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百剣

 ガウェインの一撃を受けて飛ばされたバリーは空を見ていた。

 いくつもの青い空が複眼に映っていた。

 ここまでされたのはいつ以来だろうか?

 強くなるために宗主の誘いを受けて悪魔になったが年を経た悪魔は誰も彼も判で押したように争いを嫌う。

 「なぜ戦いたいのだ? 戦いに意味などないのに」と言わんばかりだ。

 バリーは退屈だった。

 弟子を食わせるための政治など退屈なだけだ。

 それに比べて戦いはいいものだ。

 殴り殴られどちらかが生き残る。

 それだけでいいのだ。

 バリーは頭の中から邪念が消え失せていくのを感じていた。


「寝てんのかハゲ!」


 ガウェインが頭の悪そうな言葉で煽った。

 芋虫にハゲもなかろう。

 バリーはゆっくりと起き上がると言った。


「百剣のガウェイン。その二つ名の由来を聞こうか?」


 ガウェインはぐるると低くうなると人の言葉を紡いだ。


「たいしたことじゃねえ。この剣にちょいと仕掛けがあるのさ」


「ふ、見てのお楽しみということか」


「ああそうだ」


 二対の人外は「ふっ」っと笑い合うと同時に襲いかかった。

 バリーの拳の方が速く届いた。

 全身これ凶器を体現したバリーの拳がガウェインを容赦なく破壊していく。

 なぜもともと捕食者であるはずの悪魔が人間の技を学ぶのか?


 そもそも悪魔は永遠とも言える時を持て余している。

 不幸を摂取しなければ消滅してしまうが、その供給さえ解決すれば、後に残るのは消滅まで続く暇である。

 だから悪魔は暇つぶしのために生きていると言っても過言ではない。

 若い悪魔は面白半分に人間を破滅させたり、人間を支配しようとするがそれは麻疹(はしか)のようなものである。

 年を経た悪魔になればなるほど人間には好意的であり、人間の文化にどっぷりつかっている。

 悪魔には新しい文化を生み出す力はない。

 悪魔にとっては人間の生み出す文化、武術や学問までも含めた終わりのない探求の道が必要なのだ。

 だから時には興味本位に人間に仕えてみたり、武僧として武術を極めたり、学者として研究の道に進んだりしている。

 人間にとっては悪魔は恐ろしい存在だとしても、悪魔にとっては人間はなくてはならない存在なのだ。

 バリーたちも同じだった。

 バリーたちはまだ年若く人間を支配しようとしていた。

 しかし人間だったころと同じように本山の武僧を続けていることに疑問を持っていなかった。

 人間に依存した生き物が人間を支配しようなど皮肉でしかないのに。


 ガウェインの体は何度壊されようとも瞬時に再生していく。

 ガウェインは笑っていた。

 ガウェインは知っていたのだ。

 自分を殺すことができるのは妻の伽奈だけであることを。

 だからガウェインはバリーの全ての攻撃を受け止めながら攻撃に取りかかる。

 ガウェインは大剣をふり下ろす。

 バリーは大剣の一撃を真っ正面から受け止める。

 バリーの方も攻撃をよけるつもりなどなかった。

 渾身の一撃はバリーの腕に弾かれる。

 だがガウェインはバカ力で弾かれる剣を押さえ込み、剣の軌道を突きに変化させる。


「オラァッ!」


「バカめ! 我が肉体に突きなど効くか!」


 実際にその通りだった。

 剣はバリーの肉体を貫くことはできなかった。

 だがガウェインは余裕を失っていなかった。


「ちッ、しゃあねえな! 行くぜ!」


 カチリと音がした。

 次の瞬間、ガウェインの剣が火を噴いた。

 ぱああああんという音が響く。

 それは火薬の炸裂だった。

 ガウェインの剣から鉛玉が発射され、鉛玉はバリーの体にめり込んでいく。


「どうだ? 対鎧用のギミックだぜ」


 先込め式の単発銃の弱点は一発撃った後の再装填に時間がかかることである。

 その弱点を補うために様々な工夫がこらされた。

 特に盛んだったのは剣などの武器に銃の発射装置をつけることである。

 その中でもガウェインの剣についているものは対鎧用に至近距離から弾丸を発射するギミックである。

 バリーは久しぶりの痛みを感じていた。


「まだだコラァッ!」


 ガウェインはさらに追撃を加える。

 ガウェインは剣についているレバーを引いた。

 刀身が先から割れ、二本の剣になる。

 ガウェインは両手に剣を持つ。


「おらああああああああああ!」


 途切れのない斬撃がバリーへと襲いかかる。

 バリーの皮膚には剣が通じていない。

 弾丸も軽微な傷だった。

 だがこうも攻撃され続けたらたまらない。

 バリーも拳を振るっていく。

 ガウェインは殴られた先から回復して攻撃していく。

 お互いの攻撃がまったく意味がないという理不尽。

 だがそれでも二人は満足だった。


 そんな二人のじゃれ合いは唐突に終わる。

 突如としてバリーが吹っ飛んだ。

 それは木だった。

 大木での一撃だった。

 その辺に生えてた木を引っこ抜いて殴りつけたのだ。

 こんな雑な攻撃をできるのは一人しかいない。


「オッサン助けに来たぞ」


「あー……認めてやるよ若造。お前は若い……おじさんにそんな元気ねえよ」


 助けに来たのははもちろんアッシュだった。

 ガウェインは呆れていた。

 発想のスケールがまるっきり違う。

 バリーもガウェインも人間の延長線で戦っていた。

 だがアッシュの戦いは初手から人外のものだった。


「誰だ……人工ドラゴンライダーなんて嘘つきやがって。本物は桁が違うじゃねえか……」


 ガウェインは最初に態度が悪かったのはドラゴンライダーへの多少の嫉妬があったことを認めた。

 妻に己の力を認めさせたかった。格好つけたかった。

 だがもはや嫉妬など消え失せた。

 最初のじゃれ合いも完全に子ども扱いだったのだ。

 10近くも年下の相手に手加減をされていて、その程度を見誤ったのだ。

 アッシュは化け物を越える化け物だった。


「あれが……伽奈の最高傑作か……」


 ガウェインは息をつく。


「そいつに負ける気はしないけど勝てる気もしねえ。頼んだぜアッシュ殿」


 ガウェインはその場にしゃがみ込んだ。


「おう。オッサンは瑠衣さんと伽奈さんの方へ行ってくれ」


「それこそ手助けはいらねえだろよ」


「いいから行けよ。伽奈さんはアンタを待ってるぞ」


 アッシュの言葉はガウェインに突き刺さった。

 アッシュに人間性でも負けた気がしたのだ。

 いや、明確に負けたことを理解したのだ。


「アッシュ殿。後は頼んだぜ!」


 ガウェインは伽奈たちの方へ走り出した。


「さて……来いよ」


 アッシュは手招きをする。

 芋虫の顔がアッシュを見つめていた。


「ドラゴンライダーか……」


「らしいな」


「では……尋常に勝負!」


 バリーは起き上がると構えた。

 明らかにアッシュをガウェインより危険な相手だと認識していたのだ。

その頃レベッカたん。


「わああああああああぁッ!」


 レベッカの目がキラキラと輝いていた。

 ベルが毛糸でぬいぐるみを編んで見せたのだ。


「どうやるの? どうやるの?」


 尻尾がブンブンと揺れ、そわそわと膝が動く。


「はい♪ 教えてあげますわ」


「うわーい♪」


 レベッカは大喜びする。

 ベルはそれを見て鼻血を出す。


「うん、もぉー幸せ!!!」


 ここだけはバリーの襲撃などなかったかのようだった。



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※なんとか家に帰って来られない週間が終わりました。

明日はもうちょっと早く投稿できると思います。……げふッ!

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