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ドラゴンは寂しいと死んじゃいます ~レベッカたんのにいたんは人類最強の傭兵~  作者: 藤原ゴンザレス
第五章 ドラゴンと新大陸

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どらごんさんとねんこさん

 このところアッシュは寝不足だった。

 具合が悪いとか、心労が重なっているわけではない。

 問題はもっと単純だった。


「熱い……」


 増えたドラゴンがアッシュに寄り添って寝ていることだった。

 ドラゴンたちはまるでミツバチのようにアッシュに群がる。

 モコモコの玉の中心にいるアッシュはどうしても寝苦しいのである。

 ある朝の食堂。

 アッシュはショボショボとした目で、こくりこくりと船をこいでいた。

 それを見たアイリーンもいいかげんに心配になっていた。


「レベッカ。アッシュが眠れないようだ」


「あい!」


 レベッカはしゃきーんとした。

 よくわかっていないようだ。

 しったんしったんと跳ねてからレベッカは言った。


「歌ってあげます!」


 鼻息が荒い。

 レベッカ的にはナイスなアイデアだったらしい。

 アイリーンはレベッカの頭をなでなでした。


「そうだね。でもアッシュは暑くて眠れないんだ。なにかいい方法はないかな?」


 アイリーンはあくまで優しくうながした。

 レベッカは首をかしげながら考えた。

 しっぽがゆっくりと左右に揺れる。

 アイリーンはレベッカの背中をなでた。

 レベッカは一生懸命考えていた。


「うーん……そうだ!」


 するとレベッカが飛び上がった。


「にいたんのお部屋を広くするの!」


 ん?

 アイリーンは首をかしげた。


「今なんて?」


「あい! にいたんのお部屋とおふとんを広くします!」


 レベッカはぴょこぴょことはねた。


「んー?」


 話が斜め上に飛んだ。

 アイリーンは冷や汗を流した。


「あのね、みんなを呼んで来ます! みんなー、おふとん広くするよー!」


「あ、レベッカ待って……」


 アイリーンが立ち上がった。

 だがその時にはレベッカはもう食堂を出てしまった。


「ねんこ?」


「ここちいいねむりをあなたに?」


「どうするの?」


 とドラゴンたちの声が聞こえる。

 アイリーンはあわてて食堂を出る。

 廊下をドラゴンたちが走っていた。


「ちょ、廊下を走るな!」


「ごめんなさーい!」


「あーん、待ってー」


「あれぇー。みんななにやってるのー?」


 最後の間延びした声はコリンのものだった。

 それにドラゴンたちが答える。


「ねんこよー!」


 アイリーンがアッシュの部屋の前に着くと、すでにコリンの姿もなかった。

 ドラゴンは本気らしい。

 アイリーンはアッシュの部屋のドアを開ける。

 恋人とは言え、男性の部屋に入るのは少し恥ずかしい。

 だがそうは言ってられない。


「……なにがあった」


 そこは広大な世界が広がっていた。

 アッシュの部屋のはずだ。

 なのに上空には星が輝やき、床は人工物にもかかわらず地平線が見える。

 姿は見えないが、あちこちからドラゴンが喜んで遊んでいる声が聞こえる。


「な……いったい……」


 ガタゴトと家具が動く音がした。


「はーい整列。いっち、にい、いっち、にい」


 レベッカが歩いてくる。

 その後ろを器用に家具が歩いて(・・・)いた。


「アイリーンお姉ちゃん。もうちょっと待っててねー♪」


 アイリーンへレベッカが手を振った。

 そのままいずこかへ歩いて行く。

 アイリーンは後ろを振り返る。

 広大な空間にドアだけが立っていた。

 ドアを開けると元の世界があった。

 アイリーンは館に戻ると怒濤の勢いで外に出る。

 外からアッシュの部屋を確認した。

 変わっていない。

「うん」とアイリーンはうなずいた。

 そのまま食堂へ戻る。

 アッシュは起きていた。

 ぼうっとしながら、お茶を飲んでゆっくりしている。

 もともとアッシュは眠る時間が極端に短かかった。

 寝不足なんて安心して眠れるようになってからである。

 そこに走ってきたアイリーンがアッシュの肩を揺さぶる。


「レベッカがなにかしてる!」


「え、どうしたの?」


「いいから来い!」


 アイリーンはアッシュの手を握って引っ張った。


「う、うん。レベッカ、また危ないことをしてるのかな……」


 アイリーンは今度はアッシュを連れてアッシュの部屋に入る。

 ドアを開けると、そこには青空が広がっていた。


「へー、いい天気だね」


 アッシュの間延びした声にアイリーンはずっこける。


「アッシュ!」


「わかってる。おーいレベッカー、みんなー、出ておいでー」


 アッシュのよく通る低音の声が響くと「ドドドドドド」という音が聞こえてくる。

 レベッカだけではない。たくさんの足音だ。


「にいたーん!」


「アッシュー!」


「にいちゃーん!」


 たくさんのドラゴンが走ってくる。

 アイリーンは「これを見たらベルはショック死してたな」と冷静に思った。

 レベッカはアッシュに飛びかかる。


「はーい。いい子いい子」


 アッシュはレベッカをわしわしとなで回す。


「えへへへへへー♪」


 後から来たドラゴンたちもアッシュに飛びかかる。

 もちろんアイリーンも無事ではすまなかった。

 ドラゴンたちはアイリーンにもロックオン。

 尻尾を振りながら飛びかかった。


「ちょっと、コラ。もー!」


 そう言いながらも、アイリーンはなれた手つきでドラゴンたちをなで回した。

 アッシュはドラゴンまみれになりながら言った。


「なにをしてたのかなー?」


「りにゅーある!」


 ドラゴンたちが元気よく言った。

 レベッカは興奮しながら言った。


「あのね、あのね! みんなで寝られるベッドを置くのー!」


 すると部屋の奥、地平線の先から何かがやってくる。

 それはベッドだった。

 ずしーん、ずしーんと音を立てながら、ベッドがゆっくりやって来る。

 アイリーンは目をこすった。

 縮尺がおかしい。

 サイズが狂っている。

 ベッドはそのままアッシュのところまでくると、ぺこりとお辞儀した。

 そのままベッドはそっと床に立って、そこで固まった。

 固まった後のベッドは高さはそれほどではなく、ちょうどよかった。


「いま……凄いものを見てしまったな……アッシュ」


「ああ……」


 二人はそう言うと同時にクスクスと笑いはじめた。


「広~い、ねんこさんなのです♪」


 レベッカたちは、しったんしったんとはねる。


「ねんこー!」


 レベッカたちドラゴンはベッドにドーンと飛び込むと、そのままゴロゴロと転がった。

 アッシュは微笑むとドラゴンたちに添い寝する。

 アイリーンも一緒に寝そべる。

 次の瞬間にはアッシュは寝息を立てていた。


「ふふふ、しょうがないやつだな」


 アイリーンは微笑むと目を閉じた。

 そのままアイリーンも寝息を立てた。


 ちなみに数日後、アッシュの寝不足が軽い過労である事が判明し大騒ぎになるのだが、それはまた別の話である。

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