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クリスタルレイク説明会 表編

 結局、合格者はアイザックの叔父のレミー、その息子のカイリーと友人一名。

 それにクラーク家に君臨していたエイデンの四人だけだった。

 アイザックはクラーク家の四人を連れてクリスタルレイクにおもむく。

 四人は人間の技術を超えた魔術による転移に驚いていた。

 だが逆に魔術のテクノロジーに対する知識のなさから、『最近の魔術は進んでいるな』と安易な納得をした。

 テクノロジーの恩恵を受けているからと言って、仕組みを理解しているとは限らないのだ。

 いや、テクノロジーを理解しているものなど、どこでも少数派なのだ。

 アイザックは桃龍騎士団の旗を持ってガイドをする。

 脱走防止のため足の速いカルロスも一緒についてきた。


「はいはい。クリスタルレイクですよ。クリスタルレイクは基本的にどこよりも安全ですが、過去数回悪魔の侵入を許してます。俺も死にかけましたので注意してください」


 アイザックは雑な説明をした。


「はっはっは! なあに我々が守ってやりますとも!」


 レミーたちは豪快に笑った。

 実力こそ伴わないが心は錦。

 エイデンはため息をつく。

 アイザックもため息をついた。

 やはり似たものどうしである。


「えーっと……というわけで、これからクリスタルレイクの重要人物に会いに行きます」


 エイデンの眉がぴくりと動いた。


「ライミ司令官閣下か?」


「アッシュさんにも会いに行きますが、重要人物はかなり多いので覚悟してください」


 そう言うとアイザックは自分の酒場へ向かう。

 酒場の中にはバーテンダーをやっているゲイツと、朝から酔っ払っているセシル派の有力貴族たちがいた。

 2階では海賊たちとサイコロ遊びをしているものもいた。


「警護対象のVIPの皆様です」


 すると年配の貴族が声をかける。


「おー、アイザック。こっちに来なさい。一緒に飲もうぞ♪」


「飲み過ぎですよ閣下。たしか明日はお流れになったノーマンとの和平調停の対策会議でしょう」


 さらっとアイザックは国家機密を口にする。

 もうアイザックは彼らの仲間なのだ。

 だがその関係性の深さを知らないエイデンのこめかみに血管が浮かんだ。


「ムダムダ。向こうさんもこちらも和平はしたいが、世論をまとめられるものがおらん。こちらもパトリックが殺されてしまった件で国内の意思統一もできんよ」


 パトリックは新大陸で元気に関税業務をやっているが、それは秘密になっている。


「またまた、今、酔い覚ましのドリンク作ります。しばしご猶予を」


「悪いな」


 アイザックは厨房に入るとお湯を沸かし、レモンとはちみつ、それにショウガとクコの実を入れる。

 温め終わるとそれを木のカップに移し持っていく。


「はい閣下」


「ああ、ありがとう。幸せな一日が終わり憂鬱な明日がやって来る」


「憂鬱な一日が終わったらまたいらしてください」


「そうするとしよう」


 会話が終わるとエイデンが厨房にアイザックを引っ張り込んだ。

 言いたいことが山ほどあるらしい。


「アイザック貴様! 飲み屋の真似事にあまつさえ貴人にあのような口を!」


「大叔父殿。ここはアッシュ侯爵の店です。俺は失業中にここの店長を侯爵閣下から任されたんです」


 エイデンの目が点になった。

 いろいろと常識が破壊されたらしい。


「まあ、これからも常識が破壊されると思いますが……次行きましょう」


 アイザックは店の貴族たちに挨拶をすると移動する。


「次はセシル様か。カルロスどこにいると思う」


「劇場じゃね?」


 一行は劇場に向かう。

 するとアイザックが思い出したように言う。


「あー……そうだ。これから見ることは口外したら殺さねばならなくなる。大叔父殿は大丈夫だと思うが……そこの三人は絶対に誰にも言うなよ! 死にたくなければな」


 アイザックの脅しに三人は黙ってうなずいた。

 なにせアイザックの人脈はすでに理解した。

 騎士一人消すことも簡単だろう。

 それを見てエイデンが言った。


「アイザック。儂が責任を持って殺すと約束しよう」


「ありがとう」


 アイザックは余計な事は言わず、謝意だけ伝えた。

 見れば死ぬ理由はすぐにわかるだろう。

 劇場に入るといつもの稽古が行われていた。

 アイリーンとオデット、それにセシルがいた。

 クローディアはなぜかいない。

 セシルは体の線を出すような色っぽい服装をしていた。

 極端から極端に移行するのがセシルである。


「ダーリン♪」


 セシルはカルロスに気づくと手を振る。

 アイザックはこの状態のセシルを皆に紹介した。

 なるべく感情をこめずに。


「第三皇子(・・)セシル様です」


「うん? 桃龍騎士団のテスト合格者? はーい♪ セシルだ!」


 あちゃー。やっちまった。

 アイザックとカルロスは思った。

 セシルは芝居の稽古で興奮した一番威厳のない姿だったのだ。

 エイデンはカルロスの胸倉をつかむ。

 その顔はまさに鬼の表情だった。


「どういうことだ。説明しろ!」


 カルロスは冷や汗を流しながら説明する。


「い、いや、あのですね。セシルは女の子でしてね……」


「そっちではない! セシル様は今……貴様を『ダーリン』と呼称した。話によっては今すぐ貴様を殺さねばならん!」


 エイデンは元近衛騎士である。

 貴人の内部事情をスルーする能力は宮廷勤めで養われていた。

 だが若い騎士のスキャンダルはその限りではない。

 皇族に手を出したのだから問答無用で殺処分しなければならないのだ。


「大叔父殿。カルロスはセシルの夫だ。セシル様の腹にはカルロスの子どもがいる。よく考えろ。これから生まれる子の親を斬るのが騎士道なのか?」


 アイザックは適当なことを言った。

 セシルに妊娠の徴候は一切ない。

 だがこれは効果的だった。

 アイザックの人並み外れて優れているところは、相手の立場になって、相手の価値観で丸め込む能力である。


「ぬ。ぬう」


 エイデンはカルロスを解放する。


「それにそいつは海軍提督の息子で将来の提督候補だ。だからセシル様は海軍を手中に収めた。カルロスは俺たちの切り札だ」


 エイデンは政治を解さない。

 それは騎士には必要ないものだと信じている。

 だがこれは軍事の問題でもあった。

 だから理解はできた。


「はっはっは! 今度の騎士は面白いなあ!」


 セシルは豪快に笑った。

 いい根性である。


「ところでクローディアさんは?」


 カルロスが聞いた。

 命の危険があるためか話題を変えるのに必死である。


「稽古は終わったからね。酒とつまみを取りに行ったよ。あとでみんなで飲む予定なんだ」


 セシルは男前の表情をした。

 するとカルロスは言った。


「それじゃあ次行こうか」


 命がかかっているので必死である。


「次はレベッカだな……どこにいる?」


「うちにいるぞ」


 アイリーンが言った。


「あ! やべえ。エイデン大叔父殿、それに三人。アイリーン伯爵様だ。ライミ侯爵閣下のご婚約者でもある」


「えへへへへー♪」


 アイリーンははにかんだ。

 日頃女性扱いされてない反動だろう。

『婚約者』と言われて嬉しかったらしい。


「はいはい。次行くぞ」


 アイザックが言った。

 アイリーンはニコニコしながら見送った。

 次に一行はアッシュの店に行く。

 店の前につくとアイザックは真面目な顔で注意事項を言った。


「ここにはクリスタルレイクの最重要人物たちがいます。俺たちの最重要任務はここの連中を守ることです」


 中に入ると、そこはお菓子パーティだった。

 小さな子どもたちが、微笑みながらお菓子を食べている。

 幸せそうな顔をしている。


「おーい、アッシュさん……ベル姐さんとアイリーン様に怒られますよ」


「あ……見つかっちゃった」


 店の奥からケーキを持ったアッシュが出てくる。

 アッシュはポリポリと頭を掻いた。

 男親はどうしてもお菓子をあげすぎてしまうのである。

 だが子どもたちは喜んでいた。


「司令官……閣下……」


 エイデンの目が点になる。


「こちらがライミ侯爵……新大陸総司令官閣下です」


「はっはっは! ライミ閣下をお守りすればよろしいのですな!」


 今まで圧倒されすぎて大人しくしていたレミーが言った。

 それを聞いたカルロスがつぶやく。


「アッシュさんを人類の兵器で倒せるとは思えねえけどな……」


 すると桃色の髪の女の子がアッシュに抱きつく。


「にいたん!」


「うん? レベッカどうした」


「新しい人間さんです!」


 レベッカは喜んでいた。


「うん。騎士の人たちだよ。はいご挨拶!」


「あい!」


 レベッカはエイデンの前に出る。


「レベッカです!」


 次の瞬間に起こった出来事をアイザックは見逃さなかった。

 なにせ、しかめっ面だったエイデンの目尻が下がったのだ。

 そう、あのエイデンが『おじいちゃんモード』になってしまったのだ。


(堕ちた!)


 アイザックは悪い顔をした。

次回、悪魔と人格破綻者訪問。

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