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人狼

 レベッカと子どもたちはいつものように遊んでいた。

 護衛にはカルロスや悪魔たちがついている。

 これでアッシュの負担はかなり軽くなったのだ。


 子どもの遊びというのはとても恐ろしいものである。

 鬼ごっこやかくれんぼにも飽きてしまうと、どんどん危険な遊びに突き進んでいくのだ。

 その日もなにを思ったか子どもたちは倉庫の屋根に登って、下に敷いた藁の上に飛び降りる遊びをしていた。

 もちろんカルロスに叱られる。


「お前ら本当に危ないだろが! いつも言ってるよな?」


「ヒールで治らない怪我をしそうな遊びはしない……?」


 男の子がなにも考えていない顔で言った。

 本当になにも考えていなかったのである。

 村の子どもは雑に育てられているため危険への考えが甘い。

 遊びで死ぬことがあるということもわからないレベルである。


「……お前らわかってないだろ?」


「うん♪」


 まるで言うことを聞かない。

 ちなみにアッシュの言うことは聞く。

 迫力が違うのだ。

 つまりカルロスは完全になめられていたのだ。


「とにかく飛び降りるのは禁止!」


「えー! んじゃ屋根に登る!」


「屋根に登るのも禁止!」


「つまんなーい! んじゃみんないつものやろうぜ!」


「おおー!」


「いつものってなんだ?」


「そこの土手あるじゃん」


 男の子が湖のふち。治水対策で盛り土がされた箇所を指さす。


「おう」


「登ったら転がり落ちる」


「……」


 大人になってしまったカルロスにはなにが楽しいのかわからない。

 でも子どもたちは「なにそれすっげー」と目をキラキラさせている。


「お前らな……子どもらしくアッシュ殿のミミズで遊ぶとかカエルを捕まえるとかザリガニ捕まえるとか遊びがあるだろ?」


「んじゃ泥団子作ってクリスの家に投げ込もうぜ!」


「おー!!!」


「ストップお前ら。なんで女の子の家に嫌がらせしてんだよ!」


「だって~! クリスのやつ最近遊んでくれないんだもん!」


 クリスは現在アイザックの手伝いをしている。

 そのせいで遊べる日が少なくなっている。


「クリスは働いているだろが! なんでお前らそんなに理不尽なの?」


「だってー! つまんない!!!」


 あきれ果てたカルロスはレベッカに癒やしを求める。

 目を離した隙にレベッカは倉庫によじ登っていた。


「ちょ、レベッカなにやってんの?」


「カルロスにいたん! みてみて!」


「ちょーッ! ストップ!!! やめてー!!!」


 カルロスの悲鳴が響く。

 レベッカは倉庫の屋根から飛び降りる。

 そのまま、いい顔をしながら羽をパタパタと動かし藁の束にダイブする。

 どすーんと音がし子どもたちは「おおすげえレベッカやるじゃん!」と無責任にわく。

 怪我をしたんじゃないかと青くなるカルロスだがレベッカは藁の上でキャッキャと笑っていた。


「楽しかったのー!」


「すげえレベッカ! やるじゃん!」


「おーまーえーらー!!!」


 カルロスの方はたまったものではない。

 涙目で叱りつける。


「いい加減にしなさい! 危険なことをしちゃダメだって言ってるでしょ! ねえ俺言ったよね!?」


「言ったっけ?」


「わかんないのー?」


「おまえらー!!! もう忘れたのかー!!!」


 子どもたちはまるで聞いてない。

 カルロスは完全になめられていた。

 だがこういうときの切り札がカルロスにはあった。


「あ、そう。んじゃ、アイリーン様とアッシュ殿に言いつけるぞ」


 子どもたちの顔が絶望に変わる。


「ひでええええええ! おやつなし、おまけに騎士団ごっこまでやらされるじゃん!」


 アッシュは実は甘々なのだが顔が怖いので子どもたちから恐れられている。

 おやつも『なし』にしたことはないのだがなぜか恐れられている。

 さらにアイリーンは脳筋ではないものの基本の発想は体育会系だ。


「暴れたいか。よし、騎士団の練習をしよう。はっはっは。なあにそのうちなれる。あっはっはっはっは!」


 と、悪意もなく恐ろしい罰ゲームを課す鬼と子どもたちに認識されている。

 ちなみに騎士団ごっこはアイリーンが本気でやらせるので子どもたちからの評判は悪い。


「えー、んじゃカルロス兄ちゃんに全力カンチョーでもするか?」


「お前それやったらさすがにグーで殴るからな」


「しかたねえな。じゃあザリガニに指を挟ませる遊びでもするか!」


「おーまーえーらー!」


 カルロスがそろそろ拳骨をしようと拳を握る。

 するとアイザックがやって来るのが見えた。


「おーっすカルロス」


「おう、アイザックどうした?」


()だ。村の外(・・・)に来ている。わかるな?」


 「不審者が来た。見てこい」という意味だ。


「お、おう。アッシュさんは?」


「俺と一緒にアイリーン様とレベッカを守る予定だ」


「わかった……それで、俺の護衛は?」


「お前な……騎士に護衛って……まあいいや。お前の保護者としてガウェインの旦那がついていく」


「えー……あの人苦手なんだよ……」


 ガウェインはガサツすぎるためか、ほとんどの住民と相性が悪い。


「今回は蜘蛛もカラスもいる。大丈夫だから行ってこい」


「ああわかった。行けばいいんだろ!」


 カルロスが行くのをみてアイザックは子どもたちの方を向いた。


「ようっし、お菓子やるからアッシュさんの屋敷に行こうな」


「うす!」


「あーい♪」


 子どもたちは素直にアイザックについていく。

 アイザックは子どもにも人気があるのだ。

 こうして盛大な勘違いの幕が上がったのである。



 カルロスが村の入り口につくとガウェインが待っていた。


「ようカルロス」


「は、はあ……」


 覇気のない返事が自然とカルロスの口から漏れ出す。

 ガウェインが心底苦手らしい。


「なんだ覇気がねえな! がははははは!」


 バンバンとガウェインはカルロスの背中を叩く。


「はあ……」


 カルロスのテンションは駄々下がりである。

 それでもカルロスは村を出て街道のところまで歩いていく。

 そこには客はいなかった。


「それでお客さんっていうのは?」


「おう、本山の武僧(モンク)の宗主だってよ。いい女だったぜ。まだその辺にいるんじゃねえか?」


 ピタッとカルロスの動きが止まる。


「い、今、なんて言いやがりましたか?」


「宗主って名乗る女がだな……」


 その時だった。

 ガウェインの頭に刃物が刺さる。

 それはクナイなのだがカルロスにはわからない。


「ガウェインさん!」


 カルロスはとっさにガウェインの腰のベルトを引っ張って林の中に身を隠す。

 蜘蛛の群れがカルロスたちを守るように林になだれ込んで来る。


「あーはっはっは! 若き忍者よ。いっちょ手合わせをしようじゃないか!」


 大男がぼきりぼきりと指を鳴らした。

 本山の指導者の一人、バリーである。

 カルロスは「忍者って誰よ?」とキョロキョロとしていた。

 バリーはその太い腕を見せつける。


「いや忍者ってわからねえし! 誰だよお前!」


「我が名はバリー! いざ尋常に勝負!」


 バリーの名乗りの直後、蜘蛛がバリーに襲いかかる。

 死んだ。

 確実に死んだ。

 カルロスは確信した。

 ガウェインは瀕死。

 敵は壮大な勘違いをして全力で殺しに来ている。

 カルロスは凡人である。

 アッシュのように強いわけでも、アイザックのように悪辣な手で相手を出し抜くわけでもない。

 死ぬ前に逃げねばならないのだ。

 だがバリーは速かった。

 襲いかかる蜘蛛を蹴散らすと真っ直ぐにカルロスを殺しに来たのだ。


(無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理ィッ!)


 カルロスの頭がバリーの岩のような拳に熟れたザクロのように潰されようとした瞬間、カルロスとバリーの拳の間に割り込むものがあった。

 それはバリーの拳を己の手の平で受け止める。


「おい、オッサン……いきなりなにしやがんだ!」


 それは頭を刺されたはずのガウェインだった。

 いや正直言ってカルロスにはそれがガウェインである自信はなかった。

 なぜならそれは上半身が狼だった。

 ガウェインのその姿はまるで獣人。

 それも人狼と言われる姿だったのだ。

明日は投稿できるかわかりません……できたらいいなあ……とほほ……

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