みんなだいすき
皇帝は空を見つめていた。
あれから呪いは消え失せた。
どうやらクリスタルレイクの代官は約束を果たしたようだ。
どうやら思ったより有能なようだ。
残念だ。
初代皇帝の末裔は全て死んでもらわねばならぬ。
そう心に誓う。
だがどうやって?
そもそもアッシュという男の戦闘力を読み違えていた。
まさか瑠衣の力を借りたと言えども本山の悪魔を退けるとは。
圧倒的戦闘力の生物をどうやって殺せばいい?
皇帝は考える。
戦闘力で勝てないと思っていること自体がすでに心が折れているという証拠だと気づきもせず。
腕を組んで立ち尽くしながら考えていた。
座らずに。
椅子があるにもかかわらず座らずに。
深刻な尻のできものが痛むのだ。
髪の毛も抜けた。
足もかゆい。
呪いの効果に違いない。
だが効果が微妙すぎて誰も呪いとは断定できない。
こんな屈辱は初めてだった。
生まれながらの皇帝にもままならないことがある。
それをこの愚かな男は知らなかったのだ。
「クリスタルレイク許さぬぞ……」
皇帝は歯をかみしめた。
もう手段など選ぶ余裕はなかった。
殺さねば。
やつらを殺さねばならない。
◇
クリスタルレイク。
「みんなーせいれーつ!」
レベッカが号令をかける。
「あーい!」
ドラゴンたちは素直に整列する。
それを見たベルはその場に倒れる。
「しゅっぱーつ!」
「あーい!」
ドラゴンたちはなれたもの。
ベルを置いて出発する。
ドラゴンたちは外に出ていた。
アッシュもアイリーンも一緒にいる。
エルムストリートの外でクリスたちが待っていた。
「クリスお姉ちゃん!」
レベッカがクリスに飛びつく。
「おーレベッカ。友達連れてきたんだって」
「あい!」
レベッカの後ろにはドラゴンたちがお座りしていた。
「はい、こんにちは!」
「こんにちはー!!!」
ドラゴンがピコピコと一斉に尻尾をふりふりしながら手を振る。
「きゃー! かっわいいー!」
珍しくクリスが女の子らしい声を出した。
クリスにドラゴンが群がる。
「きゃー!」
クリスが悶絶する。
「……クリス。お前も女の子なんだな」
クリスの視界に失礼なことを言うアイザックが映った。
「うんぎゃああああああああああッ! なんでアイザック兄ちゃんがいるんだよ!」
「保護者だって。アッシュさんもアイリーン様もいるぞ」
「こんにちはクリス」
アイリーンはニコニコと挨拶した。
「は、はろー」
アッシュ渾身の『子どもを怖がらせないフランクな挨拶』だった。
クリスはアッシュのことを怖がっている様子はない。
特徴的な外見には悪魔でなれてしまっていたのだ。
ただクリスの顔が真っ赤になる。
アイザックに見られたのだけが恥ずかしかったのだ。
「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」
ドラゴンたちがクリスにご挨拶していく。
レベッカと同じように「遊んでくれる人」という認定をしたようだ。
クリスは顔を真っ赤にしながらもドラゴンたちをなで回していく。
「うりうりうりうりうりうりうりうり」
「やーん♪」
「あたしもー!」
「もっとなでてー♪」
もうやけである。
ごまかすためにもクリスはドラゴンたちをなで回しまくるのだった。
それを見たアイリーンがアイザックを肘でつつく。
「おいアイザック」
「なんですかお代官様」
やれやれという様子でアイザックが返す。
明らかにそれは嫌々といった態度である。
「色男。お前いつか刺されるぞ。クリスあたりにな。こうサクッと」
「そいつは彼氏持ちの余裕っすか? 自分でもわかってるんですがどうしやがれと?」
もう主と部下ではないのでお互い言葉に容赦がない。
アイザックもアイリーンもこのくらいざっくばらんな方が楽でよかったのだ。
「少しはレディとして扱ってやれ。お前もわかってるんだろ?」
「レディだとは思ってますがクリスは子どもです。つか、レディとして扱ったらあんたらそれをネタにいじるくせに」
「……お前なあ。私だって鬼じゃないぞ」
アイリーンは「まったくひどいヤツだな」とジト目でアイザックを見た。
アイザックは「嘘つけわかってんだよ」とジト目で返す。
「にいたん! アイリーンお姉ちゃーん!」
レベッカの声がした。
「どうしたレベッカ!」
アッシュとアイリーンも手を振り返す。
「あのねあのね! みんな大好き!」
レベッカが満面の笑みで手を振った。
ちょっと短いけど第二章終了でございます。
次回からはランドマーク破壊編でございます。
がんばるどー。
でも明日更新できるかなあ……ブラック的な意味で。
できなかったらごめんなさい。