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ドラゴンは寂しいと死んじゃいます ~レベッカたんのにいたんは人類最強の傭兵~  作者: 藤原ゴンザレス
第二章 呪われた皇帝

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百剣のガウェイン

 それはアッシュのミミズコンポストで一人分の食料の処理ができるようになった頃の話だった。

 シマミミズが増えたせいかアイリーンとベルは絶対に近づかない。

 レベッカも遠くで見るだけで決して触ろうとはしない。

 男3人だけが面白がってミミズの飼育をしている状態だった。

 女性陣はというとアイリーンの伝手で呼びつけた帝都の商人にミスリルやら魔法の品々を売る算段をしていた。


「エドモンド様からのご紹介にあずかりました商人でもせいぜい一箱をさばくのが限界だそうです」


 ベルが書類を読み上げる。

 それを聞いたアイリーンはため息をついた。


「そんな罠があるとはな。実家の出入り商人は?」


「それもせいぜい一箱ですね」


「良い品なのになぜ売れんのだ?」


「良い品すぎるのです。高級すぎて買える人間は限られてます」


「安く売ればどうだ?」


「偽物だと言いがかりをつけられかねません」


「なるほどな。買ってくれそうな客はいるか?」


「それと確定ではありませんが、エドモンド様の口利きでアカデミーと繋ぎをつけて頂けるそうです」


 あれからエドモンドは完全にアイリーン派として動いている。

 瑠衣が言うとおり優秀なのだろう。

 すでに皇帝からアイリーンとアッシュに主を移している。

 アイリーンからしても帝都でのコネクションを持つ貴重な味方である

 そのエドモンドが持ってくる案件だからこそ信頼ができるのである。


「研究対象か」


 アイリーンはなるべく不機嫌に聞こえないように静かに言った。


「ええ、大量生産に成功すればノーマンのマスケット銃にも対抗できますからね」


「なるほどな……でも我らには今は関係ないな。とにかく金に換えてしまえ」


 身も蓋もない。

 だがその場の誰もがこれ以上の武具を欲していなかった。

 なぜならもうすでに欲しい武具は皆で分けてしまっていたのだ。

 それらに比べれば残ったものは並グレードのものなのである。


「あまり派手にやると帝国に差し押さえられてしまうかも知れませんので一箱ずつ売却することにします」


「頼んだ」


 少なくともこれで当座の資金は困ることはなくなった。

 アイリーンは安心した。


「まったく、アッシュ殿がいなければ今ごろ生きるか死ぬかの話になっていたぞ」


 なにせ帝国は代官に任命しておきながら支度金も支給しないのだ。

 代官は任された地域から上がった利益の一割を報酬として懐に入れることができる。

 だがそれまでは無収入なのだ。

 支度金がなければ干上がってしまうのだ。

 アッシュのケーキ屋はまさに生命線だったのだ。


「それでアッシュ殿は……?」


「ああ、レベッカと大きな子ども二人とミミズで遊んでるぞ」


「まあこういうのは役に立ちませんからね」


「まあ誰にも得手不得手はあるからな。私が支えてやればいい」


 そう言うとアイリーンは顔を赤らめる。


「あらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあら♪」


「からかうなー!」


 アイリーンがぽかぽかと拳を回しながらベルを追いかける。


「へへーん!」


 ベルはそれをのらりくらりとよける。

 それはまさに皆が望んだ平穏な日常だった。



 一方、ダメンズ+レベッカはミミズいじりに精を出していた。

 どうしてもゴミになる野菜クズを小さくカットしミミズがいる土と混ぜる。

 これが倍近いフンになるのだから不思議である。


「この土を畑にまくんだ」


 アッシュがフンをショベルですくうとねこ車に乗せる。

 大量のミミズも一緒に入れてしまう。


「なるほどねえ。その辺のミミズでここまでなるとはねえ……」


「その辺を掘って出てきたやつだとダメだよ。あれは土をかき回すだけだから。これは落ち葉の下にいる種類のミミズ」


「なんだか難しいんだな」


「俺も鉢植で実験しただけだから上手く行くかはわからないけどね」


 そう言うとアッシュはレベッカを見る。

 レベッカはコンポストの近くでちょこんと屈んでミミズを眺めていた。


「にょろにょろにょろにょろにょろにょろ……」


 レベッカは気持ち悪いと思いながらも、どうしても眺めてしまうというサイクルに入っていた。


「レベッカ、大丈夫か? 気持ち悪ければアイリーンのところに行ってもいいんだぞ」


「にょろにょろにょろにょろにょろにょろ……」


 尻尾をふりふりしてるので機嫌悪くはなさそうである。

 だが目を見開いてじいっと見ている様はアッシュとしても少し心配になる。


「……大丈夫です。だんだん面白くなってきました」


「そ、そうか」


 そんなゆるいやりとりをしている男衆。

 だが外に出た目的は別にあった。

 アッシュは騎士たちに聞く。


「そろそろ到着する時間だな」


「そうですね」


「悪いけどカルロスはレベッカを屋敷に連れて行ってくれるか?」


「ええ、もちろん。アイザックあとは頼んだぞ」


「ああ。まあアッシュさんがいるからこちらも問題ないけど」


「じゃあレベッカ。お兄さんと帰るぞ」


「あーい」


 カルロスはレベッカを抱っこして屋敷へ向かう。

 アッシュはショベルを地面に突き刺すとマチェットを腰にさし、仮面も装着する。

 アイザックも剣と鎧を装着する。


「んじゃ俺たちも行くぞ」


「了解です」


 二人はエルムストリートの入り口へ向かう。

 エルムストリートには村人が槍を持って立っていた。


「よ、ごくろうさん!」


 アイザックが挨拶をすると村人たちはぺこりと頭を下げる。

 アッシュの方ははまだ怯えられているのであえてなにも言わない。

 「そのうち誤解がとけるだろう」とアイリーンは言うがアッシュは無理だろうと思っている。

 アイリーンたちが特殊なのだ。

 アッシュは仮面の能力を発動する。

 それを察したアイザックも気になったようだ。


「アッシュ殿、どうなっているかわかりますか?」


 アッシュの目には遠く、おそらくクリスタルレイクの外に緑色に表示された大勢の人間の姿がある。

 目視で数えても数百人はいるだろう。

 その中から二人ほどがクリスタルレイクに侵入し、エルムストリートに近づいている。

 こちらは赤く表示されている。

 おそらくこれは個体の強さだろう。


「村の外に数百名。そこから二人がこちらに向かっている。手練れだ。敵対心があるかどうかはわからない」


「了解」


 アッシュはそう言うとエルストリートの入り口で腕を組んで仁王立ちする。

 これだけでも相手に強さを見せつけることができ、戦うにはリスクが高い相手と思ってもらえるだろうと考えたのだ。

 二人が近づいてくる。

 アッシュは相手がアッシュたちを視認できる位置にやって来たのを確認すると大声を出した。


「何者だ! ここから先は代官様の所有地である!」


 アッシュはやや誇張した。

 アイリーンは好まないだろうが自分を大きく見せるのが必要なときもある。

 実際、このときはうまくいった。

 二人組の男女はアッシュの攻撃が届かない間合いで足を止めた。


「我らは戦乱で家を失った難民団をまとめているものだ。我が名はガウェイン。元近衛騎士だ!」


 ガウェインの名を聞くとアイザックが声を上げる。


「アッシュ殿。この方は百剣のガウェインです! 近衛騎士の有名人ですよ!」


 アッシュもその名は聞いたことがあった。

 なんでも並外れた剣の使い手であるという話だ。

 それよりも有名なのは剣の腕よりももう一つの噂であった。


「ガウェインは知らないけど。百剣なら知っている。近衛騎士から傭兵になったので有名だ」


 ガウェインは破顔した。

 その笑顔は自虐の欠片もないさわやかなものだった。


「俺も貴公の名は知っている。甲冑潰し、不死身、魔王、砲台担ぎ。いろんな名をつけられてる伝説の傭兵アッシュだな。もっともその名声は現場でのみ鳴り響き、なぜか上までは届かないがな」


 「ふっ」とガウェインが笑い手をぶらんと下におろした。

 アッシュも組んでいた腕を下におろす。

 二人とも脱力していつでも剣を抜けるようにしていた。

 そんなアッシュとガウェインの間の緊張に気がついたアイザックがむりやり話に割り込む。


「あーやめ! やめ! それでガウェイン殿。このたびはなんの御用かな?」


 ガウェインはくすりと笑うと手を胸の前で組んだ。

 アッシュも再び腕を組む。

 ガウェインと一緒に来た女性はこの間も一言も発しなかった。


「ああすまない。今日はこの村に行けば土地や食べ物が手に入ると聞いてやって来た次第だ。代官に取り次ぎを願いたい」


「承知した。アッシュ殿。くれぐれも戦うなよ!」


 これがガウェインとアッシュの出会いだった。

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