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ドラゴンは寂しいと死んじゃいます ~レベッカたんのにいたんは人類最強の傭兵~  作者: 藤原ゴンザレス
第二章 呪われた皇帝

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クリスタルレイク2番目の……

 アッシュは本気で怒っていた。

 その顔の怖さと圧倒的な強さゆえかアッシュには友達と言える存在が極端に少ない。

 一つ屋根の下に住んでいるアイザックは友人と言える。

 その友人を傷つけられて怒らないはずがなかった。

 アッシュは蹴飛ばした芋虫のところにやってくる。

 芋虫はピクピクと小刻みに動いていた。

 だが突然起き上がるとアッシュに尻尾を向けた。


「キシャアアアアッ!」


 アッシュ目がけて糸が発射される。

 アッシュはそれをよけようともしない。

 その大きな手を握り拳を作る。

 その刹那、拳は聖属性の光りを放った。

 アッシュは拳を振りかぶる。

 そして容赦なく拳を打ちこんだ。

 芋虫は糸を吐き出しながら転がる。

 アッシュの目が赤く光り、アッシュはその糸をつかむと一気に引き寄せた。

 糸を切り離す間もなく芋虫はアッシュに引き寄せられる。

 アッシュは無慈悲にも飛んできた芋虫を殴りつける。

 アッシュは飛んだ芋虫を引き寄せては殴り、引き寄せては殴りしていく。

 糸が丈夫すぎて切断されないのが致命的だった。

 何度も何度もアッシュの鉄拳が芋虫を襲った。

 アッシュは完全にサンドバッグ状態になった芋虫をさらに容赦なく殴り続ける。

 一緒にやってきたガウェインはその時のことを後に顔を青くしながらこう語った。


「いままで俺もアッシュをさんざん挑発してきたが、次は絶対に喧嘩を売るのをやめようと思ったぜ。普段大人しいヤツがキレたときってのは怖いんだな……マジでずっと殴ってるんだよ! わかるかKOしても殴り続けてるんだ。俺は絶対に勝てない相手がいるって事を知ったぜ」


 それは元騎士で傭兵でもあるガウェインがドン引きレベルの制裁だった。

 最後にアッシュは芋虫を振り回す。

 空中でぐるぐると芋虫が回り続ける。


「ふんが!」


 アッシュは大木に芋虫を叩きつけた。

 芋虫が叩きつけられるとバンと爆発音が響いた。

 衝撃でバキバキと音を立てながら大木がへし折れた。

 アッシュはそれを見て小さくつぶやいた。


「おかしい……弱すぎる」


 それは違和感だった。

 ゼインと比べてこの芋虫は明らかに弱かった。

 そこに違和感を感じた。

 アッシュはケーキ屋でもあるが新米農家でもある。

 農家の勘がそれを察知していた。


 芋虫を1匹見たら30匹はいると思え。


 アッシュは芋虫だらけになったキャベツを思い出した。


「アッシュ! アイザックは回収したぞ!」


 ガウェインの声がした。


「じゃあ俺は周りを見てくる!」


 そう言うとアッシュは警戒をしながらあたりを見て回る。

 すると糸でグルグル巻きにされた蜘蛛が目をうるうるさせながら上目づかいで見ているのを発見した。

 前にケーキを買いに来ていた蜘蛛だ。

 すでにアッシュは瑠衣の手下の蜘蛛を見分けられるようになっていたのだ。

 アッシュは聖属性を宿した手刀で糸を切断する。


「きゅうッ! きゅう。きゅううううううん!」


 蜘蛛は一生懸命アッシュに説明する。

 普通の人間ならなにを言っているかわからなかっただろう。

 だがアッシュにはだいたいわかったのだ。


「瑠衣さんが捕まってる? なんで?」


「きゅううううん!」


「いきなり囲まれた? 悪意があればわかるんだろ?」


「きゅう!」


「わからない?」


 蜘蛛もわからないらしい。

 その時だった。

 アッシュ目がけて何匹もの芋虫が飛び降りてくる。

 アッシュはその一匹に本気の裏拳を浴びせる。

 こぶしというより大砲の音に近い爆発音が響く。

 数匹が衝撃に巻き込まれ空へ消えていく。

 やはり害虫は群れでやってきたのだ。

 だがなぜ蜘蛛たちは気づかない。

 疑問に思ったアッシュは仮面をつける。

 仮面から見た景色に赤い点が見える。

 アッシュは赤い点を目指すことにし蜘蛛に指示を出す。


「仲間を救出してくれ。俺は向こうを見てくる」


「きゅう!」


 蜘蛛はシャカシャカと走る。

 アッシュは赤い点に向かい歩いて行く。

 それは一見すると何もない空間だった。

 だがアッシュはその異常性を認識していた。


「なるほど。魔力で空間を作っているのか」


 アッシュは何もない空間に両手を差し込む。

 ミチミチとアッシュの筋肉がうなりを上げる。

 光がほとばしり静電気がバチバチと光った。

 小さな爆発が起こりアッシュの体を容赦なく焼いた。

 それでもアッシュはやめない。

 じょじょに、じょじょに空間に亀裂が走り、そこから世界に裂け目が発生する。


「ふんがああああああッ!」


 アッシュの気合が響く。

 爆発と光りが世界にできた裂け目が広がっていく。

 そしてアッシュは裂け目から中を見る。


「あら、アッシュ様」


 中からは危機感のない声がした。

 それは糸でグルグル巻きにされた瑠衣だった。


「今助ける! 手を取れ!」


 アッシュは手を伸ばす。

 糸から手を抜いてその手を瑠衣はしっかりとつかんだ。

 アッシュは瑠衣を空間から引き出す。

 差し込んだ手を引き抜くと空間は一瞬で元に戻った。


「まさか空間魔法を腕力で破壊するとは……アッシュ様も無茶しますね……」


 瑠衣もさすがに驚いていた。

 アッシュは瑠衣の糸を切断する。


「どうして侵入されたんでしょうか?」


「わかりません。いつの間にか囲まれてました」


 今まで村を守ってきた瑠衣がそう言うのならそうなのだろう。

 アッシュは納得することにした。

 そんな二人に迫るものがいた。

 剣を持った武僧(モンク)だ。

 普段だったらこの奇襲はいい線まではいっていたかもしれない。

 もしかするとアッシュに手傷を負わせることもできたかもしれない。

 だがアッシュは本気で怒っていたのだ。

 アッシュは地面を殴った。

 その拳の威力に地面はたわみ、モンクは跳ね上がった。


「な、なんだと!」


 自分で体の制御をできずにモンクはジタバタともがく。

 アッシュは飛び上がる。

 そして問答無用でモンクを殴りつけた。

 後に残るのは人型の穴だった。

 モンクは完全に地面にめり込んでいた。


「冗談みたいな威力ですね……」


「ええ。今回だけはむしゃくしゃしました」


「なにかございましたか」


「アイザックが大怪我をしました」


 アッシュの言葉を聞いて空気が変わった。

 心なしかすべてがひんやりとしている。


「ええ。わかります。私も今怒りました」


 瑠衣が手をかざす。

 どこからともなく蜘蛛の大群が押し寄せてくる。


「みなさん。芋虫を駆除してください。これは悪魔として契約の履行にかかわる問題です!」


 瑠衣は珍しくまったく微笑まないでそう言った。

 その目は冷たく暗い実に恐ろしいものだった。


「きゅいー!」


 いつもは陽気な蜘蛛たちもピシッと整列して返事をした。


「逃げるものは世界の果てまで追いかけてください」


 本気の蜘蛛たちと本気のアッシュ、それと一番怒らせてはならない瑠衣によってクリスタルレイクの平和は守られたのだ。



 数日後。

 アイザックは「いてててて」と言いながらベッドから起き上がった。

 アイザックは鏡を見る。

 瑠衣の回復魔法で腫れこそ引いたが、ところどころ顔にアザができていて口の端も切れていた。

 幸いにも鼻は折れていない。

 鼻が折れたらこれからがたいへんだ。

 アイザックはそれだけは感謝した。

 あれからわかったのは森には巨大な卵がいくつも産み付けられていたということだった。

 つまりあの武僧(モンク)どもはクリスタルレイク産、しかも生まれたての幼虫だったのだ。

 さすがに瑠衣もこの手は考えていなかったようであちこちに謝り通しだった。

 今後は蜘蛛だけではなく他の種族も警備にまわすとのことである。

 ではその卵を運んだのは誰なのか?

 結局そこまではわからなかった。

 アイザックはため息をついた。


「はあ、俺もバカだねえ」


 時間稼ぎで悪魔に挑んだことではない。

 そちらは騎士として誇りに思っている。

 田舎の騎士団の上から2番目ならレベッカを外に出した甘さも含めても上出来だろう。

 弱きものを助けて悪魔と戦って生き残ったのだ。

 騎士の本分ってやつをまっとうしたのだ。

 誰にも文句は言わせない。

 問題はこれからアイザックがやることだ。


「この髪型も見納めか……」


 そう言うとアイザックはハサミを手に取り騎士風の長髪にじょきりとハサミを入れた。

 ジョキジョキと容赦なく毛を切っていった。

 一時間後、アイザックはアイリーンの執務室におもむいた。


「後悔はないな?」


「はい。ありません!」


「そうか……私も反対はせんよ。もうこの国は終わりだ。騎士の時代もじきに終わりを迎えるだろうな」


 アイリーンはそう言うとデスクに袋を置いた。


「餞別だ。これから必要だろ?」


「ありがとうございます!」


 アイザックはおそらく最後であろう軍式の敬礼をした。

 そしてアイザックは食堂へ向かう。

 食堂にはアッシュとレベッカ、それにカルロスやクリスまでいた。


「おい、アイザック。その頭……」


 アイザックは騎士風の長髪をバッサリ切り、清潔感あふれる短髪にした。

 虎刈り気味の坊主頭とも言う。


「もう騎士じゃねえんだからいいだろ?」


 アイザックは騎士を辞めてきた。

 表向きはレベッカを危険にさらした命令違反での辞表提出である。

 アイリーンの方は処分する気はなく、むしろ悪魔と戦って生き残ったことをほめていた。

 だがアイザックはそれをよしとしなかった。

 それが騎士としてのケジメというものだ。

 騎士を辞めたアイザックはアッシュに向き直る。


「クリスタルレイクの厨房で2番目を目指す男アイザックです! アッシュさんよろしくお願いします!」


「よろしく」


 2人は固く握手をした。


「今まで通りレベッカのボディガードもしますんでよろしく」


「アイザックお兄ちゃん。ありがとう。これからもよろしく」


 レベッカもアイザックに抱きつく。


「それで、なんでクリスがいるんだよ?」


「う、うっせーな! いちゃ悪いかよ!」


「あのねあのね。クリスちゃん心配してたんだよ。アイザックお兄ちゃん大丈夫かなあっていつも言ってたんだよ」


 レベッカが一生懸命説明した。


「お、おう、心配かけて悪かったな」


「そうだよ! 心配かけさせんなよ!」


 クリスは顔を真っ赤にしていた。

 その恥ずかしがり方がアイザックには微笑ましかった。

 だから言ってしまった。


「お前かわいいなあ」


「んな! このバカ! 死んじゃえ!」


 そう言うとクリスは顔を真っ赤にして飛び出していった。

 それを見てアイザックは余計なことを言ってしまったと覚った。


「アイザックお兄ちゃん。クリスちゃんどうしたの?」


「お兄ちゃん言葉選びに失敗してレディを怒らせてしまったんだ」


「難しいの?」


「うん。女の子は難しいの」


「そっかー」


 アイザックはレベッカを撫でた。

 こうしてクリスタルレイクに料理人が一人誕生した。

 後にアッシュの右腕として辣腕を振るう最強の料理人軍団、その料理長。

 それがアイザックであるとはこの時はまだ誰も気づいていなかった。

 ちなみにアイリーンの餞別は料理人の制服だったという。

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