番心が汚れた男は犬人たちを買収したのだった。

まじで咳が止まりません……あふん。

犬人は大きいヨークシャーテリア(サマーカット)みたいな感じです。

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