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神の最期

「おっし、やれ!」


 アッシュの声が響く。


「いくよみんな!」


「あいッ!」


 ドラゴンたちが手を天に掲げる。


「ママ! パパ! みんな出ておいで!」


 パリンッと音がした。

 次の瞬間、宮殿の空に巨大なドラゴンの群れが現れる。

 何体もの巨大なドラゴンが空を飛んでいた。


「ママ!」


 レベッカはひときわ輝く白いドラゴンに言った。

 どこからともなく優しそうな女性の声が響く。


「レベッカ。大きくなりましたね。

できたらこれからずっと一緒にいたい……。

でも……私たちはいますぐ違う世界に渡らねばなりません」


 レベッカは涙をぽろぽろとこぼす。


「……うん」


 それはドラゴンの本能。

 生まれながらの習性なのだ。


「だからレベッカ、あなたがドラゴンライダーとともに世界を救うのです」


「うん!」


 レベッカはすぐにシャキッとする。

 するとレベッカの体に変化が起こる。

 むくむくとアッシュよりも体が大きくなり、体毛は輝く純白へと変化していく。

 貴族たちは、ぼうぜんとそれを見ていた。


「にいたんッ!」


 大きくなったレベッカは走る。翼を広げ、アッシュの下へ飛ぶ。


「レベッカ!」


 アッシュはしっかりと拳を握り振るった。

 アッシュを覆っていた霧が霧散する。

 アッシュはそのままレベッカのもとへ走る。


「にいたん乗って!」


「おう!」


 アッシュはレベッカの背に飛び乗った。


「にいたん! 王様たちを助けます!」


 そう言うとレベッカはカパッと口を開けた。


「どーんッ!」


 そう言うとレベッカの口から光の粒子が漏れる。

 次の瞬間、光が飛び出る。

 爆炎を伴いながら光が一直線にウォーデンのいた場所へ突き進む。

 爆炎と光が霧を、過去の王や首脳たちの顔を飲み込んでいく。


「あ、あ、あ、あ、あ、これで逝ける……」


「ひ、ひ、ひ、ひ、光。暖かい光……」


「……ようやく憎しみが終わる」


 顔たちは小さくなにかをつぶやき消えていく。


「あれは……彼らはドラゴンライダーになれなかったものたち。

人を超える力をうらやみ、悪魔におびえたものたち。

でも私は……そんな人間が好きなのです」


 瑠衣が小さく言った。


「うん。私たちはずっと友だちでいよう。人間と悪魔は共に歩むことができる。人間と悪魔でドラゴンを守ろう」


 アイリーンが瑠衣に言った。

 世界はこれからどうなるかわからない。

 でも世界は徐々に良い方に進んでいくのだ。


「ぐ、もはやこれまで……。

だが、ドラゴンを殺せば……ドラゴンを皆殺しにしてしまえば、世界に残るのは不幸だけになる!」


 ウォーデンは空に飛び、無数にいる大人のドラゴンを目指す。

 ドラゴンに触れば自らも消滅する。

 それはウォーデンにもわかっていた。

 だがそれでもやめなかった。

 ウォーデンは人間を心の底から憎んでいた。

 自分を認めない人間を。

 才能に手が届かない人間という存在を。

 ドラゴンライダーになれなかった自分を。

 心の底から憎悪していた。

 人間を虐げるために悪魔になったのに。

 悪魔の本当の姿は世界の調停者だ。

 悪を間引きし、人間の社会を維持する。

 それが悪魔の役割だ。

 悪魔たちは気づいていないが。

 憎悪も、嫉妬も、夢を絶たれた絶望も。

 恐怖も苦渋も。なにもかも人間なのだ。


 屈辱も。

 殺意も。

 なにもかも。

 

 幸福だけでは人間は進歩しない。

 負の感情や不幸も人間が人間たるに必要なのだ。

 人間を支配し、恐怖と憎悪、屈辱で世界を満たしてやろうと思った。

 だがウォーデンは今、滅びようとしている。

 永らく恐怖で支配していた人類に。

 あと少しでこの世から消し去れたはずのドラゴンに。

 人間をあおって人里から追い出した悪魔に。

 そして抹殺したはずのドラゴンライダーによって。


 それは許せない。


 それだけは許せない。

 だからウォーデンは、最後に悲しませてやろう。

 全てを台無しにしてやろうとした。

 ドラゴンをなるべく多く殺す。

 別の世界になど行かせない。

 せめて希望を、幸せを人間から奪うのだ。

 ドラゴンを殺したら次は人間だ。

 新大陸のエルフのように。

 あの自分の家族を殺した薄汚い連中のように。

 絶滅まで追い込んでやる。

 絶望させなにもする気力もわかないほどに追い込んでやる。


 自分が消滅するまでに、なるべく多く殺してやる。

 人間が憎い。

 人間が憎い。

 絶対に。

 絶対に滅ぼしてやる。

 霧がアイザックたちを包み込む。

 だが誰も、その場にいた誰もが絶望しなかった。

 なぜなら知っていた。

 ここにはアッシュ、それにドラゴンがいるのだ。


「レベッカ! 飛べ!」


「あい!」


 レベッカは飛んだ。

 アッシュの神の槍より速く。

 音を超え、光に迫る勢いで。

 衝撃波を放ちながら、空気の壁を切り裂きレベッカは天を目指す。


 霧になったウォーデンは魔法を使う。

 新大陸でエルフを抹殺するのに使った次元を超える魔法だ。


 ドラゴンを許さない。

 幸せを許さない。

 人間を許さない。

 殺し尽くしてやる。

 不幸にしてやる。

 世界を闇に包んでやる!


 だが後ろからアッシュがレベッカが猛追する。

 光の筋を残しながら、一瞬で。


「がおおおおおおおおおおおッ!」


 レベッカが叫んだ。


「うおおおおおおおおおおおッ!」


 アッシュも叫んでいた。

 背にドラゴンライダーがいる。

 誰よりも大好きなアッシュがいる。

 それがレベッカの力を無限大にした。

 光が霧を消滅させていく。

 無敵の霧は跡形もなく消えていく。

 霧となったウォーデンを消滅させたレベッカたちの背後から衝撃波の音がした。

 そしてウォーデンの最後の一粒は塵となり消えた。


「次は幸せになれよ」


 アッシュの言葉を聞いてウォーデンは消滅する寸前、一瞬だけ停止した。

 霧に浮かぶその顔は、まるで子どものような、無垢な顔に見えた。

 ウォーデンは輪廻(りんね)を信じない。

 その永い永い生でも、本当の神は終ぞ見つからなかった。

 人間が言うような魂の循環も観察できなかった。

 ただあるのは悪魔に変わることだけだ。

 それだって偽物だ。

 人間が悪魔に変わっても、悪魔になりきることはできない。

 あるのは終わらない無限の生という名の地獄だけ。

 知り合いは死に絶え、野望は絶望へと変わり、仲間を増やそうとも野望を持ったポンコツか、ただ面白がっている悪魔しか集まらない。

 誰も、誰も、ウォーデンを理解してはくれない。

 村を焼かれ、ただの一人で生きて、やっと出会えた仲間ともわかりあえなかった。

 ……人生は……なにもかも虚無だった。


 ああ、そうか。


 ウォーデンは理解した。

 幸せが欲しかったのだ。

 ただ、それだけを求めていたのだ。

 ただ幸せのつかみ方がわからなかった。だから差し出された手を振り払ってしまった。


 怖かった。

 人間が。

 怖かった。

 幸せが。

 怖かった。

 ドラゴンが。

 悪魔が。

 他者が。


 最後まで、最後までなにもつかめずに終わる。

 ウォーデンはただそれを受け入れた。

 ウォーデンは消滅していく。

 最後の一つまで粒子が消滅し、消え去る最後の一瞬、ウォーデンはアッシュに感謝した。

 ウォーデンは消滅した。

 王城の空は雲一つない。

 大人のドラゴンたちも消え、ただ月光が照らし、星空が広がった。

 レベッカは地に降りると、どんどん縮んだ。

 小さくなり、小さくなり、元の大きさになった。

 レベッカはアッシュの胸に飛びついた。

 アッシュはすすり泣くレベッカを抱く。

 アイリーンも二人の側にやって来てアッシュと一緒にレベッカを抱きしめた。

 それ見た瑠衣は人知れず涙を流した。

 悪魔たちも疲れて座り込んだ。その前に歌っていた貴族たちが集まる。


「ありがとう。古くて新しい友人よ」


 一人の老人が蜘蛛の前足を手に取った。


「我らは……そなたたちの存在を軽んじていたのだな。すまぬ。このとおりだ」


 蜘蛛は「いいよ」と貴族の手に足をそっと乗せた。

 城は半分壊れたが、城の外では人々の歓喜の声が聞こえて来る。

 歌いながらクローディアが、演奏をしながらオデットがやって来る。

 ボロボロになったアイザックやカルロス、クリスとセシルたちもやって来る。

 ジェインとベルは楽しそうに子ドラゴンと戯れていた。

 音楽が鳴り、人々の歌声が聞こえる。

 ここに人と悪魔は再び縁を結んだのだ。

次回完結です。

挿絵(By みてみん)

https://www.es-novel.jp/newbooks/#doranii05


ドラさび最終巻 7/16発売です!



※ドラさび最終巻、ツイート見たら明日から並ぶ書店もあるらしいので予定を繰り上げて投稿しております。(翻訳:規約違反じゃないよ)

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