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ゼインの最後

 ゼインの肩口にチェーンソーが食い込む。

 人間の姿こそしているがゼインの肉体は悪魔のものである。

 血のかわりに黒い魔力を含んだ煙がふきだし霧散していく。

 チェーンソーが人間であれば心臓の位置まで食い込む。


 その間、ゼインはずっと考えていた。

 なぜやつは魔法を早撃ちできたのだ?

 そうして自分より早かったのだ?

 それはゼインにとってはとても重要だった。

 そして答えを導き出した。

 そうか。

 魔力をためていたのだ。

 やつは早く重い一発を撃つために攻撃を受け続けたのだ。

 そして素早いカウンターを撃ったのだ。

 なんという男だ。

 ゼインは驚愕した。

 肉体強化をしたからといって痛みや恐怖は軽減されない。

 そのリスクを取ってまでも勝利をつかむことを選んだのだ。

 人間の精神力を超えている。

 だがゼインは罠におちいっていた。

 アッシュは魔道士ではないし指輪による魔法以外のすべての攻撃は物理である。

 ゼインはアッシュを魔法使いだと思い込んでいた。

 こんな強力な攻撃が物理攻撃なはずがないと思っていたのだ。

 この思い込みという罠にゼインはおちいっていたのだ。


 極限まで鍛えられた筋肉は魔法と区別がつかない。


 この罠にゼインは勝手に入り込んでしまっていた。

 だがゼインはそれはそれで幸せだった。

 すでにゼインの中ではアッシュは自分と肩を並べるほど(それでいてほんの少しだけゼインより格下)の大魔道士でありライバルという位置にいたのだ。

 だからゼインは禁じ手を使うことにした。

 霧散していく魔力の煙が突如として別の形を作り出す。

 人間の形だったゼインは霧散し大きな怪物が現れる。

 それは基本的な造形は骸骨そのものだった。

 少なくともアッシュの数倍、消滅させられたゾンビを使った巨大なゴーレムと同じ大きさの骸骨であるが、明らかに人間よりも肋骨と背骨の数が多く胴が長い。

 異常に長い手足は何本もあり、どこかその姿は百足(むかで)を連想させた。

 骨だけだというのに強烈な不快感を感じる怪物だった。


「若き大魔道士よ。このゼイン、我を2度もまでも破るという人間を超えるほどの魔力に賞賛を禁じ得ない。貴様へのはなむけとして我が真の姿で引導を渡してやろう」

 客観的視点で見ればアッシュにまったく歯が立たなかったのだが本人は大真面目だった。

 まだ変身を一つ残している。悪魔なら人間が勝つことはできない。

 固定された観念がゼインの世界の全てだったのだ。

 アッシュは何を言ってるんだろうと疑問に思ったがゼインが真剣な様子だったので話を合わせた。

 アッシュは優しくそして壊滅的にツッコミスキルがないのだ。


「かかってこい」


 アッシュはチェーンソーを上段に構えた。

 ゼインはアッシュに言い放つ。


「我は人を超えた身。まさか卑怯とは言わせぬぞ!」


 成層圏から攻撃を加える人外に卑怯もクソもない。

 ゼインは百足の足ほどの数もあるすべての手に剣や斧など様々な武器を出現させる。

 自分の中で勝利を確信したゼインは大声を出した。


「さあ、戦うぞ!」


 ゼインが剣の一つでアッシュに斬りかかる。

 それをきっかけにモーニンスターやハンマーなど様々な武器を持つ手が次々と襲いかかる。


「はははは! どうだ反撃をする余裕は与えぬぞ!」


 アッシュはチェーンソーでゼインの攻撃をいなしていく。


「ふはははは! ただ防御していては我に勝てぬぞ!」


 確かにそうだ。

 素直にアドバイスに従ったアッシュはチェーンソーですべての攻撃を思いっきり打ち付けパリング。

 すべての攻撃をはじき飛ばしてゼインの体勢を崩すと片手をチェーンソーから離す。

 そして拳を思いっきり振りかぶり殴りつけた。

 アッシュの聖属性をまとった拳がゼインの百足のように長い胴体のその中心、胸骨を撃ち抜いた。

 明らかな質量差。

 アッシュの行動は風車に突撃するかのごとき愚かな行動だった。

 ゼインもあえてよけようともしなかった。

 だが結果はゼインの想像を超える。

 大砲を撃ったときのような音が響き、ゼインの巨体が空を飛んだ。

 アッシュに殴られた箇所が粉々に壊れ空中で消滅していく。

 だがそれはゼインのごく一部分だった。

 ゼインは空中でくるりと回転するとアッシュへ剣を向ける。

 アッシュへ炎の弾丸が発射される。


「ふん!」


 アッシュは裏拳で炎を弾く。

 炎は地面にぶつかると爆発した。

 それを見るまでもなくゼインはその表情に乏しいしゃれこうべを嬉しそうに歪めた。


「かかったな!」


 空中でゼインの無数にあるアバラが開いた。

 槍のように尖った肋骨をつきだしたゼインがアッシュへ降りかかる。

 アッシュは腰のマチェットを抜くとそのままゼインへ放り投げる。

 成層圏まで大木を投げることのできるアッシュにより放たれたマチェットがゼインの武器である肋骨、そしてその後ろにある脊柱を粉々にしていく。

 情けなくも二つに千切れたゼインの下半身が地面に落下し、マチェットの衝撃で打ち上げられた上半身はくるくると空中でまわっていた。

 アッシュはチェーンソーを両手で握ると飛び上がった。

 空中で必死に体勢を整えようとするゼインはアッシュが自分に飛びかかってくるのを見ていた。

 ゼインは何本もある手を必死に動かしアッシュを追い払おうとするがすでにゼインにはその力は残されていなかった。

 ゼインは悪魔になってまで追い求めた魔導の終焉を予感した。

 ゼインは自分の思い違いを、アッシュと自己の間に存在する圧倒的な実力差を認めた。

 瑠衣と過去の自分の間にあった実力差どころではない。

 それはもっと恐ろしい、もっと絶望的な差だった。

 ゼインは天才だった。

 そしてゼインの実力なら大気圏突入もいつの日にかなしえることができただろう。

 だがゼインは常識に囚われすぎていた。

 成層圏からの神の槍や筋肉による絶対防御などはゼインには思いつかないアイデアだった。

 ゼインは小さくまとまっていたのだ。

 それこそがゼインに限界を作り出し、その身を敗北に導いた原因だった。

 ゼインは発想、その人としての大きさでアッシュに負けていたのだ。


「そうか……我こそが……おろか……だった……のか」


 チェーンソーを振り上げたアッシュがゼインのしゃれこうべの前へ現れた。

 アッシュはチェーンソーをふり下ろした。

 ゼインは火花を散らせながら頭から真っ二つに切り裂かれていく。

 ゼインは敗北を受け入れた。

 完敗だった。いや、勝負にすらなっていなかった。

 だが最後に一矢報いようとゼインは考えた。

 ゼインは体内のすべての魔力を練る。

 ゼインはさらに残った体を小さく小さく丸く畳んでいく。

 ラグビーボールほどの大きさにゼインはなってしまった。

 そして体内の魔力を起動した。

 ゼインの魔力はゼインの中で分裂と増殖を繰り返し圧力を増していく。

 玉になったゼインは地に落ちると最後の力を振り絞って言った。


「今から我は爆発する。さあそれを止めてみるがいい!」


 ゼインは怒鳴る。

 その声が終わるのと同時にアッシュは着地しゼインへ走った。


「うおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」


 アッシュはチェーンソーを投げ捨てると踵を踏みならし煙を立てながら加速する。

 そしてゼインの前に出ると足に筋肉に力をこめゼインに放つ。

 ゼインはアッシュのキックにより遙か遠くへと飛んでいった。

 それは誰もが考えるがやらないであろう実に単純な手段だった。



 ノーマン領内国境近くの街道。

 それは万を超える兵士の列だった。

 ノーマン軍の増援である。

 アッシュが抜けた事による勝利の連続にノーマン首脳陣はこの機会こそクルーガー帝国との最終決戦のときだと考えたのだ。

 今こそクルーガー帝国を滅ぼすのだ。

 5000を超えるマスケット兵。

 100門もの大砲。

 さらには魔術師も用意している。

 負けることは考えられなかった。

 兵たちは確定された勝利を前に士気を高めていた。

 その全員が兵として誇りを持った顔をしていたほどだ。

 先導をする楽団が小太鼓を叩きその後ろで大太鼓も続く。

 兵士がラッパを吹き、それを合図にマスケット銃を持った兵が歩いて行く。

 終始グダグダのクルーガー軍と比べてその練度は遙かに高かった。

 そんな完全無欠の彼らの上空からなにかが落ちてくる。

 それはラグビーボールくらいの大きさの玉だった。

 兵士はなんだろうと一瞬だけ疑問に思ったが、近くにいた歩兵が玉を拾うと道の端に投げ捨てると行進に戻った。

 だが誰もが気にしないで素通りする中、突如玉が赤くなった。

 玉はしゅうううううという音を立てて三回ほど転げる。

 そして次の瞬間、激しい光と爆発、それに炎が兵士たちを飲み込んだ。

 近くにあった村も森も砦もなにもかもが爆発に飲み込まれていく。

 確かにゼインの最後の魔法の威力は凄まじかった。

 死者重軽傷者行方不明者多数。これを直接の原因とする大量の難民の発生。

 それはノーマン共和国建国以来最大の事故だったという。

ノーマン軍 砦周囲の村崩壊

クルーガー帝国 砦崩壊


怪獣どうしの戦いに巻き込まれた被害者たくさん。

アッシュの存在はほぼ災害です。

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