表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンは寂しいと死んじゃいます ~レベッカたんのにいたんは人類最強の傭兵~  作者: 藤原ゴンザレス
第五章 ドラゴンと新大陸

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

193/254

服選び

 皇帝は一見すると視野が狭く、不見識で、それでいて無能だった。

 戦下手で、無駄な戦死者を出し、有能な味方も謀略で葬った。

 その結果が大量の難民や不景気や政治の腐敗だった。

 だが皇帝に理解できるのは貴族のパワーバランスのみである。

 というのが大方の見方であった。

 だが実情は少し複雑だった。

 皇帝は忌まわしい秘密を抱えていたのである。



 皇帝は喜んでいた。

 なにせ今や最大の敵は無力化された。

 むしろ自分の味方、いや忠実な家臣にすることができるのだ。

 虫のいい話だがそれは夢ではなかった。

 ライミ家の少年を侯爵にしてしまえば全てが叶うのだ。

 どうやらせがれ(・・・)のセシルは思ったよりも有能なようだ。

 だとしたら死んでもらわなければならない。

 余計な事に気づく前に。

 いっそ無能なままなら皇帝にもなれただろうに。

 皇帝はため息をついた。

 これがすんだら毒か呪いで死んでもらおう。

 いやアッシュに殺させてもいいだろう。

 あの中年の殺人鬼に。


 皇帝はまだアッシュが17歳である事を知らない。

 なにせガウェインにオッサンが少女をさらったと吹き込んだのは皇帝なのだ。

 そして皇帝はそれを真実としてガウェインに話したのだ。


 一方、クリスタルレイク。

 アイリーンとセシル、それにクリスは頭を悩ませていた。

 皇帝に呼び出されたが、なにを着ていくかそれが問題だった。


「代官なのだから制服の方がいいんじゃないかな?」


 アイリーンはそう言うと軍服ではなく、文官の制服を指さした。

 式典や帝国会計局に招集されたときに着用するものだ。

 するとセシルは言った。


「アイリーンは次期ベイトマン伯であり、ライミ侯爵の婚約者だ。もっと着飾った方がいい」


 セシルは自分のとっておきのドレスを指さす。

 セシルは男として生きることを強要されていたせいか、着る人を選ぶような華美で体の線を強調したようなものばかりだ。

 アイリーンからするとセシルの趣味は派手すぎる。

 少し……いや、かなり恥ずかしい。


「それは……ちょっと……」


「似合うと思うんだけどなあ」


 その目は本気と書いてマジだった。

 アイリーンは慌ててクリスに話を振る。


「クリスはどう思う?」


「あたしじゃ宮廷の流行とかドレスコードはわかんないよ。資料も少ないし」


 クリスはろう石をいじりながらそう言った。

 それを聞いたセシルの目が輝く。


「クリス……サンプルをすぐに用意しよう。私は君のセンスを信頼している」


「ありがとう♪ だからセシル姐さん……好き!」


 クリスはセシルに抱きつく。

 セシルはやたら男らしく笑う。


「あははははは! 苦しゅうない!」


 彼女たちはやりたい放題である。

 なにせデザインはクリスや淑女亭に。

 生産も淑女亭と悪魔たちによっていくらでも可能なのだ。

 セシルは至極真面目な顔で言った。


「アイリーン……我が商会も飛躍をするべきだと思うのだよ」


「えー……」


 アイリーンは嫌な顔をした。

 セシルの趣味だ。胸や足を強調した服に違いない。

 だがセシルが監修し、クリスがデザインしたものは確実にヒットする。

 セシルは浪費家だ。

 植木から舞台、音楽に酒。最近では服にまでお金をかける。

 だが同時にセシルには商売の才能があった。

 使った分を糧にしてその数倍は稼ぐのだ。

 だから誰も文句の一つも言えないのだ。

 アイリーンの表情を読み取ったセシルは微笑む。


「アイリーンがかわいいのが好きなのは知っている。私も好きだ!」


 セシルの目が輝く。


「だがアイリーンは今度こそ脱皮するのだ! アッシュと同じように!」


 アッシュを出されるとアイリーンも弱い。


「だ、脱皮? アッシュと同じように?」


「そうだ。ライミ家は歴史のある侯爵だ。その格というのを見せつけてくれようぞ!」


 皇帝に侯爵が格を見せつけるというのは意味不明である。

 だがアイリーンは勢いに流されてしまった。


「お、おう……?」


 少しおかしいなとアイリーンは思ったが、セシルは考える間を与えなかった。


「じゃあ先にアッシュの方を考えよう」


 セシルはアイリーンの手を引っ張りアッシュの部屋に行く。

 クリスもとことことついて行く。

 アッシュの部屋では騎士たちが頭を悩ませていた。

 レベッカはよくわからずにはしゃいでいた。


「にいたんかっこいー!」


 レベッカは尻尾を振る。

 アッシュは騎士の格好をしていた。

 まったくサイズが合っていない。

 それを見たセシルは呆れた。


「君らはなにをやっている」


 カルロスが答える。


「なにって軍服でごまかしてるんだ。俺たちじゃ貴族のフォーマルはわからないからな」


「……ウサギちゃん」


 セシルは呆れていた。

 服の趣味はいろいろである。

 ドレスコードさえ合えば許容されることはセシルはわかっている。

 だがいくらなんでもこれはアウトだ。


「ウサギちゃん。お父様は夜会に呼ばれたときにどうしてるの?」


 カルロスの父親は海軍提督である。

 夜会にも呼び出される身分であるのだが……


「貴族は俺たちを見て笑うために呼び出すから、思いっきり格好悪くキメて行くことにしている」


 キリッとした顔でカルロスは言った。

 セシルは頭痛がした。


「わかった……私が悪かった。最初に服を決めねばならないのはアッシュだった」


 こめかみを押さえるセシルにクリスが言った。


「瑠衣さんかクローディアに聞いたら?」


「トレンドが100年は違っているからダメだ」


 セシルはまだこめかみを押さえていた。

 悪魔にとっては去年も100年前も似たようなものである。


「男の人の服は私にはわかんないよ」


 クリスは言った。


「私だって芝居用しかわからん」


 セシルも同意した。


「私はまったくわからん!」


 自身を持ってアイリーンが言った。


「わかりません!」


 なぜかレベッカまで乗っかった。


「あ、ベイトマン伯は?」


 今まで黙っていたアイザックが言った。

 するとアイリーンはフルフルと首を横に振った。


「あの人は……ダメだ……趣味が……悪いんだ……」


 さすが娘の説得力である。

 一瞬全員が黙った。

 そこでアッシュは手を上げた。


「どうしたアッシュ?」


 アイリーンが聞くとアッシュはボソボソと言った。

 自信がないらしい。


「あのさ、そういう仕立屋の伝手はないのかな?」


 そのまともな意見に女衆は一斉にアッシュを指さした。


「それだ!」


 レベッカは小首を傾げると、とりあえずわけもわからずニコニコしながら尻尾を振った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ