表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンは寂しいと死んじゃいます ~レベッカたんのにいたんは人類最強の傭兵~  作者: 藤原ゴンザレス
第一章 幸せのドラゴン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/254

果樹園と悪魔の注文書(お菓子)

 アッシュたちは口を開けて呆けていた。

 盗賊という名の食料を確保した瑠衣の魔法は一晩にして果樹園を出現させたのだ。

 木にはすでに食べてくれと言わんばかりに色とりどりの果実がなっていた。


「にいたん。果物さんとろー」


 レベッカは大喜びで果実園に走って行く。


「おーい転ぶなよ」


 アッシュもベルもレベッカを追いかける。

 ところがレベッカがこてっと転ぶ。


「うにゃああああああああああああん!」


 レベッカがバタバタともがいた。


「もうしょうがないなあ」


 アッシュが抱き上げようと近づく。

 すると今まで見ていたアイリーンがアッシュを制する。


「ダメだ。アッシュ殿」


「え?」


 アッシュがポカーンとしているとアイリーンがレベッカに近づきその場でしゃがみ込んだ。


「レベッカ。一人で起き上がりなさい」


 レベッカは涙をにじませながら一瞬アイリーンの顔を見る。

 そしてこくんと頷くとよたよたと起き上がる。

 それを見たアイリーンはレベッカの頭をなでる。


「よしよしいい子だな」


「がんばりましたー」


「うん偉い偉い」


「お姉ちゃんありがとうです」


 レベッカは得意げな顔になって尻尾を振る。

 アイリーンはレベッカを褒めると立ち上がって今度は厳しい顔をしながらアッシュの胸を指でつつく。


「アッシュ殿。ベル。甘やかしてばかりだと何もできない大人になってしまうぞ。ドラゴンは人間より長命なんだ。私たちがいなくなったらレベッカが困るぞ」


「うっ……」


 アッシュは図星を指されて黙る。

 どうやらアイリーンはなんでも自分でできるタイプのようだ。

 それを見たベルがつぶやく。


「まるでアイリーン様が父親のようです……」


「私が父親ならアッシュ殿が母親でベルが知らないオバサンだな」


 アイリーンも負けじと反撃する。

 落ち着いた顔こそ大人びているが、まだベルはギリギリ少女といってもいい年齢である。


「ううっ……アイリーン様酷いです」


 アッシュたちに言いたい放題言うとアイリーンは仕返しをしたとばかりにふふんと笑った。

 そのときアイリーンは昔を思い出した。

 それはアイリーンがまだベイトマン家のその他大勢のように何もできなかった頃にクリスタルレイクにやって来たときの思い出。

 アイリーンは果樹園が大好きだった。

 アイリーンが一人で果樹園に来ると一人の男の子がいたからだ。

 麦わら帽子を被った年上の男の子だった。背が高くてぶっきらぼうで日に焼けた顔で乳歯の抜けたすきっ歯を見せて笑う男の子だった。

 彼はまるで兄のようにアイリーンの世話をしてくれた。

 アイリーンは彼に会うのが楽しみでしかたなかったのだ。

 いつもアイリーンは彼の背中にくっついていた。

 彼は奉仕活動で果樹園の手伝いをしている子だった。

 奉仕活動が孤児院の子に課せられた強制労働だと知ったのは戦争が始まった頃だろうか。

 彼は孤児院の子どもだった。

 でも男の子は優しい男の子だった。

 アイリーンが同じように転んだときに近寄ってきて自分で起き上がるまで待っててくれたのだ。

 アイリーンは貴族だ。着替えだって自分でできないのが普通だ。

 でもアイリーンは男の子のおかげでそれじゃダメだと覚ったのだ。

 アイリーンを作ったのはその男の子と言えるかもしれない。

 できればもう一度会ってみたいものだ。

 アイリーンはそう思うとアッシュやベルに向かって言った。


「とにかくだ。レベッカにはなんでもできる子になってもらうぞ」


「あの……アイリーン様。ずっとここにいるつもりですか?」


 ベルにそう言われてアイリーンはガンと頭を殴られたような気分になった。

 ベルの言うことは図星だった。

 まさにアイリーンの本音を突いていた。


「あ、あう、それは……だな」


 アイリーンはようやく自覚した。

 アイリーンはここにいたかったのだ。

 居心地が良かったのだ。

 気に入っていたのだ。レベッカがいてアッシュがいてベルがいて瑠衣がいる生活が。

 この生活をずっと続けたかったのだ。


「戦争さえ終わればここにいるのも悪くないなあと……なあアッシュ殿?」


「大歓迎です」


 アッシュもまた同じだった。

 極端に友人が少ない……いや顔のせいか友人と呼べるだけの人間関係を他人と結んだことのないアッシュには彼女たちは数少ない友人だったのだ。

 アイリーンは素直に好意を向けられると恥ずかしくなって顔を赤らめた。

 アイリーンもまた友人に飢えていたのだ。


「ヒューヒュー」


 ベルがからかうとアイリーンは手を振りかざしてベルを追いかけながらポコポコと叩く。

 それをベルはヒラヒラと舞うように器用に走りながら逃げる。


「やめろー!」


「へっへーん。捕まりませんよーだ」


「なにをー!」


 アッシュは微笑ましいなあとニコニコする。


「にいたんにいたん。二人は仲良しさんですね」


「そうだねー。おーい二人とも果物取るぞー!」


「おお、アッシュ殿今行く」


 果実園に着いたアッシュは目を見張った。

 プラムと柑橘類が同時期になっている。

 完全に季節を無視している。

 やはり瑠衣は本気のようだ。

 肩車されたレベッカは無邪気にピコピコと尻尾を振りながら喜んでいた。


「わー。果物がたくさん!」


「冬の果物と夏の果物が同時になっているってのは凄いもんだな」


「にいたん。にいたん。とっていいですか?」


「いいよー」


「あーい♪」


 レベッカは近くにあった葡萄をもいだ。


「大きいー!」


「食べてみるか?」


「いいの?」


「いいよー」


 でもレベッカは葡萄に口をつけずに真剣な顔をして考えていた。


「どうした」


「うーんとね。にいたん。みんなで食べた方が美味しいような気がします」


 それを聞いたアッシュは思わず笑ってしまう。


「そうだな。それじゃ一粒だけ味見してみな」


「あーい♪」


 レベッカは葡萄を一粒だけむしるとアッシュに残りを渡す。

 アッシュはレベッカから受け取った葡萄をカゴに入れた。

 レベッカは真剣な顔で葡萄を剥く。

 白くジューシーな果肉が現れるとそれを口に入れる。


「わー美味しい!」


「良かったな」


「あい」


 アッシュは暖かい気持ちになって葡萄に目を向けた。

 すると何か札のようなものが下がっている。


「なんだろうこれ?」


 アッシュが札を手に取るとそこには


 『葡萄のブラン・マンジェ』


 と書かれていた。

 アッシュは「ん?」と考えた。


「にいたんにいたん」


「なあにレベッカ?」


 「梨さんのところにこれがありました。」

 アッシュはレベッカに渡された札を見る。


 『梨のコンポート』


 だんだんとアッシュはそれが何を指しているかわかってきた。


「おーいアッシュ殿。そこのオレンジの木にこんなのがあったぞ」


 アイリーンが札を持ってくる。


『オレンジケーキ。それとマーマレードも(重要)』


 やはり札には料理の名前が書いてある。

 というかマーマレードも欲しいらしい。

 これは注文書に違いない。

 アッシュは確信した。

 全て瑠衣の好きなものに違いない。


「アッシュ殿。こんなものがありました」


 今度はベルだ。


「なんの木ですか?」


「えっとイチジクです」


「タルトですか?」


「あ、はい。なぜおわかりに?」


 それはアッシュの料理人としての勘だった。

 アッシュは笑った。

 アッシュは作る手間よりも気に入ってもらえたことが心底嬉しかった。

 だって悪魔がアッシュのお菓子を欲しているのだ。

 アッシュはつい数日前まで自分自身が戦争以外でこんなに必要とされてるなんて思いもしなかったのだ。

 それが今では自分を必要としてくれる友人に囲まれているのだった。

 アッシュは俄然やる気を出した。

 レベッカに向かってにっこりと微笑む。


「レベッカ。ブラン・マンジェ作るぞ」


「それはなんですか!」


 レベッカは期待に満ちた顔をして尻尾をブンブンと振った。


「甘ーい牛乳豆腐だ。そこに葡萄を入れるんだ。美味しいぞー。瑠衣さんが大好きなんだって」


 レベッカは目をキラキラさせる。


「にいたんの作ってくれるお菓子大好きー!」


「レベッカはお手伝いできるかな?」


「できるー」


 子ドラゴンのお手伝い。

 それこそ万魔をお菓子で従わせた最強の魔人とその従者たちの伝説のはじまりなのだが、まだ彼らはそれを知らなかった。

 いや早くもお菓子の魅力に陥落した瑠衣だけは知っていたのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ