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オッサン顔 VS 殺人鬼顔 ※ギャグ回

 夜、闇夜の中でアッシュはランタンを手に立っていた。

 そこに足音を立てずに近づくものがあった。


「いようアッシュ。待たせたな」


 ガウェインがランタンを振る。

 アッシュは手を上げる。


「今来たところだ」


 アッシュはガウェインに呼び出されたのである。

 ガウェインはあごひげを触りながら笑顔で用件を話しはじめる。


「そうか。ああ、それで用件だが……」


 ガウェインは突如として剣を抜く。


「悪いな。痛い目にあってもらう」


「だと思った」


 アッシュはあきれ果てる。

 このガウェインという男、わかりやすい。

 ここまで直球で生きる男が宮仕えをするのはさぞ苦しかっただろう。

 ガウェインが剣を振りかぶる。

 だがアッシュは棒立ちのままでいる。

 どうにもやる気が起きないのだ。


「なぜ戦わない?」


「あんたは露骨すぎるんだよ。喧嘩を売ってますって態度が見え見えだ。それじゃあ喧嘩を買う気にならんね。で、誰に頼まれた?」


「やれやれ、やだねえ。そのナリで知性派か。まったく世の中ってのは不公平だぜ。ああ、依頼主は皇帝陛下だ」


「なんであんなオッサンの言うことを聞く」


「一つは嫁のため。もう一つは正義のためだ」


 ガウェインという男はまだ頭の中は騎士のままだったのだ。

 だが正義と言われてもアッシュには身に覚えがない。


「俺が何をした? ノーマンを倒したことか? 砦を壊したことか?」


 それだけでも法においては大罪であるがアッシュの兵力を抑えて裁くことのできる人間は存在しないだろう。


「おいおい、それだったら俺はお前さんに干渉しねえよ。ヤンチャは騎士の性分だろ?」


「俺は騎士じゃない。まあいいや。じゃあなんだ? 悪魔と仲良くしたこと……ってあんたの嫁さんは悪魔か」


「ふ、わからんのか? じゃあ教えてやる。16歳の乙女が35歳のオッサンに誘拐された」


 ぶちっ。

 仮面の下でアッシュのこめかみに血管が浮かんだ。


「……さ、さ、さ、35歳?」


 仮面の下の目が赤く光る。

 危険色である。


「ああ。お前さんもいい年こいてガキの尻を追いかけやがって。恥ずかしいと思わんのか?」


「い、い、い、い、いい年?」


「そうだよ。まったくこのオッサンが。さっさとアイリーン様を帰してやれ」


 アッシュは仮面を取り後ろに放り投げる。

 そしてランタンで顔を照らして自分の顔を見せつける。


「お前、俺は17歳だ! こ、この顔が35歳に見えるか!」


 アッシュはその鋭い目をさらに鋭くさせて抗議する。


「オッサンそのものじゃねえか! 嘘ついてんじゃねえロリコン野郎!!!」


 それはトドメだった。

 アッシュの心を打ち砕くには充分な威力を持った攻撃だった。

 そもそもアイリーンは一つ下なだけだし、アッシュとアイリーンはこれ以上ないほど健全な交際をしている。

 王都の若い子からは考えられないほどの健全さなのである。

 だから、とうとうアッシュはブチ切れた。


「てめえコラ! 言うに事欠いてそれか!」


 確かにロリコン呼ばわりが引き金だった。

 アイリーンたちが同年代扱いしてくれたせいかアッシュはオッサン顔というか殺人鬼顔への煽りに過剰反応したのも原因の一つである。

 それはガウェインもまた老け顔だったからではない。きっとない。たぶん違う。

 一見すると30代に見えるガウェインが実は20代のような気がするがそれは関係ないはずだ。

 最近その事実を忘れがちだったが顔はアッシュの一番のコンプレックスなのだ。

 そこをガウェインはピンポイントで爆撃してしまったのである。

 一見するとアッシュは我慢強く、公平で、他人には寛容な内面イケメンである。

 だがいくらアッシュが我慢強くてもコンプレックスをピンポイント突かれたら怒りもするのである。

 ガウェインとアッシュの殺気が交差する。

 攻撃したのはガウェインが先だった。


「オラァッ!」


 容赦なく上段から剣をふり下ろす。

 並の剣士なら剣ごと真っ二つである。

 だがアッシュはよけず、かと言って剣を抜くこともない。

 頭をたたき割りに来る刃をただ両手で挟んだ。

 真剣白刃捕りである。


「な! てめえなんだそ……」


 最後まで言わせない。

 アッシュは剣が重みを出すその瞬間、すでにガウェインの横にまわっていた。

 そしてガウェインが剣をとられたと認識した瞬間にはガウェインの手首を捻りあげ放り投げていた。

 パワーの目立つアッシュだが実は技巧派なのだ。


「れええええええええええ! ほげら!」


 間抜けな声を出しながら空中で一回転したガウェインがどごんと重い音を立てて地面に落ちた。

 だがガウェインもアッシュのような人外クラスには届かないと言えども相当な使い手、間髪入れず立ち上がり間合いをとる。


「クソ、だまされた! そんな達人が使うような技をホイホイ出す17歳がいてたまるか!!!」


 ここにいる。


オッサン(・・・・)も大概タフだな」


「お、おまえ! 26歳にオッサンって言ったら戦争だぞ! 殺し合いになるからな!」


 ガウェインもどう見ても35歳くらいの顔である。

 26歳にオッサン呼ばわりで戦争なら17歳にオッサン呼ばわりは世界を滅ぼすレベルである。


「自分が言われて嫌なことは他人に言うなよ! 大人ならわかんだろ!」


「うるせー! ただ年食っただけで聖人君子になれると思うなよ!」


 恐ろしく低レベルの言い合いが続く。

 ただしこの場合悪いのはガウェインである。

 年齢よりかなり大人びたアッシュと比べて、ガウェインの方がぶっちぎりで大人げないのである。


「だいたいなんだよ! 俺がアイリーンをさらったって!? ねえよ!」


 やって来たのはアイリーンの方である。


「うるせえな! 皇帝がそう言ってんだよ! あのバカども代々伽奈を地下に閉じ込めてやがったんだ。お前をぶっ飛ばしてアイリーン嬢を奪還したら開放してくれるって言ってるんだよ!」


 そう言った瞬間、ガウェインはしまったという顔をした。


「話せ」


 アッシュは今まで最大の殺気をこめた重いセリフを吐いた。

 「いいから話せ。話さなければこの場で殺す」という意味である。

 ガウェインはポリポリと頭をかいた。

 アッシュとの間にある実力差は予想を超えるものだったのだ。


「……わかったよ。伽奈の声には呪いがかかっている。聞いたら大抵の人間は死ぬ。万が一生き残っても死ぬよりも辛い目に会う。それを皇帝どもは代々利用していた」


「暗殺か?」


「なにせ声を聞いただけで死ぬからな。邪魔者を抹殺するのには都合がいいだろよ」


「ひどい話だな……」


「ああ……ひどい話だ。だから俺はまあ……なんだ。伽奈をさらって逃げて妻にした」


 後先考えないガウェインらしい行動である。


「追手は?」


「全員ぶっ飛ばした」


 完全に脳筋の発想である。


「それで戦場を渡り歩いていたら帝国から使者が来てお前を懲らしめてやれと言われたってわけだ」


「なぜそれが嘘だと思わなかった?」


「顔見りゃわかんだろ! お前も俺も王子様ってツラか!? 最初お前を見たときに正直チビリそうになったぜ!」


「顔か! 顔なのか!」


 顔である。

 顔なのである。

 世の中は顔なのである。

 アッシュは世の中に不条理を感じた。


「それがお前、会ってみたらアイリーン嬢は嫌がってない。お前は顔よりは凶暴じゃないと驚きの連続だぜ」


「それで試したと」


「ああ。それが一番手っ取り早い」


「それでどう思った?」


 それが重要である。

 あくまで敵対するというのならアッシュも本気で防衛しなければならない。


「お前が17歳なのは絶対に信じてやらねえけど、少なくとも皇帝が言ってたような悪党には見えんな」


「俺もアンタが26歳だってのは絶対に信じてやらんが敵対する気がなくなったのは信じてやろう」


 そもそも瑠衣が村に近づいた時点で排除しに来ない程度の悪意なのである。

 危険性は低いのだ。

 ……だが、オッサン顔の二人の中で確実にしこりは残った。


「ふっ」


「ふふふ」


 二人はポキリポキリと拳を鳴らす。


「さてアッシュくん。誤解は解けたわけだが」


「ああ、オッサン。誤解は解けたな」


「オッサンという言葉を取り消したまえ。俺は26歳だ」


「俺も17歳だ」


 ボキボキ。バキバキ。

 指を鳴らす音が闇夜に響き、重量級どうしの放つ殺気でネズミが逃げ出した。

「もはやどちらがオッサンか白黒つけるしかねえな」


「だな!」


 次の瞬間、アッシュとガウェインの拳が交差する……はずだった。


「やめんか二人とも!」


 声はもちろんアイリーンだった。

 ベルや騎士二人も連れて来ていた。


「まったく! 目を離したらこれだ! レベッカ。止めてあげなさい」


「あーい♪」


 レベッカが尻尾を振ふりながらアッシュに飛びかかる。

 それをアッシュは受け止め抱っこする。


「にいたんケンカしちゃめーよ」


「はいはい」


 ガウェインはそれを見て頭をポリポリとかく。


「なんだそりゃドラゴンの子どもか?」


「そうだ」


「レベッカです!」


「あいあい。ガウェインお兄ちゃん(・・・・・)です……こりゃ俺の間違いだったな。アッシュ殿。悪かったな」


「わかればいいよ。だが俺は17歳だ」


「俺も26歳だ。それは譲れん」


 二人は再び空気を凍らせる。

 そんな空気をアイリーンがぶち壊す。


「なにをやってるお前ら! どう見てもアッシュは私と同じくらいの年だし、ガウェインは20代だ。そんなくだらないことで喧嘩するな!」


 全員の視線がアイリーンに集まる。


「え?」


「なんだお前らその目は?」


 アイリーンはここしばらくの騒動で人の本質を見抜く能力を手に入れていたのだ。

 だがここではベルや騎士たちにに「うちの姫様大丈夫だろうか?」という心配だけを深めたのである。

アッシュは17歳です。(キリッ!)


それと仕事が変な感じに入っちゃってなかなか誤字脱字、変な表現を直す時間が取れません。

ちょっと待ってね。

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