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お兄ちゃんが行く

 ドラゴンたちは宮殿の庭をめざして歩く。

 第一王子ジェインから「ドラゴンに手を出したら死刑」と言われているので、兵士たちはドラゴンを守っていた。


「みんなー、お友だちの封印を解きます!」


「あい!」


 ドラゴンがかけごえをかける。

 するとドラゴンたちになにものかが立ち塞がった。

 リック・クロフォード男爵。

 夫がいるセシルに求婚した愚かな男である。


「セシルが招き入れた化け物か。不愉快な」


 ドラゴンたちは人間に悪意を向けられたことはない。

 悪魔だって自分たちの創造主であるドラゴンに危害を加えない。

 だから「このおじちゃん変?」と首をかしげていた。


「ええい! 不愉快だ不愉快だ不愉快だ!」


 リックは剣を抜いた。

 そんなリックに兵士たちが立ち塞がる。


「卿、どうか剣をお収めください!」


 兵士たちからしても、かわいい生き物と汚い貴族のどちらを守ると言われれば、前者に違いない。

 それに第一王子に守れと厳命されているし、あのアッシュを敵に回すのは絶対に避けたかった。


「うるさい、そこをどけ! 貴様ら、私を誰だと思っている!」


 リックは剣を構える。その構えは様になっていた。

 そうリックは中途半端に強かったのだ。

 兵士が手加減して制圧するにはリスクが高く、かと言って集団で囲んで全力でタコ殴りにしたら死んでしまう。あまりにも絶妙な強さだった。

 貴族に怪我をさせてしまっては責任を問われる。死んでしまったら死罪は免れないだろう。

 こんなのに人生をメチャクチャにされるのは誰だっていやなのだ。

 中間管理職のごとき兵士たちの緊張がドラゴンに伝わる。


「兵士さんがんばって!」


 ドラゴンが応援するが兵士たちはすまなそうな顔をするだけしかできなかった。

 そんなドラゴンの悲痛な声にリックは調子にのる。実際はちょっとからかってやろうという程度の思惑だったのだろうが。


「ふはははははは! 泣け! 叫ぶのだ!」


 そのときだった。


「とうッ!」


 金髪の男が猛然と走り、リックを蹴飛ばした。


「お兄ちゃん仮面登場!」


 仮面はなかった。思いっきり素顔だった。

 だが兵士たちはツッコミを入れられなかった。

 その男の仮面は物理的なものではない。権力という名の仮面だった。

 要するにその男はジェインだった。


「罪のないモフモフを虐げるものよ! 天の裁きを受けるがよい!」


 するとジェインは兵士たちの方を向き笑顔になる。

 そしてリックを指差すと力強く言った。


「成・敗!」


 兵士たちはかつてないほどのいい笑顔になった。

 ボキボキと指を鳴らしながら近づく。


「お、おい、お前ら、やめろ! やめてくれ!」


 だが兵士は聞かない。


「お兄ちゃん仮面さま。これから先は子どもの教育によろしくありませんので、どうかその子らを連れて行ってください」


「うむ! 兵士諸君、あとは任せる。さあ、ドラゴンたちよ。私についてくるのだ!」


「はーい♪」


 ジェインはドラゴンたちを連れて行ってしまう。

 すると兵士たちはにやあっと笑う。


「お、おい。冗談だよな? もう抵抗しないぞ。ほら……や、やめろ! やめッ!」


 リックを成敗する音は重すぎて響かなかった。

 こうして宮殿から悪が一つ消えたのである。

 なおドラゴンたちは、常に相当な数の蜘蛛が他人にわからないように護衛している。蜘蛛が悪を見逃すはずがない。つまり悪は地獄からの釈放までの間、本当に消えてしまったのである。影も形もなく。


 パーティーを無断退席したジェインはドラゴンたちについていく。

 ジェインはこのかわいい生き物のおかげで自分を取り戻せたと思った。

 ジェインはもうセシルに王座を譲るつもりだった。いや押しつけるつもりだった。

 皇帝など望まない。ジェインに次男のような野心はない。

 厳格に法を守り融通を利かせなかったのも、統治者としての器量がなかったのを自覚していたからだ。

 ジェインはセシルのように人と泣き、笑い、生活を共にし、弱きものを助けることはできない。ジェイン派の貴族たちもジェインが第一皇子でなければ支持しなかっただろう。

 それに比べてセシルは陰口を叩かれながらも愛されている。セシル派の貴族たちはセシルの友人で占められているほどだ。

 遊びに行った先でアッシュを仲間にしてくるとは、それこそ冗談みたいな話だ。それこそがセシルの力なのだ。

 不利な状況でも支えるものがいる。それが統治者としての器量なのだろう。いくら武術や教養、策謀に長けているからと言っても人間としての魅力には勝てない。ジェインは自分にはそれが欠けていると自覚していた。

 統治者はたとえ自然災害だったとしても非難にさらされる。

 セシルだったら「みんなでがんばろう! 専門家やっておいて」ですまされてしまう。ジェインにはそれはできないだろう。

 同じ状態になっても、厳格なジェインを恐れたものたちによって、専門的なことでも決断を迫られてしまう。

 だからジェインも全てにおいて過去の例を踏襲するつもりだった。

 統治者としての器量がなければ過去の名君が残した法を守り保守するだけしかないのだ。

 余計な事をして被害を出すよりはずっといい。

 それがジェインの出した結論だった。今までは。


 今にして思えば、そもそも継承権争いにおける勝利条件への理解が間違っていた。

 あれは三人で誰が優秀かを競うものではない。圧倒的な能力を有するセシルを配下にすることが勝利条件だったのだ。

 二人の兄はセシルを軽んじていた。だから飲み込まれるのは当たり前なのだ。

 ジェインは脇役に徹するつもりだ。

 どこか静かな土地に引っ越して、ドラゴンたちに囲まれた生活をしたい。

 一生モフってモフりまくる生活をするのだ。


「つきましたー! ぜんたーいとまれー!」


 レベッカがそう合図すると、揃いに揃ってピタッと止まる。

 宮殿の庭にうち捨てられた石造りの小屋があった。ずいぶん古いものだ。

 こういった小屋はたくさん存在する。

 宮殿の敷地は広い。最初は小屋があっただけだとも聞いている。

 それが数百年の間に何度も増築され、場所を移され、今の状態になったのだ。

 数百年前は敷地内で狩りをしていたとも聞いている。おそらく狩りのときに使われていた小屋だろう。

 そういう誰もが忘れた施設がまだ残っているのだ。

 その中に一つに違いないとジェインは思った。


「ここに誰が捕まっているのかな?」


 ジェインが聞くとすぐ近くにいたドラゴンがにぱっと笑った。


「あのね、あのね。みんなのパパとママがいるの!」


「大人のドラゴン?」


「うん! あのね、あのね、大人になったら私たち『渡り』になるの!」


「渡り?」


「うん。ドラゴンは世界を渡るの!」


 ジェインには全く意味がわからなかった。

 だが、ジェインはピコピコとしっぽをふるドラゴンたちを見てると追及しようという気も起きず、成り行きにまかせようと思った。

更新が遅れてすみません。

今までなかったレベルのスランプとかで書けませんでした。

ドラさび最終巻⑤決定しました。2019年発売予定です。

また新作もポツポツ書いております。

がんばるー!

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