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番外編 カルロスの休日

 カルロスは久しぶりにクリスタルレイクにいた。

 久しぶりの休日なのだ。

 本当だったら寝ていたいところだが、カルロスは外にいた。

 待ち合わせをしているのだ。

 カルロスが外で待っていると海賊たちが魚を運んでくる。

 海軍などと粋がっていても、船の基本は漁船である。

 実際海軍の軍人の三分の一は漁村出身者である。

 だから戦争も密輸もなければ自然と魚を獲ることになるのだ。

 海賊たちはカルロスを見ると頭を下げる。


「お疲れさまです」


 カルロスは挨拶をした。

 この辺りのコミュニケーションは本山や騎士学校で叩き込まれている。

 カルロスはドレスコードやマナーというものはその階級を示すものだと思っている。

 だがどの階級でも有効なことがある。

 穏やかでいることだ。

 ただし事なかれではないことが重要だ。

 だからあくまで穏やかに言った。

 複数の階級を見てきたからこそ理解できたことである。

 本山や騎士学校にいた頃こそ小さな間違いを犯していたが、今では騎士だろうが僧侶だろうが海軍だろうがどんと来いである。

 カルロスが少し待っていると、派手なドレスを着た女性がやって来る。

 セシルだ。

 デートなのである。


「お待たせ。えへへへへへ」


 セシルは笑う。

 まだドレスが派手だがこれでもセシルはかなりクリスタルレイクに毒されてきた。

 庶民に近づいてきているのだ。


「じゃあ行こうか」


「うん」


 と言ってもクリスタルレイクはゆっくりするための観光地だ。

 遊ぶような所は少ない。

 スポーツ大好きなアッシュとアイリーンなら一緒に新大陸で泳ぐとかの選択肢があっただろう。

 だがセシルは普通の女性である。

 さすがに二人のようなアグレッシブな遊びはしない。

 でもそれでよかった。

 なぜならセシルはカルロスがいればよかった。

 彼がいてくれるだけで楽しかったのだ。

 と、やたら乙女な思いもあるにはあるのだが……


「おっさけー♪ おっさけー♪ おっさけー♪」


 セシルはプレ公演でライブに集中しすぎて酒を飲み損なったのだ。

 痛恨のミスである。

 だからカルロスはセシルをタヌキの酒造所に連れて行くことになった。

 セシルはやたら上機嫌だった。

 二人は腕を組んでいた。

 カルロスも恥ずかしがらない。

 ごく自然にしていた。

 歩いていると一見すると兄妹に見える二人が市場にいた。


「なあなあアイザック、今日の晩ご飯なににする?」


「久しぶりに俺が作るよ」


「わ~い。美味しいごはん♪」


 クリスとアイザックである。

 知り合いに会うのはなんとなく照れくさい。

 それはアイザックたちも同じだった。


「ようカルロス……」


「おうアイザック……」


 男どうしはなんとなく面倒である。

 暑苦しい友情や、相手への配慮などの間合いをはかるのだ。

 そんな二人を女衆は引き離す。


「はいはい邪魔しちゃダメだよ。アイザック」


 クリスが言った。


「そうそう。邪魔しちゃダメだよカルロス」


 セシルも同じだった。

 騎士コンビは引き離される。

 だが二人ともそれには同意していた。

 せっかくの休日なのだ。

 酒蔵に着くとコリンが出迎えた。


「セシルお姉ちゃん。カルロスさん。こちらへどうぞ」


 コリンは大きい尻尾をふりふりしている。

 なぜかセシルはぐっと拳を握る。

 弟分の姿が誇らしいようだ。

 二人はコリンについて行く。

 途中、悪魔の魔法で空間が歪んだような気がするが二人は気にしない。

 もはやクリスタルレイクの日常である。

 歩いていると音が聞こえてくる。


「ひゃっほー! 飲め飲め~!」


 聞いたことのある声だった。

 いや明らかにオデットの声だった。

 さらにドンドンと太鼓を叩く音が聞こえる。


「オデット! ほれ酒!」


 クローディアの声が聞こえる。


「おりゃああああああ!」


 二人は空間の歪みより、オデットとクローディアのはしゃぎっぷりの方に不安を感じた。

 するとコリンがドアの前で止まる。


「はい、こちらです。中にクローディアさんもいます」


 良く見るとコリンは眉間にしわを寄せている。

 いろいろあきらめているようだ。

 カルロスは、ぽんっと優しくコリンの肩を叩いた。


「ありがとう……」


「いいってことよ」


 カルロスはコリンにチップを渡す。

 本当は渡す必要はないのだがお小遣いである。

 部屋に入ると案の定、クローディアとオデットはできあがっていた。


「「やっほー♪ お二人さん♪ ひゅーひゅー♪」」


 酒樽が置いてある。

 相当な量を飲んだらしい。

 もはやカルロスは笑うしかなかった。

 するとクローディアが魔法でジョッキを二つ出すと二人に押しつけた。


「さあ、さあ、さあ! これが我々タヌキの最新にして自信作よ! 飲んで飲んで! そして褒めまくって!」


 クローディアは、はしゃぎまくっている。

 また新作を作ったのだ。

 よほど自信があるらしい。

 カルロスもセシルもお互いを見る。

 そして「ふふふ」と笑った。


「飲もうっか」


 セシルが言った。


「そうだね」


 カルロスは微笑む。

 そして二人は酒を口に含む。

 そして同時に言った。


「「なんじゃこりゃあああああああああッ!」」


 美味しい。

 いや美味しすぎる。


「ちょっとクローディアさん。これヤバいですって」


 カルロスは語彙力が崩壊。

「ヤバい」としか表現できなくなった。


「宮殿のものより上等だ……」


 セシルも表現までは至らない。


「ふふふ。すごいでしょ? だから、おばちゃんね。もっとみんなに飲んで欲しいのよ。アイザックちゃんどこにいるか知ってる?」


 カルロスとセシルは顔を見合わせた。


「どうしようっか? せっかく二人きりなのに」


 セシルが言うとカルロスは笑う。


「つまみが必要だな」


 二人はクローディアに耳打ちする。

 クローディアは空間を歪ませ、新婚夫婦の家にズカズカと侵入する。

 まだ料理はできておらずタイミング的にはちょうど良かった。


「カルロス。なんの用だ?」


 少し機嫌が悪い。

 アイザックはクリスとの時間を大事にしているのだ。


「酒だ。まあ騙されたと思って飲め」


 カルロスは言った。

 アイザックは言われるままに酒を飲む。

 クリスはジュースで我慢だ。

 ……と言いつつも最終的に宴会へと変わる。

 飲めや歌えである。

 いつの間にかタヌキたちも加わり大宴会になる。

 カルロスたちもアイザックたちも思い描いていた休日ではなかったが、それでも楽しかった。

 それがクリスタルレイクなのかもしれない。

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