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ブラックコングを説得しよう

 カニパーティが終わると、クリスタルレイクの財務大臣と化したブラックコングとの打ち合わせが始まる。

 酒場を借りての会議である。

 ブラックコングは文句のつけようのない善人である。

 タヌキたちも興行を丸投げしたほどだ。

 だが、天然だらけの面々に普通の話し合いができるはずがない。

 アイリーンが開会を宣言する。


「今日のお題は『ブラックコング、いいかげん結婚しちゃえよ』である」


 パチパチパチとアッシュ、カルロス、アイザックが拍手する。


「ちょっーと、お前ら! おかしいだろ!」


 ブラックコングが怒鳴る。

 ちなみにお相手のルーシーは子どもたちの世話をしている。

 同じくベルもレベッカやドラゴンちゃんたちの世話にまわっている。

 適材適所である。


「だいたいなー! ルーシーは……うちの商会の筆頭支配人で、俺の……娘……?」


 ブラックコングは首をかしげた。

 自分でもわからないらしい。


「俺が最初に引き取った娘だ」


 ブラックコングは、その顔に似合わない小さな声で言った。


「大丈夫だコング」


 カルロスが生暖かい視線をコングに浴びせた。


「そこのアイザックも助けた少女と結婚した。いわば、先駆者だ」


 アイザックは音を立てずにカルロスの後ろに立つとカルロスの頭目がけてヘッドロックをした。

 ギリギリと締まる。


「ぐ、ぐおおおおおお。痛い、痛てえよ、アイザック!」


 アイザックは無表情だった。

 それが逆に怖い。


「俺の結婚は帝国法にも騎士規則にも反してない。それに村長ガウェインとアイリーン様のお墨付きだ」


 ぎりぎりぎりぎり。


「わかった! 俺が悪かった!」


 カルロスはパンパンとテーブルを叩いた。

 ギブアップしたのを確認するとアイザックはカルロスを解放する。


「仲いいな……お前ら」


 アイリーンも呆れ顔である。


「それで……本人はどうなんだ?」


 話が進まないと思ったのかアッシュが聞いた。


「やめてくれよ兄弟。アイツとはそう言うんじゃ……ない……ような気が……する……ような?」


 しどろもどろである。


「どう見ても夫婦だろ。子ども連れの幸せ家族にしか見えんぞ」


 アイリーンの言葉にブラックコング以外の全員が肯定する。


「おまえらー!」


 ブラックコングは怒鳴る。

 だが迫力がない。


「お前ら……年齢差を考えて見ろ、13歳も離れているんだぞ!」


 ようやく反論のようなものが出る。

 するとアイリーンたちはアイザックを指さした。

 ブラックコングは冷や汗を流す。


「うちは7歳差ですって。あとで絶対に仕返しするからな。お前ら覚えとけよ!」


 アイザックをからかうのはこれくらいにして、アッシュたちはブラックコングに詰め寄る。


「確かにこういったデリケートな問題に無理強いは良くない。……でも思うのだ。少なくともルーシーの貴殿を見る目は恋人に向けるものだ!」


 アイリーンが言い切った。

 目はキラキラ、お肌はツヤツヤだった。

 どんな話でも恋愛に結びつけるモードである。

 アッシュは素直に『アイリーン凄いなあ。さすが女の子』と感心していた。

 だがアイザックたちは違った。


『いいかげんな事を言うな! この、ぽんぽこ村の名誉男子!』


 二人とも己が仕える主に心の中で全力で罵声を浴びせた。

 だがブラックコングは頭を抱えている。

 地味に効いていたのだ。


「見ないようにしていた……ルーシーは娘ってよりは年の離れた妹みたいな存在だった。いつまでもこのままじゃいけないと思いつつも甘えてしまった」


「わかっている。私もアッシュとの仲を邪魔する連中を全て滅ぼさなければ前に進めないんだ」


『はい?』


 アイザックとカルロスは思った。

 確かに間違ってない。

 だがとうとう言い出したのだ。

 ぽろっと心の内に隠していた本音が漏れたのだ。


『帝国のせいで結婚できないじゃないか! いいかげんにしないと滅ぼすぞ!』


 アイザックとカルロスの二人は頭を抱えた。

 やはり怒っていた。


『統治する力がないから滅ぼさない』


 それはクリスタルレイクの安寧を優先した建前だった。

 本音では今すぐ滅ぼしたかったのだ。

 そう、アイリーンのツッコミ力が弱まっていたのはストレスのせいだったのだ。


『怖ッ!』


 大抵のことは怒らないし、広い心で受け止める

 それがアイリーンだ。

 だが怒っている。

 完全にヘソを曲げていたのだ。


「だから、関わったカップルには幸せになって欲しいのだ」


 それは晴れやかな笑顔だった。

 ブラックコングとアッシュはそれを額面通りに受け取った。

 二人は泣いた。感動で。

 そのアイリーンの心の清らかさに。

 だがアイザックとカルロスは違った。

 二人はアイリーンとの付き合いが長い。

 だからこそわかった。

 アイリーンは心が広い。細かいことは気にしない。

 貴族の娘として、そう育てられている。

 だがキレたときは容赦がない。徹底的に潰す。

 これも貴族としての教育である。

 力のない昔だったら笑い事ですんだだろう。

 だが今はアッシュがいる。

 帝都を滅ぼす力を持っているのだ。

 今のアイリーンは、いつ爆発するかわからない爆弾である。

 二人は慌てた。


「アイリーン様! それと演劇の話も……」


 話を変える。

 この話題を続けるのは危険だ。


「ああ、そうだな。叔母上……クローディアがブラックコング一行に舞台を見て欲しいそうだ。はい木札」


 アイリーンは木札を渡す。

 それをブラックコングは素直に受け取った。


「ありがとよ……とこで叔母上って……あの姉ちゃん貴族なのか?」


 アイリーンは微妙な顔をする。


「ああ、遠縁なのだ」


「なるほど。貴族にはよくある話か」


 この場合、一族の誰かの婚外子かという意味である。

 本当によくあることなのでスキャンダルにすらならない。


「まあな。貴族にはよくある話だ」


 アイリーンはあいまいに返事した。

 まさかクローディアが初代皇帝の寵姫とは言えない。


「まあ、ちょうど良い機会だ。真剣に考えるよ。まったくブラックコング様もヤキが回ったぜ。こんなお嬢ちゃんに説得されるなんてな」


「ふふ……そう言うな」


 アイリーンが笑顔になる。

 それはストレスがいくらか減った顔だった。

 アッシュもつられて笑う。


「ああー、それと」


「なんだ?」


「でっかいタヌキがうろついているんだが……あれは……? いや、いいヤツなんだけどな」


 アイリーンがピタッと止まった。


「あれは……深く考えるな……そういう生き物だ」


「あー……あの、やたら綺麗な姉ちゃんと……」


 おそらく瑠衣のことである。


「同類だ」


「わかった。深く考えるのはやめる」


 かなりクリスタルレイクに毒されてきたブラックコングであった。

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