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ドラゴンは寂しいと死んじゃいます ~レベッカたんのにいたんは人類最強の傭兵~  作者: 藤原ゴンザレス
第三章 筋肉ネバーダイ

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タヌキ VS 体育会系少女

 その後もアッシュは自分の感情を理解できないままレッスンを受け続けた。

 ケーキ屋や農家もやりながらレッスンを受け続けた。

 実はアッシュも歌や踊りのレッスンは楽しかった。

 今までやってみたことないことに挑戦するというのは新たな視点から自分を見つめることができる。

 それに顔にコンプレックスがあったアッシュもなんだか人前に出るだけの自信がついたのだ。

 そんなある日のことだった。

 たぬきの花子ことクローディア・リーガンが昼間からワインを飲みながら言った。


「そろそろ公演やろうか! うんやろう。そうだドラゴンちゃんたちもお芝居に出る?」


 アッシュの練習に混じってダンスをしていたドラゴンたち、特に女の子であるレベッカがぱあっと目を輝かせた。


「出るー!!!」


 子ドラゴンたちは尻尾をブンブンとふる。

 一方アッシュは固まっていた。

 完全にフリーズしていた。

 練習はまだいい。

 クローディアは厳しいがその性格はざっくばらんでまるで親戚のおばさんのようで嫌ではない。

 だが人前に出るのはどうだろう?

 人前で歌って踊って演技しないと


「アッシュ! いい加減にあきらめなさい! レベッカも出るのよ。お兄ちゃんがそこでびびってどうすんのよ!」


 ここ数日でクローディアが『ちゃん』すらつけなくなった。

 完全に親戚のおばちゃん状態である。


「いい? アッシュ。本番は練習の何倍もの経験になるわ。傭兵だって同じでしょ?」


 どうにもこのクローディアにアッシュは弱い。

 流されるままに公演に出ることになってしまったのだ。

 それにこれはアッシュもチャンスだと理解していた。

 怖い顔をした怪物という殻を打ち破るものに違いないのだ。


「わかった。やってみる」


 アッシュは承諾した。

 するとクローディアはにやあっと笑う。

 最近わかってきた。

 このタヌキは今まで会ったどの悪魔よりも人間に近い。

 わがままで、いいかげん、快楽主義者。

 まさに悪魔。だが情に脆い。


「よっし、うちの子のデビュー決定ね! おばちゃん。がんばっちゃうからねー。コネを全部使って盛り上げまくっちゃう!」


 クローディアは胸を張った。

 とは言ってもクリスタルレイクはド田舎である。

 どんなにクローディアが有名人でもそんな簡単には人が集まらないだろう。

 なにせ未だに観光客は悪魔だけなのだ。

 来るとしても近くの村人だけだろう。

 そう考えてアッシュも少しだけ安心する。


「でびゅー!」


 子ドラゴンたちとクローディアはくるくるとまわった。

 アッシュは近くの村に子ドラゴンのお披露目ができればいいなと思った。

 そう、アッシュはクローディアの影響力を完全に低く見積もっていたのだ。



 アイリーンは愕然とした。

 それは新聞の記事だった。

 帝都中央新聞。

 新聞と言っても技術的に遅れているクルーガー帝国ではまだ紙は高級品である。

 したがってこの新聞は一枚の大きな羊皮紙に記事が書いてある。

 それも一ヶ月に一度しか発行されないものだった。

 クリスタルレイクに新聞が運ばれてくるまでは行商が持ってくるまでのタイムラグがある。

 なにせ新聞を購読しているのはアイリーンたちだけである。

 しかもその中でも読むのはアイリーン、ベル、それにアイザックだけである。

 当然、配送もゆっくりになる。

 そのタイムラグは約一週間。

 行商人のスケジュールによっては二週間ということもあるほどだった。

 したがってアイリーンは羊皮紙の文面を見て度肝を抜かれた。

 なにせ新聞で一番目を引く最上段に


『クローディア・リーガン。秘蔵っ子とともにクリスタルレイク公演決定!!! 隠し子か!?』


 とやたら美形に描かれたアッシュとクローディアのイラストとともにデカデカと書かれていたのだ。


「……あんの、タヌキー!!!」


 アイリーンはバンッと机を叩くと顔を真っ赤にして部屋を飛び出した。

 聞いていない。

 こんな大騒ぎになるなんて聞いていなかったのだ。

 問題のタヌキはすぐに見つかった。

 なぜならスタッフに見つからないように本当にタヌキの格好をしていたからだ。

 巨大なタヌキがキッチンで瓶ワインをぐびぐびとラッパ飲みしながらつまみを漁っていたのだ。

 ちょうどアイリーンが隠していたチーズを丸かじりするところだった。

 あーんと口を大きく開けていたところだった。

 そんなタヌキにアイリーンは笑顔を貼り付けながら近づいていく。


「あらアイリーンちゃん。飴ちゃんいる……いっだー!!!」


 アイリーンはいきなりむんずとタヌキのヒゲを引っ張った。


「いだだだだだだ! ちょっと人間にはわからないと思うけどそれ凄く痛いから! いだだだだだ!」


「帝都中央新聞に記事が載っていたのだが。なにか余計な事をされましたな」


「もちろん意図的に情報をリークして知り合いの貴族や商人にも招待状を渡したわよ……っていだだだだだだ!」


「隠し子ってなんだ!?」


 アイリーンは笑顔を崩さない。


「もちろん客寄せのためのデマうぎゃああああああああああああああああああッ!!! 痛いから! 痛いから!」


 アイリーンはヒゲを容赦なく引っ張る。

 さらにグリグリする。


「アッシュに稽古をつけたこと。それは善意と受け取りました」


「善意よ」


 アイリーンの笑顔にだんだんと影が入っていく。


「次に優しいアッシュに怒りを教えたこと。それも人間は必要でしょう」


「そうよ! 表現者には感情への深い理解が……」


 ぎゅむっとアイリーンはヒゲを引っ張る。


「ひみゃーん!!!」


「それでなぜアッシュを表に出したがる! あれは私の……」


「恋人?」


 クローディアはしてやったりという顔をしていた。


「とられちゃうと思った?」


 それは「げひゃひゃひゃ」と笑い出しそうな顔だった。

 アイリーンは無言でヒゲを引っ張る。


「ぎゃいーん! わかった! わかったからヒゲを引っ張るのやめて!」


 クローディアは「ぼはーん」と煙を出して人間の姿になる。


「花子さん! なんでアッシュを俳優にしたがるんだ!」


「花子言うな!」


 花子、本日一番のダメージ。

 でも花子はめげない。


「……あのね、アイリーン。王でも領主でも俳優でも心に訴えかけるってのが重要なの。俳優ももちろんね。ここでなれてしまうのが一番よ」


 花子ことクローディアは真剣だった。

 真剣に真剣な目の演技をしていた。

 つまり言葉は適当だった。

 だがアイリーンはその顔芸に騙される。


「そ、そう……なのか……?」


「そうよ! 全てアッシュのためなの! それもこれも亡き初代皇帝との約束なの!」


 全てでまかせである。


「それにドラゴンのお披露目もかねてるわ。わかるわね? 代官として、悪魔やドラゴンの庇護者として」


 嘘に正論を混ぜる。

 さらにクローディアはわからないように言葉に魅了(チャーム)の呪文も混ぜる。

 攻撃の意思がないためか、それともそれが本人のためになると判断されたのか加護のあるアイリーンに影響が及ぶ。


「お、おう」


 アイリーンは完全にクローディアに化かされていた。

 頭がぐるぐるして考えがまとまらない。

 だんだんとクローディアの言うことが正しいように思えてくる。

 そしてクローディアはホールにアイリーンを連れて行く。

 そこにはベルレベッカ、それに子ドラゴンたちが踊りの練習をしている。

 ひらひらの衣装を着た子ドラゴンたちが大喜びでくるくるとスピンし、そして歌う。

 ドラゴンの歌声はそれは美しかった。

 まるで妖精。それは本当に妖精のようだった。

 みんな本当に嬉しそうな顔をしている。


「わかる。あれが私たちの理想。人間と人外の共存。そうよねアイリーン」


「うん? ……ああ。そう……だな……」


 間違ったことは言っていないためますますアイリーンはわからなくなる。


「その理想を叶えるのがドラゴンライダー。わかるわね」


「そ、そうかも……?」


 アイリーンは今やタヌキの手のひらで踊っていた。


「アイリーンちゃんも出る」


「い、いやしかし」


「出るの。ヒロインよ」


「え? ……ヒロイン?」


 アイリーンの目がぐるぐるとしている。


「そうヒロインよ」


 クローディアはあやしく笑った。

 こうしてカオスの公演に近づいて行く。

 もちろんクローディアは面白半分ではなかった。

 これこそクローディアのたくらみだったのだ。

 それも全てがアッシュたちのためだった。

飴ちゃんは大阪のおばちゃんだけではなくセネガルのおばちゃんも持ってるそうです。

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