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テスト 2

 騎士たちは恥も外聞もかなぐり捨てて逃げた。

 そもそも騎士は強さや高潔さというイメージで食っている商売である。

 恥になるようなことは許されない。

 今回の乗っ取りですら『法的に正しい』というギリギリの線で攻めたのだ。

 ここで無様に逃げ回ることなど決して許されるはずがなかった。

 だが実際はどうだろう。

 アッシュの攻撃から方向も考えずにただ逃げ回るだけでいっぱいいっぱいだったのだ。

 アイザックは、アッシュの攻撃の巻き添えになった親戚やその友人たちを救助していた。

 皆一様に恐怖に顔を歪めた姿で気絶していた。


「まったく、クリスタルレイクの通過儀礼とはいえ……悲惨な姿だな」


 アイザックがそうぼやくと、カルロスも同意した。


「まったくだな……誰かアッシュさんに手加減ってやつを教えてやれよ」


 そんな二人だが、救助作業はサクサクと進む。

 なんだかんだで優秀である。

 すると女性の声がした。


「あら終わりました?」


 瑠衣が手伝いに来たのだ。


「瑠衣さん。とりあえず埋まってた人は掘り起こしました」


「そうですか。えっと、よろしいですか?」


 そう言うと瑠衣は倒れている中の三人の腕に赤い紐を結ぶ。


「なんですかそれ?」


 アイザックが聞いた。

 すると瑠衣は微笑む。


「はい。合格者です。『俺に構わず逃げろー!』って言って逃げ遅れた人たちですので。私たち、こういう人大好きです♪」


 一応合格させる気はあったらしい。


「レミー叔父貴と息子のカイリー、それに飲み友達か……こいつらノリで行動してるけど頭と腕は微妙ですよ」


 アイザックは自分を棚に上げて冷静に言った。


「あらあら♪ でも根性は一級品ですわ」


 瑠衣は言った。

 気に入ったらしい。

 悪魔はこういう無茶な人間が好きなようだ。

 悪魔が合格というのならイチャモンをつけてもしかたがない。

 たとえ変人であってもだ。

 アイザックもカルロスもあきらめた。


「ではスラム街まで運んでおきます」


 瑠衣はそう言うと手を叩く。

 すると蜘蛛がやって来て騎士を回収する。


「では続きを見に行きましょう♪」


 瑠衣は喜んでいた。

 完全にノリノリだったのだ。

 ……さてさて、騎士たちはと言うと、森を逃げ回っていた。

 なにせ勝てないのはわかっていた。


 ライミ侯爵はおかしい。

 どう考えても人間業ではない。

 化け物だ。

 そんな化け物に平然と従っているアイザックはいったい何を考えているんだ!


 騎士たちは頭の中がグルグルとしていた。

 そんな騎士たちの耳にどこからともなく太鼓の音が聞こえてくる。


「な、なんだ!」


 騎士が叫んだ。

 すると太鼓の主が現れる。

 それはタヌキだった。

 正確には『タヌキのような謎の生き物』だった。

 それが太鼓を叩きながら近づいてきたのだ。


「ぜんたーい止まれ!」


 しゅたっとタヌキたちは足を止める。


「前へならえー!」


 しゅたっとタヌキたちは手を突き出す。

 騎士たちが度肝を抜かれていると、タヌキは言った。


「戦闘用意!」


「は?」


 それは火球だった。

 タヌキたちが一斉に火球を騎士たちに投げつけたのだ。


「ちょ、やめ!」


 爆発音がし、木の破片が降り注ぐ。

 騎士たちの心は折れていた。

 無理だ。勝てるはずがない。


「こんなの聞いてないぞ!」


 騎士の一人が四つん這いになって逃げる。

 そんな騎士の前に大きな何かが見えた。

 それは大きなカラスだった。


「カア!(攻撃開始)」


 カラスが鳴くと空から爆撃がされる。

 騎士たちは爆風で吹き飛ばされ、転げ回る。

 いつかアイザックとカルロスが歩んだ道である。

 空からは爆撃、平面からは一斉掃射。

 そんな地獄の中、騎士は叫んだ。


「なぜだ! アイザック、なぜこんなのと組んでいるのだ!」


 アイザックだったらこう言っただろう。


『友達だから』


 だがそれを騎士たちは知らない。

 さらにもう一方、悪魔たちに至ってはこれは遊びだった。

 手加減はしているし、万が一怪我をしても人体修復の専門家である蜘蛛がいる。

 それにアイザックやカルロスなら遙かに強い。

 実は二人とも今や悪魔クラスの強さを持つ。

 本気で追い込まないと捕まえるのが難しいのだ。

 その点、騎士たちは楽だった。

 だから思いっきり見せ技を使う。

 炎を連打したり、爆発させたり、焼き払ったり好き放題していた。


「あ、アイザックは悪魔に魂を売ったのか!」


「や、やめろおおおお!」


「くそ、なぜこんな! ぐあああああああああッ!」


 威力こそ大きいが怪我人はほとんどいない。

 だがその恐怖は騎士たちに刻み込まれていく。

 騎士たちの心が完全に心が折れた頃、レスキュー隊が投入される。


「はいはい。救助です」


 それは瑠衣たちだった。

 蜘蛛たちは今回は驚かし役ではなく、救助役だったのだ。

 だがそれがトドメだった。

 なにせ蜘蛛たちは悪魔の姿のままでやってきたのだ。


「あ……がッ!」


 騎士たちは次々と白目をむいて倒れた。


「あらあら♪ 仕方ない子たち♪ アイザックさんとカルロスさんは初見でも剣は抜きましたよ」


 瑠衣たちはそう言いながら騎士たちを回収していく。

 そこにアッシュが追いついた。

 アッシュはのんびりとした声を出した。


「追いついたけど……終わっちゃった?」


 どこまでもマイペースなアッシュへ瑠衣が微笑む。


「あらアッシュ様。気絶した人たちを運んで終わりですわ♪」


「じゃあ手伝うよ」


 アッシュはその辺に転がっている騎士たちをまるで物のように運んでいく。

 こういう所が雑なのだ。


「合格者は?」


 アッシュが聞いた。


「三名です。なかなか個性的な子たちです」


 要するにクリスタルレイクには個性的な人間しか残らないのだ。

 アッシュは素直に『うわあ三人だって。すごいね』と感心していた。


「それで……アイザックは?」


「ご当主様とサシで話をつけるとのことです」


「そっかー。じゃあ任せようか」


「はい♪」


 ニコニコとしながら悪魔たちは騎士たちを運んでいく。

 騎士たちに遊んでもらって満足だったのだ。

 それが傍目には魔王軍の敗残兵狩りにしか見えなくても、彼らはのんびりしていた。

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