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アイザック怒りのリベンジ(共犯者アッシュ)

 アイザックは地面に枝で計算式を書いていた。

 脳筋が多い騎士団だが彼は士官として作戦立案の教育を受けている。

 測量や角度計算などもこなす男である。

 その彼が本気を出した。

 なぜならその内容が嫌がらせだったからだ。

 そして計算をするアイザックの後ろにはレベッカを抱っこしたアッシュがのほほんと立っていた。


「アッシュさん。この掃除用のデッキブラシを放り投げてください。全力で」


 屋敷で使っているデッキブラシである。


「それメグお姉ちゃんのですよ?」


 レベッカがそう言うとアッシュは少し焦って屋敷を見た。

 幽霊メイドのメグが口に一房の髪をくわえて恨めしそうに見ている。

 目が合ってしまったのだ。


「メグが呪ってくれるって顔してみてるけど」


「あとで新しいのを買います」


 幽霊のものを取り上げるのだからアイザックもいい根性をしている。


「ところでなんでデッキブラシ? 槍じゃダメなのか?」


「今回のテーマは『くだらない道具と手段で相手を極限まで追い込むこと』です」


 本当にいい根性をしている。


「いいのか?」


「ふ、アッシュさん。傭兵団で嫌がらせをしてくるアホを黙らすにはどうしましたか?」


「とりあえず泣かす。あまり暴力は好きじゃないけど団長の命令だし」


「ですよね。それと同じです。この国は危機に瀕してます。自分の立ち位置も理解せずに圧倒的上位者に喧嘩を売るようなアホがトップにいます」


「お、おう」


「彼らが調子に乗ると国民全員に迷惑がかかります」


 このあたりからアイザックの目が真っ黒になっていた。

 世の中には怒らせてはならない人物が確かにいるのだ。


「……お、おう」


「幸いにして我々には相手に『めっ!』をする能力があります」


「う、うん」


 思わずアッシュは年相応の言葉遣いになった。


「と、いうわけで『めっ!』して反省してもらいましょう」


「でも相手は俺たちがやったことがわかるだろ?」


「大丈夫ですよ」


 アイザックはにっこり笑う。


「デッキブラシで重要施設を壊されたって報告できるやつは優秀です。でもそういう優秀なヤツはそもそも上に立てないんですよ。この国では」


「う、うん」


「まずは帝都近くの砦を落としましょう。ああ大丈夫です。人はいませんから。ゴブリンの大群があらわれたって偽情報を流しましたし、残った中の人は瑠衣さんたちによって避難完了してます」


 このウォーモンガーはすでに瑠衣と話をつけているらしい。


「お、おう」


「では行きましょう」


 アッシュはレベッカをアイザックに渡すとブラシを構える。

 同時にドラゴンライダーの力を解放する。


「にいたんがんばれー!」


「おう!」


 力の奔流が暴れ回る。

 助走をつけるとアッシュの筋肉が歓喜の雄叫びを上げる。

 足、太もも、尻、背中、肩とリレーをした力が手で爆発をする。


「だりゃあああああああああ!」


 アッシュの手から放たれたデッキブラシが加速を開始、空気を切り裂きながら飛んでいく。

 空に放たれたデッキブラシはあっと言う間に見えなくなった。


「よし。次はこれです」


「モップ……」


 にこやかな顔をしてアイザックはモップを差し出す。

 なぜかアイザックからは瘴気が立ちこめている。


「ええ、武僧どもの本山にぶち込みます」


「証拠はないがいいのか?」


「騎士だったら証拠が必要でしょう。……でも私たちは料理人です。証拠なんて必要ありません。それに気にくわないんですよ。俺はガキを危険に巻き込もうとする連中が一番嫌いなんですよ!」


「……」


 普段にこやかで他人に優しい人物ほど怒らせたら怖いものなのだ。

 アッシュは自分を棚に上げて黙った。

 でもアイザックはレベッカやクリスのために怒っているのは理解していた。

 だから全力で投げてしまおうとアッシュは思った。

 アッシュはこれも本気で投げた。


「次。」


「まだあるのかよ!」


「ええ、最後が本番です。このカビの生えたタワシを城に放り投げます」


 とうとう棒状のものですらなくなった。

 まったくやる気の感じられないアイテムでの爆撃である。


「腐ったタマネギとどちらにしようか迷いましたがこちらにしました」


 鬼である。


「これに関しては角度や距離、スピードを俺の計算通りに行ってもらいます」


「わかった」


 アイザックはニコニコしながらレベッカをおろすと八分儀を取り出し計測をする。


「はい、アッシュさん。この角度で思いっきり投げてください」


「おう!」


 アッシュはタワシを手に取ると言われたとおり本気で投げた。



 まず最初に異変が起こったのは帝都近くの砦だった。

 幸いにもゴブリン狩りで大半の騎士団員が出払っていたこと、砦の警備に残された団員たちが原因不明の意識障害により全員外に出ていたため被害者はいなかったと記録にはある。

 それはデッキブラシだった。

 程よく使い古された汚いブラシだった。

 それが流星のごとく炎を纏い天から舞い降りた。

 瞬く間とはこの事を言うのだろう。

 デッキブラシは砦に突き刺さった。

 ただ突き刺さったわけではない。

 着弾と同時に爆発した。

 それは伝承に伝わる星を落とす古代魔術と同じものだった。

 砦は崩壊。一瞬にして瓦礫の山へと変貌した。


 間を置かずに武僧(モンク)たちの本山に2撃目が舞い降りた。

 それはぼろぼろになったモップだった。

 メグのお気に入りである。

 それも古代魔術と思わしき光をまとっていた。

 それがすべて筋力によるものだとは誰も考えなかっただろう。

 そのモップは砦を破壊したのと同じように炎を纏いながら本山に舞い降りた。

 当時、人間に擬態した芋虫たちが修行をしていたという。

 そこに神の矢が舞い降りた。

 芋虫たちは吹き飛ばされこんがりとローストされた。

 そこに瑠衣たち蜘蛛軍団が襲撃。

 武僧の一部は逃げ延びたものの大半を捕縛した。

 ちなみに本山には神をかたどった巨大な像が鎮座していたが上半身が粉々にふき飛ばされていたとのことである。


 人々は口々に噂をした。


「現皇帝は神を怒らせたのではないか」と。


 さて次は隠蔽された事件である。

 それはタワシだった。

 ほどよく毛が抜け、廃棄予定のゴミだった。

 それは前の二回とは違った。

 城の最上階目がけて一直線にやって来た。

 音速を超えたタワシは本来ならバラバラになっていただろう。

 デッキブラシもモップも本来なら同じ運命だっただろう。

 だがそれこそがドラゴンライダーの特殊能力だった。

 アッシュ自身や武器には物理耐性が付与される。

 ほぼ無効と言ってもいいだろう。

 その加護が付与されたタワシが音よりも早く城へ向かっていたのだ。

 タワシの通ったあとで轟音が追随していく。

 衝撃波で木がなぎ倒されていく。

 そしてデッキブラシやモップよりは遅いもののタワシも瞬時に城へ到達する。

 タワシが城の塔、最上階の見張り台に激突する。

 次の瞬間、見張り台が消滅した。


 皇帝はその時、玉座に座っていた。

 そして突如としてなにかが飛来した。

 すぐに近衛騎士たちが皇帝を避難させる。

 だが間に合わなかった。

 次の瞬間、塔が破裂した。

 いや音によって塔が破裂したことを認識したのだ。

 それだけではない。

 城のガラスが全て粉々に砕け壁が崩れる。

 皇帝は子どものように叫んでいた。


 なにが起こった?

 そうして自分がこんな目に?


 全てがわからない。

 ただ恐ろしいものを敵に回した。

 その何者かのとてつもない悪意だけは感じていた。

 そして数秒が、永遠とも思えた数秒が経った。

 粉塵が舞い、ガラスと壁の破片が散乱する。


「陛下! 陛下、ご無事ですか!?」


 近衛の騎士が叫んでいた。

 だが皇帝は呆然としていた。

 報復を考えることもできなかった。


「な、なぜだ……なぜこうなった?」


 皇帝は泣きそうだった。

 自分はただ本山の僧侶の進言を聞いただけだ。

 それなのになぜこんな結果になったのだ?

 それにこの国は悪魔が守っているはずだ。

 どうしてこんな恐ろしいことが許されたのだ?


 悪魔との契約も果たさずに皇帝は勝手なことを考えていた。


「なぜだ……」


「陛下……?」


「どうしてだ……」


 この時、皇帝の心は折れていた。

 ぽっきりと完全に折れたのだ。

音が後に来るのをわかっていたのに書いてるうちにわけがわからなくなりました……直しました。

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