筋肉は突き進むよどこまでも。
感想欄への返信できなくてすみません。
続きを書くので精一杯なのです……
アイリーンたちは日の出とともに出発した。
それを見送ってからアッシュは収穫の終わった中庭でアイリーンたちが持っていった残りの武器を漁る。
ちなみに『廃棄』と書かれた箱をアッシュは漁っている。
悪魔に没収された貴族の黒歴史箱である。
首には落ち込んで尻尾を丸めたレベッカがしがみついている。
アッシュは箱を漁る。
指輪がいくつもある。
アッシュは指輪の一つを指にはめる。
そして指に精神を集中させ魔力をこめる。
指輪が魔力を吸っていくのがわかる。
充分な魔力を吸った指輪がアッシュにだけわかるように淡く光る。
アッシュは指輪をはめた指を軽くはじく。
炎の力が感じられた瞬間、収穫の終わった畑の土が爆発する。
爆発で土の柱が立つ。
「なるほど。爆発か」
アッシュは指輪を指にはめる。
アッシュ自身は魔法を習ったことがない。
だがなんとなく拳に聖属性をまとう程度……規格外と言えるほどの魔法への素養がある。
さらに異常に小器用なためマジックアイテムを一通り使いこなせるのだ。
アイリーンには聞かれなかったので黙っていたのだ。
次にアッシュは別の指輪を取り出す。髑髏のマークの指輪だ。
「暗殺用か。いらない」
道具箱に戻す。
実はアッシュはある程度の鑑定もできる。
金額はわからないがそれが良いものか邪悪なものかはわかるのだ。
こうして指輪を分別していく。
指輪はそれほど多くなくていい。
なにかのための保険だ。
結局アッシュは爆発と風の指輪を持っていくことに決めた。
指輪を選び終わるとアッシュはレベッカに声をかけた。
「大丈夫。お姉ちゃんは助けに行く」
アッシュは真面目な顔をして言った。
「にいたん!」
レベッカはぱあっと笑顔になって尻尾をふる。
「レベッカが手伝ってくれたからお姉ちゃんがどこにいるかわかった。偉いぞ」
実はレベッカはアッシュに言われてアイリーンの荷物へマジックアイテムを忍ばせていた。
物の居場所を知らせる札である。盗難防止用なのだろうが使われず100年以上経過してしまって持ち主がこの世を去ってしまった物だ。
「あい!」
レベッカはいい返事をした。
「お姉ちゃんを迎えに行くけどいい子のレベッカはお留守番できるかな?」
アッシュはできれば小さな子は戦場に連れて行きたくなかった。
アッシュは案外常識人なのだ。
「……あい」
レベッカはしょぼーんとうなだれる。
「メグお姉ちゃんに遊んでもらってね」
残念ながら瑠衣もいないため幽霊メイドのメグが子守役だ。
だがそれでもレベッカは喜んだ。
「あい!」
一緒にいる人がいたせいかレベッカの顔がぱあっと明るくなった。
尻尾もぴるぴるとふっている。
「さあて次行くぞ」
「あい!」
レベッカもシャキッとする。
アッシュは今度は武器を漁る。
主なものは剣だった。
アッシュはため息をつく。
前線に出たことのないものほど剣を使いたがる。
間合いの広い槍や大斧の方が怪我をしないですむ可能性は高い。
アッシュは中にある刀身の黒いマチェットを取り出して腰につける。
実用的な品と判断したのだ。
そして残った剣を抜いていく。
そしてため息をつきながら剣を箱に戻していく。
あとに残った剣はやはり使い物にならないものばかりだ。
もちろん全ては名工の作である。
切れ味は鋭く魔力も高い。
だが戦場で使うには耐久力に難があるくせに豪華で無駄な飾りだらけで使い物にならない品ばかりだったのだ。
これだったら聖属性の拳で殴った方がマシだ。
そして箱の底にあるものを見つけた。
それは刃の部分に鎖がついた異様な大剣だった。
鎖には小さな刃がついている。
アッシュは魔力をこめた。
甲高い音がし、激しい勢いで本体にそって張られた刃のついた鎖が回転する。
「わああ。なんか凄いですね」
「これはたぶん木材加工用か……」
実は木のモンスターを倒すために作られた品なのだがそれをアッシュは知らない。
いわゆるチェーンソーである。
それは大型モンスターを倒すために開発された品だった。
そのためチェーンソーというには異常なほど大きく、無駄な駆動部分があるためバカげた重さになっていた。
人間が使うには重すぎてアイデア倒れの品だった。
だがアッシュが使うにはちょうどよかった。
「面白い」
アッシュはチェーンソーの動作を止めると床に置いた。
さらにアッシュは何か使えるものはないかと箱を調べる。
そこでアッシュはあるものを発見する。
それは仮面だった。デザイン的にはホッケーマスクに近い。
顔につけてみると目にアイリーンのいる方向に赤い三角が見えるようになった。
三角の下には数字が書かれている。どうやら距離を表しているようだ。
荷物に忍ばせた札の位置が見えているようだ。
どうやら使っている補助魔法を知覚する道具のようだ。
「これは便利だな」
アッシュは仮面をちゃんと装着する。
鏡を見たらあまりな外見に卒倒していたかもしれない。
だがレベッカは喜んでいる。
「にいたんかっこいいです♪」
ドラゴンの美的感覚が悪魔と同じように怖いか否かである可能性は高いがアッシュはそれに気づかず照れていた。
アッシュはレベッカを下ろすと背中にチェンソーを着用し、腰にマチェットをさした。
ホッケーマスクの穴から殺気溢れた目が見え、巨大なチェーンソーは一目見ただけで死を覚悟させる。
出会ったら即死亡。それが今のアッシュであった。
すでに取り返しのつかない姿になっているがアッシュはそれに気づいてなかった。
「レベッカ。作戦を言うぞ」
「あい!」
レベッカはシャキッとする。
「アイリーンを追い抜いて現地到達。動くものを全員ぶちのめして終了だ」
どこまでも単純である。
レベッカはアッシュへ元気に答える。
「あい!」
「その間、レベッカは?」
「メグお姉ちゃんとお留守番!」
「よくできました」
それは一見すると子どもとのほのぼのとした約束だった。
だが会話の内容は普通なら狂人の発想である。
だがアッシュになら充分に可能な計画である。
なぜならアッシュは今まで人間相手に本気になったことがないのだ。
アッシュはニヤリと笑った。
すると敷地に生えていた大きな木のもとへ歩いて行く。
そして背中のチェーンソーを抜くと魔力をこめる高い音を立て刃が高速回転する。
アッシュが横なぎの状態でチェーンソーを木に当てる。
木クズが飛び散り木が削れていく。
半分を過ぎると木が倒れないように片手で木を支える。
大木を片手で。
すでに人類とは違う生き物だがレベッカは不思議に思わなかった。
そこにはツッコミ不在の空間ができあがっていた。
最後まで切断するとアッシュは一言。
「行ってきます」
「あい!」
「角度よし。風速よし……」
独り言を言うとアッシュは片手でやり投げのように大木を構える。
「ふんッ!」
アッシュの全身の筋肉が力を溜めその力を爆発させる。
膝の筋肉が震えアッシュが一気に走り出す。
ゆうに全長十メートルを超える大木が一瞬しなったと思うと、アッシュの背筋、肩、腕と力を解放し大木が手から放たれる。
まるで弓のようにロケットのようにミサイルのように轟音を放ちながら大木が放たれる。
大木を放り投げただけでも充分異常なことだが、アッシュの暴虐はそれだけではなかった。
大木を放り投げるとアッシュはそのままこの世界に存在しないサイボークのように走り出す。
アッシュの全身の筋肉という筋肉が震え足の加速へ力を貸していく。
爆撃のようなステップで蹴られた土や砂が粉塵になって舞いあがる。
アッシュの顔が真っ赤になる。
その暴力的脚力の限界スピードに達したのだ。
そしてアッシュは吠える。
「だりゃあああああああッ!!!」
声とともにアッシュは跳躍した。
異常なまでに加速したスピードによってアッシュは砲弾のように上空へと飛ぶ。
アッシュ自身が先ほど投げた大木が見える。
そしてアッシュは大木へ着地する。
アッシュは大砲のように打ち付ける空気にかまいもせず大木で仁王立ちした。
轟音を上げながら天を目指して大木は突き進んでいく。
大木はあっというまにレベッカから見えなくなった。
次回宇宙近く。