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オデット大反省会

『わたしはあぶないことをしました』


 クリスタルレイクの仲間たちが見守る中、木札を首からかけたオデットが正座をしていた。

 魔術のかかった宝石の件で反省しているのだ。

 本当に危なかった。

 もし暴発したら来賓客が危険だったのだ。

 アイザックはオデットの顔をのぞき込む。


「反省してるか?」


「は、反省してますよ!」


 オデットは反省しているらしい。

 だがオデットはアホの子である。

 たとえ反省していたとしても同じ事を繰り返すタイプなのだ。

 この程度では効果はないのだ。

 あれからアイザックは正式にガードナー男爵になった。

 ガードナー領は首都に近く、インフラや治安にも特に問題がない。

 帝都への食料を作っているため、税は免除。

 通行料も取っていないような土地である。

 適当に放置しても勝手に回る土地なのだ。

 実際、アイザックもクリスタルレイクで今まで通りの生活を送ろうと思っていた。

 だが結婚式で全ては変わってしまった。

 結婚式で打ち上げた花火が原因だった。

 あの花火のせいで帝都の誰もが知らなかったガードナー領が、日帰り観光スポットとして注目されてしまったのだ。

 だがガードナー領は中途半端な街が一つあるだけだ。

 観光をするようなものはなにもない。

 その会議のついでにオデットへのお仕置きがされていたのだ。

 まずはセシルが言った。


「えーっと、とりあえず新大陸の商人が屋台を出してくれることになった」


「いつものフルーツですか?」


 アイザックがいつになく積極的に言った。

 なにせ自分の領地である。

 真剣味が違う。


「ああ、とりあえず果実とドライフルーツ、それに料理だな」


「それだけだと厳しくありませんか?」


 なにせ料理は帝都の庶民街に行けばいくらでも手に入るようなものだ。

 果実も珍しいだけで、それだけで観光地になるのは難しい。


「正直厳しい。とりあえず夜間の花火は継続。あとは……」


 セシルはアイリーンを見た。

 アイリーンはアッシュと何やら話している。

 ちなみにレベッカたちはアッシュにひっついている。

 すでにアッシュはドラゴンまみれになって、ぬいぐるみのようになっていた。


「どうしたアイリーン? なにか考えがあるのか?」


「うーん……セシル。怒らないでね」


「怒らんよ。アイリーンは妹も同じだ……って、なんだ……様子が変じゃないか。アッシュもなんだその顔は」


 二人ともセシルに遠慮して変な顔をしていた。


「あのね。アッシュの果樹園なんだけど、脇芽を取って増やしたんだ。これが冗談みたいな速さで大きくなるんだ」


 悪魔が関わった果樹園である。

 あまり関わらないようにしていたが、この場合はしかたがない。


「なん……だと……」


 ほぼバイオハザードである。


「セシル、アイザック。植物園をやろう」


 アイリーンは言った。

 植物園と言うよりは観光農園である。

 とりあえずごまかすには最適であった。

 アッシュは羊皮紙を鞄から取り出す。


「レシピだ。料理人を見つけてレストランをやるといい」


 レシピを受け取ったセシルはカルロスを見る。

 いや、みんながカルロスを見た。


「いや、やらねえから! これ以上仕事増やしたら俺死んじゃうから!」


 カルロスが必死に反論するとセシルは言った。


「というのは冗談で、寡婦(未亡人)に仕事をまわそう」


 そう言うとセシルはアッシュからドラゴンを引き剥がすと抱っこした。


「やーん♪」


 アイリーンもアッシュからレベッカを引き剥がして抱っこする。


「あーん♪」


 二人ともわしわしとお腹をなでる。


「「いやーん♪」」


「いいなあ……」


 正座をしているオデットがつぶやいた。

 すると遊んでくれる空気を感じたドラゴンたちが目を輝かせる。


「「とつげーき!」」


 アッシュからドラゴンたちが飛び降りた。

 そのままオデットに飛びかかる。


「ぬははは、ういやつういやつ」


 オデットも反省はどこへやら、ドラゴンをなで回す。


「「いいではないかーいいではないかー♪」」


 ドラゴンたちは大喜びでオデットにしがみついた。

 セシルはドラゴンのお腹をなで回しながら言った。


「はい次。新大陸の探索。無茶して損傷した船が直りました。ダーリンお願いします」


「はいダーリンです。新大陸の調査の再開について」


 もうヤケである。

 カルロスはそのまま続けた。


「前と同じように海岸線を三交代制でダラダラ行こうと思います」


 身も蓋もない。


「ただし今回は内陸部の調査も必要なため、探検隊の編成が必要です。地図職人が足りません」


「わかった。ブラックコングに頼んでおく。ダーリン」


 会議などこんなものである。

 要するに一番重要なのはオデットの反省なのだ。


「はい最後。オデットの罰について」


 セシルは雑に言った。

 ドラゴンと遊んでいたオデットがビクッとする。


「こちらはベルに報告してもらう」


 ベルが一礼する。

 そして数秒ためた後……心の叫びをシャウトした。


「私はドラゴンちゃんたちのママです!」


 ただしその心の叫びには多分に妄想が含まれている。


「「べるままーがんばってー♪」」


 ドラゴンたちが手を振った。


「そう私はドラゴン係です!」


「私の副官のはずだが」


 アイリーンが言うがベルは華麗にスルーする。


「この間の結婚式でドラゴンちゃんは倍に増えました! 私は今この時間からただの女の子に戻ってドラゴンちゃんたちの育児に専念……」


「「人を増やそう」」


 セシルとアイリーンが同時に言った。

 アイリーンはセシルにどうぞと手を差し出す。


「そこでオデットだ。オデットにドラゴンちゃんたちの保育の指揮を当面任せることにする」


 アイザックが渋い顔をした。

 不安である。

 アッシュも渋い顔をしている。

 とてつもなく不安である。


「これはアホの子……少々責任感が足りないオデットに責任感を持ってもらうために行う。教育係として……オデットをベルに預けようと思う。オデット、ベル、ブラックコングと相談して人員を揃えろ」


 要するにベルに丸投げである。


「ちょっと、子どもって! 私は無責任に猫かわいがりするのが得意なのであって、責任のある仕事ができるはずがありません!」


 最低である。

 だがアイリーンは言った。


「これは叔母上、クローディア・リーガンが師匠権限で命じた正式なものだ」


「な! あんのババア!」


 オデットは叫んだ。

 そんなオデットにベルは微笑んだ。

 ぽきりぽきりと指を鳴らしながら。


「やるからには中途半端は許しません。オデットさん天国にようこそ♪」


「「てんごくよー♪」」


 ベルは笑いながらプレッシャーをかけ、ドラゴンたちはひたすら喜んだ。

 なにせ子どもたちに一番精神年齢が近いのがオデットなのだ。

 こうして新人保育士オデットが誕生したのである。

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