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いざ樹海へ!

 それは逃げだった。

 アイザックとカルロスのダメ男コンビは探検隊メンバーに加わった。

 家に帰りたくないがために。

 今回は日帰りで樹海の村と接した部分の調査である。

 村人にもちゃんと注意をしているが危険な生物が住んでいる可能はある。

 調査をする必要があったのだ。

 その点、アイザックとカルロスは悪魔と戦って生き残った英雄クラスの戦闘力を持つ。

 ここにアッシュを加えれば悪魔たちを除いたクリスタルレイクの最強メンバーである。

 だから二人が調査に加わることには誰も反対をしなかった。

 だが二人は邪悪な策謀をめぐらせていた。

 村を見つけたらしばらく身を隠そう。

 アイザックとカルロスは酷いことを考えていたのだ。


 だがそこに妙な懸念が舞い込んだ。

 人混みに紛れていてもすぐにわかる美女。

 大女優クローディア・リーガンがワイン瓶片手に見送りの列の中に混じっていた。

 それを見つけてしまったのだ。


「か、カルロス……」


「言うな!」


 クローディアは二人の数多くいる悪魔の知り合い中でも、もっとも神話の中に出てくる悪魔に近い存在である。

 いや、本人は気のいいおばちゃんだし悪意を持っていない。

 おそらく家族であるアイリーンやアッシュの事を心から考えているし、その行動の全ては善意だ。

 欲らしきものも酒とつまみ、それと演劇や歌のことだけだ。

 なのになぜか敵対したものはクローディアが何もしなくても地獄に突き進む。

 その美しさや演技や歌に惑わされて破滅するのだ。

 アイザックはそれを酒場での貴族たちの会話から思い知らされた。

 対抗策が何もない故に回避不能である。

 アイザックからしたら誰よりも相性の悪い相手である。

 それが上機嫌に手を振っているのだ。

 嫌な予感しかしない。

 だが二人は結局それを考えずに樹海に入っていくしかなかったのだ。


 三人は樹海に入る。

 持っているのは邪魔な木の枝を切り道を開くためのナタ。

 護身用のマスケット銃。

 これは樹海に住む人間相手と言うよりも危険な動物相手の武器である。

 野生動物を火薬の音で驚かせて逃げてもらうのだ。

 アイザックとカルロスは軍服を着ている。

 機動性が優先されるため鎧は着ない。

 そのかわりにブーツは底とつま先に鉄板が仕込まれているものを使う。

 枝などを踏み抜いて怪我するのを防ぐためだ。

 手も怪我防止のために皮の手袋を着用する。

 多少重くても安全が第一である。

 アッシュも袖まである革の服に手袋とブーツである。

 袖と裾はヒル対策で紐で縛ってある。

 魔法の情報アシスト機能がついているため、いつもの仮面も着用している。

 背中にはチェーンソー。

 それと真水を入れた革製の水筒を背負っている。

 かなりの重量だがアッシュには苦にならない。

 どんなに重い装備でも大砲よりは軽いからだ。

 あとは整備されていない道をひたすら歩くだけである。

 今回は悪魔は先行していない。

 蜘蛛やカラスはどうしても刺激的な格好をしているためアッシュたちが先行した方がまだマシだろうという結論になった。

 アッシュの顔も相当なものだが、それを皆に言ったところ「最初に会った時より顔が穏やかになったから問題ない」と言われてそのまま参加することになった。

 アッシュたちは樹海を進む。

 樹海は松やブナだらけで一面コケがむしている。

 ときより鳥の鳴き声が聞こえた。

 アッシュは枝を折ると草むらを突っついてなにかを出す。


「なんすかアッシュさん」


 カルロスが聞く。


「動物の糞だ」


「ちょ、ウンコっすか!」


 アイザックが嫌そうな声を出した。


「森で野営するときは動物の糞を調べるんだ。糞を見ればなにを食べているか。危険な生物か否かがわかるんだ」


 こういうサバイバルではアッシュは無敵である。


「動物の毛が入ってないから肉食動物じゃなさそうだ。木を見ても熊が引っ掻いた跡がない。この森は安全かもな」


「おうっし!」


 カルロスがガッツポーズをする。


「肉食動物がいないってだけでダニにヒルに、大型の水生生物がいるかもしれない」


「カルロスそのへんのキノコ食うなよ。俺たちじゃ毒かどうかわからんからな」


「ふみゃ!」


 野戦訓練も受けているはずなのにカルロスはビクッとする。

 やはりカルロスの本性は海の男なのかもしれない。

 そんなカルロスは手帳に方向を書込む。

 マッパーが今回の役割なのだ。


「悪い、二人とも。松ヤニ見つけたら回収してくれ。昼飯作る時に火種にするから」


 アッシュがそう言うとアイザックは松ヤニを取ってバッグに入れながら答える。


「了解っす。んでアッシュさんどこまで行きますか?」


 さらにアイザックは松ヤニを採取しまくる。


「平地と違うから昼飯食べたら太陽が見えてるうちにすぐに戻るぞ。方向見失ったら迷子になる。広いから本当に死ぬかもしれないぞ」


「……マジっすか?」


「ああ。道がない森ほど怖いところはない。こいつがあるからまだマシだけどな」


 アッシュは自分の仮面を指で叩く。

 仮面をつけていると緑色の表示で家の方向が表示される。

 これさえあれば迷うことはない。


「蝋石で印つけときます」


 マッパーのカルロスが蝋石で木に印をつける。

 こうやって慎重に慎重を重ねて怪我人がでないようにしていた。

 三人は順調に進んでいく。

 するとだんだんと話題が少なくなっていく。

 同じ村で同じ職場で働いていてしょっちゅう顔を合わせているのだ。

 話題なんてそんなに多くはないのだ。

 だから当然のように話は恋バナになっていく。


「ところでアッシュさん。ここだけの話ですけどアイリーン様とよくつき合ってられますね。姫様色気ないでしょ」


 アイザックがそう言うとアッシュは即答する。


「そうかな? なんでも一生懸命でかわいいと思うよ」


 アッシュは澄んだ目だった。

 アイザックはオーバーアクションでため息をつく。


「……このバカップルめ! 祝ってやる!」


 祝うらしい。


「そう言うアイザックはどうなのよ? あ、ご結婚おめでとうございます」


 アッシュとカルロスがぺこりと頭を下げた。

 するとイラッとしたアイザックが答える。


「結婚してねえよ! 年が離れすぎてるんだよ! 確かにクリスは村の中じゃ上位のかわいさだ。10年もしたらクローディアだって勝てないだろうな。俺はそのうち相手にされなくなるって」


 案外アイザックの中でクリスの評価は高い。


「うっわーのろけかよ!」


 カルロスがそう言うとアイザックが睨む。


「お前こそどうなんだよ! なんであの白塗りが反則級の美女になるんだよ! しかもお前逃げてんじゃねえよ!」


「ほ、本能が逃げろと訴えかけるんだな……それに身分が違いすぎて無理なんだな……」


 肉食獣を見たら逃げること。

 これが野生の王国での草食動物の掟である。

 なんにせよ三人は相手を憎いわけではないのだ。

 アッシュ以外の二人はうなだれた。

 するとアッシュがささやく。


「囲まれた」


 次の瞬間、アイザックもカルロスもマスケット銃に点火する。

 アッシュはナタを抜く。


「獣が少なすぎると思ったがやっぱ住民がいたか!」


 アッシュの仮面にいくつもの表示が現れた。

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