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ドラゴンは寂しいと死んじゃいます ~レベッカたんのにいたんは人類最強の傭兵~  作者: 藤原ゴンザレス
第五章 ドラゴンと新大陸

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覚醒

 時間は遡る。


 緑色のふさふさとした毛が揺れる。

 丸まった尻尾が右側に振れる。

 羽がぴくぴくと動く。

 海風の匂いが鼻をくすぐる。

 エルフくらいの大きさをしたコリンは、海を見て目を輝かせた。

 コリンは港町にいた。

 港町にはエルフやドワーフがいる。

 エルフは森に、ドワーフは鉱山の中に街を造る種族だ。

 狩猟採取は凶暴な獣によって年々難しくなり、鉱山は天使に破壊された。

 エルフもドワーフも生きるために妥協した。

 今はこの街、『希望の街』で肩を寄せ合って生きている。

 今ある街や村は、伝説のドラゴンが残した結界があるのだ。

 コリンは、ドラゴンを見たことがないが、凄い生き物らしいと聞いている。

 犬人に育てられたコリンは、自分がドラゴンである事を知らなかった。

 コリンは景色を堪能すると宿に行く。

 宿はドワーフのおじさんが受付をしていた。

 宿の看板には「一泊二食付き銅貨二十枚」と書かれていた。

 コリンにとっては、結構高い。


「こんちには」


 コリンは頭を下げた。

 ドワーフはコリンを見るとポカンと口を開けた。

 コリンはそういう反応に慣れていた。


「お、おう、何かな?」


 ドワーフは上から下まで凝視する。


「部屋は空いてますか?」


 コリンは気にしないでそう言った。


「あ、うん。空いてるぜ。泊まるのかい?」


「はい。人を待っているので何日か泊まる予定です」


 コリンはシャキーンとした。

 ドワーフはチラチラとコリンを見ながら、台帳を開く。


「ここにサインを」


 コリンは指定された場所に「コリン」と書いた。


「今日の分の代金を……」


 コリンは財布から小粒銀貨を二枚取り出し、ドワーフに渡す。

 村が不作の時に貯めていた貯金だ。


「部屋は二階だ。火は使うな」


 ドワーフは実に無愛想だった。

 コリンが二階に行こうとすると、ドワーフに呼び止められる。


「すまんが……あんたは、いったいどの種族だい?」


 聞かれると思った。

 コリンは正直に言う。


「わからないよ。ずっと犬人だと思ってたけど、違うみたい」


 ドワーフは変な顔をしていたが、コリンは気にせず二階に行った。


(今日はもう寝よう)


 部屋に着くと、コリンは自分がヘトヘトに疲れていることに気づいた。

 だからコリンは仮眠を取ることにした。


 カンカンカンカンカンカン……


 何かを叩く音が聞こえた。

 コリンは寝ぼけ眼で体を起こすと目をこする。


「うるさいなあ……」


 コリンは木戸を開け、外を見る。

 外は明るかった。

 コリンが寝てからそんなに時間が経っていなかったのだろう。

 道には、いろんな種族の人々が走り回っている。


「なにがあったんだろう?」


 コリンは、ぼうっと見ていた。

 半鐘を叩く音が聞こえているが、コリンはのんびりしていた。

 コリンは鈍くさいのだ。

 するとドタドタと階段を上がる音が聞こえる。

 音の主は、宿の主人のドワーフだった。


「おい、まだいたのか! 避難するんだ!」


 ドワーフは慌てている。

 コリンは首をかしげた。


「て、天使だ! 天使のヤツらが来たんだ!」


 コリンは目を丸くする。

 尻尾が左に揺れる。

 警戒しているらしい。


「ああ、もう! 来い!」


 スローモーなコリンに苛立ったドワーフは、コリンの手をつかむと引っ張る。

 コリンは外に連れ出される。

 外は逃げ回る人々で大混乱だった。

 コリンはドワーフに手を引かれて行く。


「どこに行くの!?」


 コリンが聞くとドワーフは大声で言った。


「神殿に地下通路を掘ってある。そこから逃げるんだ!」


 しばらく走ると神殿に到着する。

 神殿の近くは建物が少なく、街の状況が良く観察できた。

 人が逃げ出したのは港だった。

 港でなにかあったらしい。

 すると突如として、光が見えた。


「え?」


 光を浴びた建物は一瞬の間を置いて爆発した。

 そして崩れた建物から出てきたのは、巨大な蛇だった。

 羽が生えた蛇が、口から光線を吐いていたのだ。


「あれはなに!?」


 だがドワーフは首を横に振った。


「わからねえ。あんなの初めてだ。……だが……もしかすると、あれがドラゴンってやつかもな」


 コリンはその言葉に衝撃を受けた。

 コリンはドラゴンを正義の味方だと思っていたのだ。


「ち、違う! あんなのドラゴンじゃない!」


 コリンは目に涙を溜めていた。

 なぜこんなにも悲しいのか?

 それはコリンにもわからなかった。

 次の瞬間、コリンは飛び出した。


「あ、おい!」


 ドワーフが叫ぶがコリンは止まらなかった。

 コリン自身も、なぜ飛び出したかはわからない。

 でも人々の幸せを奪っていく蛇がどうしても許せなかった。

 コリンは剣を抜く。

 剣は安物の、どこにでもあるようなものだ。

 だがコリンが抜いた瞬間、剣は青白く光った。

 次の瞬間、コリンの背中の羽が大きく開く。

 普段は小さく、空も飛べないような羽だ。

 それがワシのように大きく開いた。

 コリンは空高く飛んだ。

 何をすればいいのか。それはコリンにもわからなかった。

 だが、コリンの本能が次の行動を指示していた。

 コリンは飛びながら、剣を太陽にかざす。

 するとコリンは、ムクムクと大きくなっていく。


「じゅあ!」


 大きくなったコリンは蛇の真上まで飛ぶと、蛇目がけて落ちていった。

 どーんという音と共に、コリンが着地する。


「ぎゃおー!」


 蛇はコリンに気づくと威嚇した。

 コリンも威嚇する。


「じゅあ!」


 コリンは剣がなくなっていることに気づいた。

 武器がないのでしかたなく拳を振り上げた。

 ぽこぽこぽこぽこ。

 迫力のない連打が蛇を襲った。

 蛇はどうしていいかわからない。

 しばらく叩くとコリンは息が切れた。


「じゅあ……へふ……へふ……」


 それを蛇は、ただただ見ていた。

 どうすればいいかわからずに。


「じゅあ!」


「ぎゃおー!」


 仕方なく蛇は、とりあえず光線を出すことにした。

 目を見開いて発射準備をする。


「じゅあ!」


 コリンも真似して口を開ける。

 コリンは、一瞬だけ「うん?」という顔をする。

 すると一瞬遅れて光線が出る。

 そしてピギャーという間の抜けた音がしてから、光線が当たった場所が次々と爆発して行く。


「あ? あぎゃああああああ!」


 先ほどのパンチとは違い、こちらの威力は激しかった。

 蛇はあまりの爆発にゴロゴロと転がった。

 涙目である。


「あ、あんぎゃ?」


 蛇は本気を出した。

 口を開け破壊光線を出す。

 こちらは当たったらすぐに爆発する。

 光線はコリンを直撃し、コリンは倒れる。


「じゅ、じゅあああああ」


 コリンはそれでもあきらめなかった。

 立ち上がって反撃しようとする。

 だがコリンとは違い、蛇は戦い方を知っていた。

 尻尾でコリンの足を払う。

 コリンは、すてーんと転んだ。


「じゅあ……」


 そして蛇はトドメとばかりに光線を吐こうとした。

 その顔は「トドメだ」と言わんばかりの顔だった。

 だが蛇は知らなかった。

 上空から何かが落ちてきていることを。

 倒れたコリンは、飛んでくる何者かを見ていた。

 なぜかコリンは、わくわくしていた。

 心が躍っていた。

 来たのだ。救世主が。

 そう考えた瞬間、コリンはまたもや変身した。

 体は人間を乗せるのにちょうどいい大きさに。

 ヌイグルミのようだった体は、細くなり、飾りのようだった翼は大きく美しくなった。

 コリンは体の使い方をすぐに理解した。

 魔力を使いホバリングすると空高く飛んだ。

 空からアッシュは蛇に拳を繰り出す。

 アッシュの存在に気づいた瞬間、蛇は涙目になった。

 ズウウウンという音、地面も揺れる。

 拳のめり込んだ蛇が崩れ落ちると、アッシュは次の瞬間飛び上がった。

 コリンは急旋回するとアッシュを背に乗せる。

 アッシュは無限の力がわくのを感じた。

 アッシュの拳の中に、その力が具現化する。

 その力は蒼い槍の形になる。


 アッシュの拳骨で意識朦朧としていた蛇は見た。


 絶望を。


 アッシュは槍を放つ。

 それは触れた全てを飲み込んでいく。

 建物も、木も、地面も飲み込んでいく。


「ひぎゃあああああ!」


 蛇は悲鳴を上げた。

(この天使である我がなぜこんな目に!)

 なにを考えようともう遅かった。

 なぜなら蛇は一瞬で消滅したからだ。

 蛇のいた場所には、ぽっかりと深い穴が空いていた。

 アッシュは初めてドラゴンライダーらしいことをしたのだ。

 住民側の死者はなし。

 ただし、残念ながら港は壊滅したという。

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