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ノーマンの船

 アイザックたちは街を探索していた。

 『約束の村』や『旅立ちの街』と同じように木製の建物が並んでいる。

 アイザックは民家の一つにふらっと立ち入ると棚を漁っていた。

 中はホコリが積もり、床は湿気を吸ってめくれている。

 それを見てオデットが呆れた声を出した。


「ちょっと~、アイザックさん、なに漁ってるんですか? そういうのは感心しませんよ」


「違うよ。見ろ、食い物が全くない」


「だからぁ~、やめましょうよ~」


「だから違うって、食い物を誰が食ったかが問題なんだよ。襲われて逃げたなら食料は残るだろ?」


「……あ!」


 オデットが声を上げた。


「森に避難してるとか?」


 アイザックが希望的な言葉を紡ぐ。

 だがオデットはわかっていた。


「それか……誘拐されたか、殺されたか……」


「どれも証拠はないけどな。あとそこの柱を見ろ」


 木の柱は白く変色している。


「汚いですね」


「床も今にも抜けそうだ」


「どういう意味ですか?」


「木造の家ってのは人間がメンテナンスしないと、あっと言う間に住めなくなるんだ。この湿度にもよるがな。この辺は結構湿気があるよな」


「そうですね」


「そうか。それでこの辺はみんな木造建築だよな? 石じゃなくて?」


「そうですね。木と漆喰ですね」


「そうか。良く聞けオデット」


 アイザックが真面目な顔をした。

 いつもいい加減なふりをしているアイザックにしては珍しい表情だ。


「はい、なんです? そんな真剣な顔をして……」


「なるべく音を立てないように慎重に、かつ急いで外に出ろ」


「その無茶な指令はなんですか!?」


「崩れる。柱が中まで腐ってる」


「んぎゃああああああ!」


「暴れるな!」


 アイザックは焦って暴れるオデットを捕まえてゆっくり民家から出る。

 一見すると誘拐犯とさらわれる女性である。

 外に出るとオデットはため息をついた。


「酷い目にあった……」


「それは俺の台詞だ」


 アイザックもため息をつく。

 すると屋敷の屋根にあった瓦がガラガラと落ちてくる。

 しばらくするとバリバリと裂けるような音がして天井が落ち、民家は崩れてしまった。


「……危なかったな」


「……アイザックさん」


「なんだ?」


「あ、あれ……」


 オデットは瓦礫と化した民家を指さす。

 その指は震えている。

 民家から大量の何かが這い出してくる。


「な、なんだ!」


 それは大量のヤドカリだった。

 地面を埋め尽くすほどのヤドカリがオデットとアイザックを避けて海を目指して走っていった。

 アイザックは鳥肌が立つ。

 無害な生き物だとわかっていても大量にいるのはビジュアル的にキツい。


「オデット大丈夫か?」


「……」


 アイザックが声をかけるが返事がない。

 アイザックはオデットの肩に触れ、その顔を見た。

 オデットは白目を剥いていた。

 よだれも垂らしている。


「気絶してる……」


 不良ぶっているがアイザックは騎士であり、その本性は紳士である。

 セシルの時も上手にフォローして見なかったことにした。

 少々空気が読めず、しかも性格が悪くてイライラさせられることがあるオデットであっても、紳士的に対応する。

 とりあえず広場までお姫様抱っこをして運ぶ。

 広場には石製のベンチがあったのでそこにオデットを寝かせる。

 さわさわとした心地よい風が吹く中、オデットが起きるのを待つ。

 これが男なら水を汲んで来て顔にぶっかけて起こす所だが、線の細いオデットにその仕打ちをする気にはならない。

 ひたすら待つ。

 アイザックはひたすら嫌な予感がしていた。

 そしてその背後からにじり寄るものがあった。


 一方、船ではアッシュたちが釣りをしていた。

 大砲の横に座り大砲用の窓に腰をかけている。

 レベッカはアッシュの膝の上で釣り竿を垂らしていた。

 レベッカは無言で竿を見つめている。

 尻尾がゆっくりと揺れている。

 どうやら楽しいようだ。

 アッシュが心地よい海風を受けてボケッとしていると、竿がしなる。


「あ!」


 レベッカの尻尾が激しく揺れ、アッシュは竿をつかむ。


「いくぞー。レベッカ」


「あい」


 「ほいっ!」とアッシュが声を上げ一気に釣り上げる。

 腕力まかせの強引なやり方である。

 よくわからない赤い魚が釣り上げられる。


「わーい!」


 レベッカが喜ぶ。

 なにせ大きい。

 アッシュは『見たことのない魚だなあ』と首をひねる。


「うーん……ノーマンの魚っぽいですね」


 後ろで見ていた海賊がアッシュに言った。


「へえ、毒は?」


 それが一番重要だ。


「ないッス」


「味は?」


「寒いところの魚と違って淡泊ですよ。帝国の魚の方が脂がのってて美味いっすね」


「ノーマンではどうやって食べてる?」


「干物にして焼くか、スープに入れるか、細かくして薬味と炒めてパンに塗るとかですねえ」


「なるほどな……わかった。夕食はこれにするわ」


「楽しみにしてますぜ」


 レベッカは目をキラキラさせながら尻尾を振っている。

 すっとアッシュを見ている。


「はい、偉いなあ。頑張ったなあ」


「あい!」


 なんだかほんわかとした光景だった。

 だがそれをぶち壊す怒鳴り声が聞こえてくる。


総員(野郎ども)、すぐに持ち場につけ。ノーマン旗の船が接近して来やがった!」


 カルロスの怒鳴り声だ。

 やたら良く通る。


「お、キャプテンがやる気出したな」


「船ではああ(・・)……なのか?」


 いつもとキャラが違う。


「あー……親父さんより凶暴ですよ」


 海賊がそう言うと檄が飛ぶ。


「今から本艦は戦闘に入る。さっさと持ち場へ向かえ!」


「じゃあ俺はこれで。アッシュの旦那は甲板へ向かってくだせえ」


「ああ、わかった」


 アッシュは甲板へ向かう。

 甲板に着くとアイリーンもいた。


「アッシュさん」


 カルロスが手を振る。

 いつもと変わらないカルロスだ。

 とても船長には見えない。


「こいつを見てください」


 カルロスはアッシュへ望遠鏡を投げてよこす。

 アッシュは望遠鏡を受け取るとカルロスの指さす方を見る。

 アッシュたちの船より一回り以上大きい船が見えた。


「ノーマンの旗ですよ。ただし甲板には誰もいない。帆を直す人員すらいない。どう思います?」


「大砲を用意してるとか? 大丈夫なのか? のんびり見ていて?」


「まだお互い射程距離までかなりありますからね」


「俺が攻撃するか?」


 アッシュなら攻撃が届くだろう。


「それだと皆殺しなので、できれば向こうさんのクルーを捕らえて情報を引き出したい。普通に拿捕しますよ」


 アイリーンが額に皺を寄せた。


「できるのか? 向こうの方が大きい船だが……」


「できますよ。死ななきゃね」


 カルロスは屈託なく笑みを浮かべる。

 良く見るとカルロスの近くにいた海賊たちは額に汗を浮かべている。

 膝も震えていた。


「大丈夫か……?」


 アイリーンも首をひねる。

 自分の腹心たちは大丈夫なのか?

 壊れてないか?

 本気で悩むアイリーンだった。

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