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丘の上の寺院1

 それはベイトマン領にとっては悪夢だった。

 レベッカとドラゴンたちの『怪獣ごっこ』の被害は壮絶だった。

 正確にはレベッカたちは何もしていない。

 本当に怪獣サイズになった幻影を見せただけである。

 なのにベイトマンの屋敷をはじめとして、周辺の家や集会所、商店は壊滅状態だった。

 屋根には穴、2階部分が丸ごと消滅、ベイトマンの屋敷に至っては跡形もなく爆破されていた。

 それなのに、民の生命に直接影響のある畑や井戸には一切攻撃を加えていないという徹底ぶりである。

 犯人は調子に乗ったタヌキである。

 やっているうちにスペクタクルのある絵を見たくなり、ついやりすぎたのだ。


 アイリーンも、もはや笑うしかない。

 ……が、アイリーンも必要以上に裕福だったので、ブラックコング商会経由で助成金を出すことにした。

 これでベイトマン領の殆どの商人、農民、有力者を永遠に頭の上がらない奴隷状態にしてしまったのだが、セシルもアイリーンも悪気はなかった。

 むしろ、「お上からお金を出したら記録に残っちゃうし、面倒でやだなあ」という程度の認識である。

 ところがお金を出された方はたまったものではない。

 行政機関の出した正式な金ではないのだ。

 アイリーンたちの胸先三寸でいつでも打ち切り可能である。

 それどころか、少しでも逆らうものが出たら何をされるかわからない。

 そう、住民たちは怯えていたのだ。

 だから住民たちの間でも、アイリーンの兄や叔父たちを吊るしてしまおうという過激な意見も出た。

 怒りを買った二人が悪いという理屈である。

 さすがにアイリーンもそれでは寝覚めが悪いので、親戚には一切手出し無用のお触れを出した。

 そこまでやってようやく事態が終結した数日後、アイリーンたちはまだベイトマン領にいた。

 レベッカもドラゴンたちも一緒なので、多少予定が伸びても問題なかった。

 なにせ、やらなくてはならない事は山のようにある。

 領内の街や村、その全てに「領主変更のお知らせ」の布告を出したり、無駄に高い税率を下げたりしなければならなかった。

 アイリーンとしては、エルフの街から持ち帰った苗や果物の栽培を命じたかったが、農民たちの強硬な反対により実現は難しそうである。

 これは仕方がない。むしろクリスタルレイクの人間の頭が柔らかすぎるのだ。

 儲かるかどうかわからないものを作るよりは、今までの生活を維持したいと考えるのは当たり前である。

 クリスタルレイクの住民のように、戦災で全てのをなくして、人生最後のチャンスに賭けるしかなかったのとは違うのだ。


(めんどくさいなあ)


 アイリーンの本音である。

 故郷に関われば関わるほど面倒になっていく。

 それがアイリーンの悩みだった。


 一方、アッシュはレベッカたちと遊びまわっていた。

 小さい女の子の格好ができるようになったレベッカと、子ども軍団になったドラゴンたちと今日も遠足である。

 ちなみに対外的にはレベッカはアイリーンの娘、ドラゴンたちはブラックコングの子ということになっている。

 アッシュは廃墟になったベイトマン邸近くの丘に来ていた。

 小さいころにアイリーンがよく遊びに来た丘である。

 レベッカとドラゴンたちは歌を歌いながらアッシュの後ろをついてきていた。

 ベルやクリスも一緒についてくる。


「たぬきー♪ くもー♪ からすー♪ たーぬきはお酒がー好きー♪ くーもはケーキが好きー♪ からすはキラキラがー好きー♪」


 意味不明な歌詞だが、これでもクローディアの作である。

 基本的にクローディアの作る歌はカオスである。

 丘に着くとアッシュの作ったサンドイッチを広げてランチタイムである。

 ハムやオムレツを挟んだパンが並ぶ。


(ちなみにこの間もアイリーンとセシルは仕事の真っ最中である)


 ドラゴンたちは美味しそうに笑みを浮かべながらご飯を食べる。

 にっこにっことして幸せそうである。

 アッシュもオムレツを挟んだものは出来が良かったと思って満足した。

 食べ終わるとドラゴンたちは追いかけっこや、かくれんぼをして遊んでいた。


「行くよ~♪」


「あ~ん、まって~」


 微笑ましい光景だ。

 ベルも幸せそうだ。

 するとベルはアッシュに話しかける。


「この土地も穏やかになりそうですね」


 ベルはアイリーンといると一歩引いてしまうのでアッシュと話すのは珍しい。

 アッシュは少しびっくりしながらも答える。


「ええ、アイリーンだったら誰にも損をさせないでしょう。こういう土地が増えてくれれば世の中良くなるでしょうね」


 アッシュは笑顔で言った。

 アイリーンを褒められてベルも「そうですね」と少しうれしそうに同意した。


「そう言えばアッシュ様、ご存じですか? ベイトマン領にもドラゴンの伝説があるんです」


「へえ、各地にあるんですね」


 初代皇帝の伝説はあちこちにある。

 だが瑠衣も「ほとんどはガセネタです」というほどだ。

 他のドラゴンの封印は見つかっていない。


「我々の土地はここ100年程度の開拓地ですから。まずありえません。昔は小さな村だったそうです」


「へえ。極端に寒い地方ってわけじゃないし、植物が育ちにくい土質ってわけじゃないですよね? 森もありますし。それで小さな村って珍しいですね」


 小さな村というのは大抵不便だったり、植物が育たなかったりと致命的な理由がある。

 住民を食わせる事ができないから人がないのだ。

 クリスタルレイクの場合、「国境沿いのため戦災で焼けた」というのが理由である。

 それに比べたらベイトマン領が発展しない訳がない。


「それが不思議なんです。ベイトマン家のみなさんは無能ですが、民をいたずらに苦しめるほどの突き抜けた暗愚ではありませんし」


 不思議である。

 するとレベッカが手を振りながら走ってくる。


「にいたーん!」


 それは珍しい姿だった。

 微妙に焦っている。


「どうした?」


「あのね、あのね、追いかけっこしてて丘の上の石を触ったの。そしたらバーンって!」


 アッシュとベルは嫌な予感がした。

 まさか!

 アッシュはレベッカを抱っこすると走った。

 ベルも走る。

 丘の上は変化していた。

 元は岩があるだけの殺風景な光景だったはずだ。

 だが丘の上には寺院が、本山の寺院のような建物が現れたのだ。

 アッシュは目を丸くする。

 ベルも口を開けて驚いていた。


「あのね、あのね。レベッカが石を触ったら出てきたの!」


 レベッカは一生懸命説明する。

 ドラゴンたちも「なんだろうね?」と首をかしげていた。

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