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学者たちは暴走する

 クリスタルレイクと、新大陸の貿易には税が掛かる。

 とは言っても新大陸側の貨幣をもらっても仕方がない。

 金や銀の含有量やら、物価やらの問題があるのだ。

 だから、とりあえずは灰琥珀で払ってもらうことにした。

 新大陸側では、ただのゴミなのでちょうど良かった。

 税金の算定はとん税、つまり重量税にした。

 帝国法では外国との貿易が発生したら、内務省の裁定を仰ぎ、裁定が出る前は代官の裁量で決めて良いことになっている。

 アイリーンはすぐに定型の書類を内務省に送った。

 ただし、取引内容を「物々交換」にした。

 小さな取引と見せかけたのだ。

 まさか食料と灰琥珀との取引とは思うまい。

 内務省はためらいもなく書類をゴミ箱に放り込むだろう。

 しばらく、いやヘタをすると10年以上、もしかすると永遠に裁定は降りないのだ。

 重量税にしたのには、もう一つ理由がある。

 他の税は、食料品と贅沢品の税率が違ったり、細かい帳簿を作る必要があるので面倒なのだ。

 その点、重量税なら重さと税金だけ帳簿に残せばいいのだ。

 帝国に納める税金は、灰琥珀を少しずつ金に換えれば充分である。

 ブラックコングもコネを全力で使っていた。

 コネで灰琥珀やら、キノコやらを換金している。

 そのせいで、アイリーンの裏金は増える一方である。

 金はあっても使い道がない。それが困るのだ。

 そんなある日、クリスがアイリーンたちの元へやって来る。

 クリスが執務室の椅子に座ると、アイリーンが聞いた。。


「商品開発と言ったな?」


「うん、うちはバッグとか金細工とか売ってるじゃん。すると「香水とか口紅はないの?」って言われるんだ」


 かなり伸びた髪を揺らして、クリスは身振り手振りで説明した。


「化粧か……これまた高級品を……」


 クルーガー帝国では、美容用品は高級品だ。

 農民では口紅など嫁入りの時でも買えないほどである。

 遠慮なく使っているのはセシルとクローディアくらいだろう。

 アイリーンですら行事の時に少し使うだけだ。

 アイリーンが困った顔をすると、クリスが言った。


「でも私や悪魔たちの知識じゃ作れないんだよね」


「なるほどな……それで私になにをしろと?」


「うん、学者さんを紹介して」


 クリスがそう言うとアイリーンは、がばりと椅子から立ち上がった。


「なるほど! ちょっと待て、ここでしか手に入らない花や香料がいいな」


 残念ながらクリスはそこまで考えていない。

 灰琥珀を使いたかっただけだ。


「う、うん?」


「なるほど、なるほど。まずはロメロ先生に聞くか。これは面白そうだ」


 アイリーンがそう言うと。

 いつの間にか瑠衣とクローディアが部屋に出現していた。

 面白そうなにおいを嗅ぎつけたのだ。


「なになに、香水作るの?」


 クローディアは目を輝かせている。

 綺麗な服を着て踊りたかっただけで、トップ女優にまで登りつめたクローディアの美への執着心は凄まじい。

 逆に美しさにはそれほど興味のない瑠衣も、目を輝かせていた。

 こっちは薬品を混ぜるのが好きなだけである。


「クリスさんといると退屈しないってみんな言ってますよ」


「そうかなあ。えへへへへ」


 クリスは照れていた。


「このクリスタルレイクの悪魔を束ねるクリスさんの頼みです。全力で当たらせてもらいます」


 瑠衣の言葉にアイリーンたちは苦笑した。

 クリスはもう、悪魔たちの顔役である。

 なにせクリスは、かなりの数の悪魔を雇用している。

 人間には製品を、悪魔には娯楽や生きがいを与えている。

 クリスはアイリーンに匹敵する発言力を手にしているのである

 でもクリス自身は、今のところ自覚はしてない。

 遊びの延長である。

 だが、その遊びの方向性が次々とヒットを生み出している。

 今や、ブラックコングすら一目置いている。


「それじゃあ、クリス。セシルにも相談してくれ。香水だったら、一番詳しいのは使いまくってる人だろう」


 アイリーンの発言にクリスは頷く。

 確かに、ユーザーとして一番詳しいのはセシルだろう。


「了解。セシルが満足すれば、大ヒット間違いなしか……」


 クリスたちはロメロを待った。

 すると屋敷に大量の学者たちが走ってくる。

 その表情は、まさに鬼だった。

 先頭を走るロメロが叫ぶ。


「新種の植物で医療用の香油を作る実験だってぇーッ!?」


 惜しい。

 伝言ゲームのように話が伝わり、変容したようだ。


「いや香水……」


 アイリーンが答えるがロメロは聞いていない。

 ロメロはダイビングヘッドスライディングで、執務室に侵入する。

 ずさささささー。


「我々に任せろ。いや、お任せください。金さえあれば、研究施設さえあれば、なんでも作ってみせる!」


 目が血走っている。


「い、いや、香油だけじゃない。薬も作ろう。新しい植物の力を世界に見せてやろう!」


 瑠衣がロメロに近づく。


「この瑠衣。感動しました。新しい実験、楽しい実験、ステキな実験! ぜひ、やりましょう!」


 瑠衣はノリノリである。

 なにせ蜘蛛たちは、建築士でありながら、優秀な医師でもある。

 人間の解剖的な構造以外にも興味は尽きない。


「わかってくださるのですか!」


「ええ、こんな楽し……人類の役に立つ研究をしない訳には参りません」


 アイリーンは、瑠衣をジト目で見る。

 そしてため息をついた。


「新大陸を本格的に探索せねばならないようだ。そろそろ船が完成する。ロメロ先生も行きますか?」


 アイリーンの言葉にロメロの目が光る。


「もちろん。密航してでも♪」


 本当に密航されて、ネズミに噛まれたりでもしたら可哀想だ。

 ロメロは連れて行くつもりだ。


「病気に気をつけろよ。カルロスが言うには、行くところまで行くと、毛が抜けてしまうらしいぞ」


 アイリーンは、困ったように言った。


「初期の航海では、栄養が取れずに、虫やネズミまで食べ尽くして全滅したなんて記述がある」


 酷い話だが、わりと多い事例である。

 瑠衣が微笑んだ。


「ショートカットを村と船に作っては?」


 全員の視線が瑠衣に集まる。


「なにか……まずかったですか……」


 瑠衣はシュンとする。

 だが全員が叫んだ。


「「それだ!」」


 こうして一つの問題はクリアされた。

 無限に補給できる船である。

 こうして出航の日が近づいていったのだ。

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