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プレ公演 2

 貴族たちの大部分はホクホクとしていた。

 新大陸の珍しい植木を手に入れることができたのである。

 自慢してもいいし、転売してもいい。

 とにもかくにも夢が広がる品だった。

 それ以外の貴族たちも綺麗で清潔な町並みに驚いていた。

 秩序を受け入れた住民たちの姿は未来を感じさせた。


 その裏でアッシュたちは大わらわだった。

 なにせ食堂経験者でアッシュの右腕であるアイザックがいないのだ。

 カルロスも診療所が忙しくてこちらに手がまわらない。

 クリスタルレイクの小器用な男子たちがいないというのはアッシュにもとてつもないダメージだった。

 だがアッシュは泣き言は言わない。

 悪魔たちと料理を作っていく。

 人間のスタッフはスラムの住民の中で料理人経験のあるものも使っている。

 瑠衣によって更生したものばかりだ。

 アッシュは材料を見て気合を入れる。

 甘味に関してはこだわり抜いた。

 なにせ帝都である。

 日持ちしないので今までやらなかった生クリームたっぷりのケーキを作ってもいいのだ。

 この日のために瑠衣たちは氷結魔法で材料を冷凍した。

 とは言ってもプレ公演の招待客は男が多い。

 甘味より酒のつまみの方が需要があるだろう。

 アッシュはそちらも作っていく。

 今回アッシュが用意したのはなんの変哲もない干物だ。

 ただし、新大陸の海から獲れた魚の干物だ。

 貴族料理は牛乳や香草で煮込んだ原型のわからないものが多い。

 地味だと言われるかもしれない。

 だがアッシュには自信があった。

 貴人の好む味はわからないが、傭兵料理は酒のつまみに関しては発達している。

 傭兵なんぞ酒でも飲まねばやってられないからだ。

 騎士たちが喜んでいたのだから、問題ないだろう。

 それに海水魚の干物はアイリーンやクローディアも好きだ。

 問題はないだろう。

 アッシュは乾き物を用意するのだった。

 アッシュは魚の干物を焼いていく。

 ポツポツと熱せられた油の泡が出た。

 うまみの凝縮した食欲をそそるにおいがしてくる。

 アッシュはニヤリと笑う。

 難しいことはしない。

 そこには素材本来のうまみが閉じ込められているのだ。

 調理を手伝っていたタヌキが目を輝かせる。


「味見する?」


 アッシュの言葉にタヌキは尻尾をブンブンと振る。

 アッシュは焼けた魚を包丁で切って皿に乗せた。


「じゃあ、みんなにも配って」


 タヌキは「ひゃっほー!」と喜ぶと人間や蜘蛛やカラスのスタッフにも配る。

 アッシュはその間も調理を続けていた。


「味はどう?」


 調理に携わっていた全員がニヤッとした。

 美味らしい。


「ありがとう」


 自信がついたアッシュはさらに焼いていく。

 他のスタッフも肉料理などを作っていく。

 アッシュはもはや勝利を確信していた。


 そんなアッシュに対して、クローディアの新しい劇場ではリハーサルが進行していた。

 相変わらずクローディアとオデットは言い争っている。


「せっかく偉い人が来るんですから、客席にダイブしましょうよー!」


「偉い人だからやめー! なんであんたそこまでアグレッシブなのよ!」


 クローディアは真っ赤なドレスを着ていた。

 それに比べてオデットは森に溶け込みそうな色の民族衣装を着て、フェイスペインティングをしていた。

 エルフは普段からこういう格好をしているわけではない。

 お祭りの時の服装である。

 一年に一度も着ないだろう。

 普段はさほど珍しくもないノーマン風の服である。

 だが客は珍しいものが見たいのだ。

 せっかく新大陸人が来ているのだ。

 新大陸の文化に触れてみたいのだ。

 クローディアはそれをわかっているため、わざとオデットにこの格好をさせた。

 だがこれだとオデットの無駄に美しい顔が見えないため、衣装替えもする予定である。


「とにかく絶対にダイブはダメ! さあ、行くよ!」


「わかってますよ~。……シタール壊すのは?」


「絶対にダ・メ!」


 オデットはどこまでもロックンロールな女だった。


「……軽く脱ぐのは?」


「やったら私が責任持ってその場で燃やすわ」


 大衆芸能などではわざとチラリズムを強調する演出もある。

 それはクローディアもよくわかっている。

 だが今回の趣旨にはそぐわない。

 オデットの暴走は殺してでも止めなければならない。

 クローディアの本気を感じ取ったオデットは「……はい」と小さく言った。


 すると劇場に子どもたちが入ってきた。

 人間の子どもたちに見えるが、実は全員ドラゴンである。

 ピンク色の髪をした女の子が手を振る。


「クローディアおばちゃーん!」


 レベッカである。

 レベッカは羽の生えたフリフリの服を着ていた。

 まるで妖精のようだった。(自称妖精の悪魔ではない)

 ベルと淑女亭のお姉様方渾身の作品である。

 他の子たちも同じだった。

 それぞれが妖精を模した格好をしている。


「あんら~。あらあらあら、まあまあまあ! かわいい~!」


 クローディアは悪魔のため抱きつけないが悶えていた。

 代わりにオデットがレベッカに抱きつく。


「かわいい~! なにこの子。いいにおいがする!」


「や~ん♪」


 オデットに抱きかかえられたレベッカはジタバタと手足を動かした。

 他の子たちは「ずるーい」と言いながらオデットに抱きつく。

 それを寂しそうな顔でクローディアは見つめていた。

「ずるーい」と言いたいのはクローディアの方である。

 一通りレベッカを堪能するとオデットは言った。レベッカを抱えたままで。


「そういや花火ってどうなったんですか?」


 クローディアはにやあっとした。


「ふふふふふ。タヌキの特別チームが作ったスペシャルな品よ!」


 オデットはレベッカを解放すると言った。


「それは凄い! 私、派手なの大好きなんですよ!」


 レベッカたちも喜んだ。


「花火だって!」


「花火だよ!」


「花火よ~!」


 ドラゴンたちは、きゃっきゃっと喜んでいた。

 クローディアは得意げに笑う。


「みんな~期待してね。ふっふっふっふっふ」


 オデットも無邪気にわくわくしていた。

 楽しい予感がした。

 だからドラゴンたちは少し光っていた。

 だがクローディアたちはそれに気づかなかった。

 すると大きくてモフモフした生き物が入ってくる。

 コリンだ。


「そろそろ、お客様が到着するそうです」


 コリンはしゃきーんとしていた。

 コリンは大きな子なので張り切って仕事をしている。


「はい。コリンちゃん! みんながんばるわよ!」


「「おー!」」


 皆がそう言うとクローディアとオデットは改めて気合を入れた。

 勝負の時は迫っていた。

現在食中毒で治療中でございます。

次回更新も遅れるかもです。

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