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悪魔の誕生

 セシルの妊娠にアッシュの和平交渉参加。

 クリスタルレイクが重大な局面を迎えているのは第三者からも明らかだった。

 だがクリスタルレイクでは別のある事件が話題になっていたのだ。


「んしょ。んしょ」


 クリスタルレイクの森の中で大きなドラゴンがショベルで穴を掘っていた。

 それを小さなドラゴンたちが応援している。


「コリンくんがんばれー!」


「うん! がんばる」


 アッシュとアイリーン、それに瑠衣はそれを不思議そうに見守っていた。

 ドラゴンがやることなので、人の害になることはないだろう。

 だが気になる。

 特にコリンの実質的な保護者であるセシルは心配だろう。

 気になったアッシュはすぐ側にいた瑠衣に聞いてみた。


「瑠衣さん。コリンくんはなにをやっているんですか?」


「巣作り……かと? いえ……よくわかりません」


 瑠衣も自信がなさそうだった。

 それならレベッカに聞いてみればいい。


「レベッカ。コリンくんはなにをやってるの?」


 レベッカはニコニコしながら尻尾をふりふりした。


「あのね、コリンお兄ちゃんは巣作りしているの。悪魔さんも生まれるの!」


「生まれるって……」


 アッシュはコリンを見た。

 やめさせるかどうか一瞬迷った。

 だがアイリーンがアッシュの肩をつかんだ。


「アッシュ。心配するな。見守ろう」


 アイリーンはなにも考えていない。

 だがドラゴンを信じていた。

 コリンのショベルが土をかき分ける。

 巻き上げられた土が地面に落ちた。

 するとその土が蠢いた。

 しばらくすると土の中から小さな生き物が這い出てきた。

 それは人間によく似た生き物だった。

 ただ人間と違うのは、その生き物は非常に小さく、背中から虫のような羽が生えていた。

 生き物はレベッカの所によろよろと歩いてきた。


「はじめまして。新しいお友だち」


 レベッカがそう言うと、瑠衣があわててレベッカと生き物の間に割って入った。


「レベッカ様。これは……新しい……悪魔ですか?」


「お友だちだよ」


 瑠衣の様子を見たアッシュもアイリーンもレベッカの所に走った。

 アッシュはレベッカの頭をなでながら聞いた。


「『新しいお友だち』って?」


「あのね、あのね。コリンくんはクリスタルレイクにお家を作るの。それでね、手伝ってくれるお友だちを呼んだの」


「呼んだって、どこから?」


「見えないけどいるの。瑠衣お姉ちゃんも、クローディアちゃんも、巣作りの時に呼んだの!」


 よくわからなかったアッシュは瑠衣を見る。

 瑠衣も珍しくあわてた様子で首を横に振る。

 なにも知らないらしい。


「アッシュ……悪魔っていったいなんなのだ……」


 アイリーンがアッシュの手を握った。

 アッシュもなにを答えていいかわからなかった。

 コリンがショベルを振るたびに生き物が増えていく。


「前に瑠衣さんは自分のことを『ようせい』って言ってましたよね?」


「い、いえ、あれは冗談だったのですが……ちょっと花子を呼んできますね」


 そう言うと瑠衣は空間の亀裂を作り出す。

 中から蜘蛛の悪魔が出てくると、瑠衣はクローディアを呼んでくるように頼んだ。

 数分ほど経ったころ、クローディアが伽奈を連れてやって来た。


「新しい悪魔(いもうと)が生まれたって!?」


 クローディアは珍しくしらふだった。


「ええ、花子ならなにか知っているかと思いまして。私より古い悪魔ですから」


 瑠衣の言葉にクローディア(はなこ)の笑顔が凍り付く。


「私たち同じくらいの年じゃないのかなあ? ねえ、伽奈?」


 伽奈は露骨に目をそらした。

 不毛な論争にはかかわりたくないらしい。

 伽奈の態度を見たクローディアは、あきらめてため息をついた。


「まあいいわ。新しい悪魔ね……まかせて」


 クローディアは、ぽんっと音を立ててたぬきに戻る。

 そのままコリンの作った新しい悪魔を手に乗せる。


「はい、アンタが一番最初に生まれた子ね。今から悪魔の最低限の知識を送るわ」


 クローディアは人間には最後まで聞き取れない言葉をささやいた。

 新しい悪魔が緋色の光に包まれる。


「古代語です。文字もなく長らく使われていないため、花子くらいしか理解することはできないでしょう」


「おばちゃんはどのくらい生きてるの?」


 瑠衣はアッシュに答えず、ただほほ笑んだ。

 緋色の光が消える。

 新しい悪魔はもう先ほどの弱々しい姿ではなかった。

 羽をピンと立て、その目には知性が宿っていた。


「我らは盟約により人間とドラゴンを守護するもの」


「そう。私たちは人間と共に生きるの」


 我が子に向けるような表情でクローディアは言った。


「ものどもよ。コリン様を手伝うぞ」


「応!」


 一人が知性を持つと、他の生まれたばかりの悪魔の目にも知性が宿った。

 コリンは手を止めて穴から這い出た。


「コリン様! お手伝いします」


 悪魔たちは魔法で作ったショベルを持ってコリンの作った穴に入っていく。

 コリンは悪魔たちを見ながら、ちょこんと座った。

 アッシュもコリンの横に座る。


「アッシュさん……ボクね、生まれた村で一生過ごすと思ってたんだ。でもね、ボク、この村、クリスタルレイクが大好きなんだ」


 レベッカはコリンの膝に飛び移る。


「あのね、あのね。コリンお兄ちゃん。私もこの村大好き! コリンお兄ちゃんも大好き!」


 そう言ってレベッカはコリンに抱きついた。

 アッシュは静かにそれを見ていた。

 アイリーンもアッシュの横に座る。


「アイリーン……俺やるよ。戦争を終わらせるよ。本音を言うとこの国は嫌いだ。でも村の人たちも新大陸の人たちも好きなんだ。レベッカもドラゴンも悪魔も好きなんだ。コリンくんに負けてられないよ」


「そっか。わ、私は?」


 アイリーンは顔を真っ赤にした。

 まだ女性らしいことは苦手である。

 そんなアイリーンにアッシュは当然のように答えた。


「好きだ。ずっと一緒にいて欲しい」


「そっか。じゃあ私もがんばろうっと」


 アイリーンは上機嫌に「ふふふ」っと笑った。


「アッシュ、皆殺しにするなよ」


「しないよー!」


「わかってる。アッシュは優しいからな」


「そうだよー! にいたんは優しいのー!」


 レベッカが元気に同意し、コリンがレベッカをなでた。

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